相場のショックは好機と、バリュー株主軸で7億円超え
第33-1回 強い投資家はどんな人~日本株投資家3900人調査で解明!(ケーススタディ編)
登場する銘柄
日本株投資歴30年以上で、2019年12月にコスモ・バイオの大株主として登場。日本株だけで7億5000万円。30年以上前に市役所を退職し、家業に従事しながら株式投資を始めた。投資スタイルは初期から割安成長株狙い。多くの不動産を保有する関東在住の資産家。趣味の将棋はアマチュア四段の腕前。
バイオ専門商社、コスモ・バイオ<3386>の大株主で、同社株だけで時価評価額2億円ほど運用しているのが、今回紹介する原田勝幸さんだ。同社の保有株数は21年6月時点で2.36%にあたる14万2600株(参考)となっており、以降も買い増しを進めている。
30年以上にわたる日本株投資で築いた株資産は7億5000万円。信用取引のレバレッジも活用し、主に割安成長株を対象とした分散投資を行っている。
足元では、米国の利上げ開始やウクライナ情勢の緊迫化で、リスクオフモードに切り替わり、投資意欲は減退させられる環境だ。だが、見方を変えれば、ムードに流された売りによって潜在的な企業価値を割り込む銘柄の買い場が到来する可能性もある。
原田さんも過去の下落局面で、不合理な売りをされていると判断した銘柄で大きなリターンを掴んでいる。割安株狙いで資産を膨らましてきた原田さんの投資手法を2回に分けて見ていこう。
チャイナ・ショックで生命保険株に着目、利益2億円
冒頭のコスモ・バイオ株の取引について触れる前に、まず過去最も成功した第一生命ホールディングス<8750>とT&Dホールディングス<8795>の取引を紹介しよう。
2つの株式には、2016年前半に計5億円を投じ17年にかけて利確を進めた結果、合計で2億円のリターンを得ている。
■『株探プレミアム』で確認できるT&Dの過去の日足チャート(2014年6月~17年7月)
きっかけは15年夏に始まった中国発の世界同時株安、チャイナ・ショックだ。そのあおり受け、日経平均株価は15年6月の高値2万952円から16年2月に1万4865円と約8カ月で3割近く下げた。この急落相場に原田さんも影響を受け、ポジションの大半を投げ売った。
その一方で手堅い銘柄への資金シフトを試みた。それが第一生命HDとT&D銘柄だ。この2銘柄に着目したのは、本来の実力とはかけ離れた株価水準に下がったと見たからだ。
両社の中核事業である生命保険業事業は、中国景気の影響をほとんど受けないのに、他の機械株などより下げ幅が大きい。ショック前に比べて株価は半値程度に下がり、PBRも一層割安になっていた。当時の両社の業績を見ると、PBR1倍割れになる理由を見つけにくい。
例えば、第一生命HDは14年3月期から2期連続で2桁の増収増益で、16年3月期は1桁になったが増収増益を維持している。
■『株探プレミアム』で確認できる第一生命HDの長期業績推移
T&Dは15年3月期に増収増益となっているが、その前後の決算期は減収増益や減収減益になるなど、第一生命に比べ見劣りする。だが、15年3月期と16年3月期は営業CFおよびフリーCFともプラスで、株価が短期間で半値になるような業績にはなっていない。
「これは不合理な売りだ」と感じた原田さんは、16年1~6月の急落局面で購入を進めた。その後、上昇トレンドに転じた後に徐々に利確を実行、17年1月に売却を完了した。上のT&Dのチャートと同じように、第一生命HD株もほぼ同じタイミングで売買している。
15年末に9億円超だった株資産は、2銘柄の取得後となる16年11月に10億円を超え、売却が完了した17年1月には11億円を上回った。
1日の利益目標50万円
この生保2銘柄の取引だけを切り取ると、相場のショック時に信用取引を活用した集中投資で成功した印象が強くなるが、実態は銘柄分散を心がけながら上昇相場でコツコツ利益を積み上げてきた。
常時は100銘柄前後を運用し、適宜、利確・損切りを進めている。1日の利益目標は50万円。信用取引を活用してバリュー株を次々に仕込み、含み益が大きいものから利確していくやり方だ。
このスタイルが開眼したのが2000年代前半だ。インターネット証券が台頭し、売買手数料が安くなり、売買回数を気にしなくてよくなった。こまめに利確を行うようになり、小泉純一郎・政権時代の02~06年までの上昇相場では元本1億円が3倍の3億円に膨らんだ。
上昇相場でも急落相場でもリターンを上げることに成功してきた原田さんだが、本人の自己評価は「自分は決して取引が上手ではない」というものになる。それはどうしてなのか。
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