金は逃避買いで上値を試す、ウクライナ情勢の行方が焦点に<コモディティ特集>

特集
2022年2月16日 13時30分

金(ゴールド)の現物相場は、インフレ懸念の高まりやウクライナ情勢の緊迫化を受けて上値を試し、昨年6月11日以来となる高値1879.15ドルを付けた。

インフレ圧力の高まりを背景に、1月の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、3月にフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を引き上げることが示唆された。パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長は記者会見で、高インフレを定着させないために金融政策を変更する際には偏見のない姿勢で臨むと言明した。また、1月の米消費者物価指数(CPI)が前年同月比7.5%上昇し、事前予想の7.3%を上回り約40年ぶりの伸び率になったことを受けて、米セントルイス地区連銀のブラード総裁は3月に50ベーシスポイント(bp)の利上げを実施し、7月1日までに100bp引き上げることを望むと述べている。

ウクライナ情勢の緊迫化を受けてエネルギー価格が上昇しており、金にとってはインフレを制御できるかどうかが焦点となる。ロシアが北大西洋条約機構(NATO)の東方不拡大を要求してウクライナ国境付近で部隊を増強したことに対し、米政府が米軍部隊をポーランドやルーマニアなどに派遣すると発表すると、地政学的リスクが意識され、緊張が高まった。ロシアのプーチン大統領が欧米の各国首脳と会談したが、現段階では進展は見られず、プーチン大統領はNATO不拡大などの要求について実質的な回答を得ていないと述べている。ロシアによるウクライナ侵攻の可能性が高まっているとし、欧米諸国がウクライナからの退避勧告を出すと、金ETF(上場投信)に逃避買いが入った。

ウクライナのゼレンスキー大統領は同国のNATO加盟を目指すと強調するとともに、ビデオ演説で「ロシアによる侵攻は16日に行われるとの情報を得ている。我々はこの日を連帯の日にする」と、連帯を示すために国外に避難した要人に帰国するよう呼びかけており、実際にロシアが侵攻するかどうかが当面の焦点である。ただ、ロシアのラブロフ外相は、プーチン大統領に外交路線を継続するよう提案している。15日には軍事演習を終えたロシア軍の一部部隊が基地への帰還を開始したことが伝えられた。分離主義派がウクライナ軍と戦っているウクライナ東部2州に特別な憲法上の地位を与えるミンスク合意(2014~15年)を復活させて妥協点を探るとの見方もあり、今後の協議の行方を確認したい。

●欧米はロシアのウクライナ侵攻で経済制裁を警告

主要7カ国(G7)の財務相は14日、共同声明を発表し、ロシアに対してウクライナに侵攻すれば経済的な代償を払うことになると警告した。米国とその同盟国は、経済制裁の対象となるプーチン大統領に近い財閥らのリストを作成していると報じられている。また、米独首脳会談においてバイデン米大統領がロシアとドイツ間の海底ガスパイプライン「ノルドストリーム2」の稼働を阻止すると述べており、ロシアがウクライナに侵攻すればエネルギー価格の高騰は避けられないだろう。一方、欧米諸国が経済制裁を実施する事態になれば、ロシアが報復として半導体製造に不可欠なネオンやパラジウムなどの資材供給を停止するとの見方も出ている。米国の半導体製造に使われているネオンの90%以上がウクライナ産、パラジウムの35%がロシア産だという。ホワイトハウスの高官は「ロシアが資材の供給網に干渉するような行動を取った場合の混乱に備えるために、企業と連携して供給源の多様化を模索している」と述べ、侵攻に備えた動きも出ている。

●SPDRゴールドに投資資金が戻る

世界最大の金ETF(上場投信)であるSPDRゴールドの現物保有高は1月18日の976.21トンを当面の底として増加に転じ、2月15日に1019.44トンとなった。インフレ懸念の高まりやウクライナ情勢の緊迫化を受けて投資資金が戻っている。ロシアのプーチン大統領の決断と投資資金の動向を確認したい。

一方、米商品先物取引委員会(CFTC)の建玉明細報告によると、ニューヨーク金先物市場でファンド筋の買い越しは昨年11月16日時点の25万9780枚を当面のピークとして縮小に転じ、2月1日時点で17万2142枚と昨年9月28日以来の低水準となった。8日時点では18万6706枚となっている。米連邦準備理事会(FRB)の利上げ見通しを受けて手仕舞い売りが進んだが、2月に入ってからの急伸を受けてテクニカル面は改善しており、買い直されたとみられる。

(minkabu PRESS CXアナリスト 東海林勇行)

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