IT人材育成で脚光、DX時代の新旋風「リスキリング」関連株が飛躍へ <株探トップ特集>
―デジタル化加速で企業が従業員の学び直しを支援、政府の進める「人への投資」も追い風―
新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに日本のデジタル化が加速しており、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)への投資も増加している。その一方で、IT人材の不足も浮き彫りになっており、企業がDXを推進する際の足かせになっているといわれている。経団連が2020年11月にまとめた「。新成長戦略」では、企業のDXに伴い社内で新たに生まれる業務に人材を円滑に異動させるためとして、「リスキリング」の必要性を訴えている。IT人材の確保が喫緊の課題であるなか、人材育成や学び直しへの関心も高まっており、関連銘柄のビジネスチャンスは今後、拡大の一途をたどりそうだ。
●深刻さを増すIT人材不足
行政をはじめ多くの企業でDXが急がれるなか、同分野に必要な技術や能力を持つ人材の不足が顕在化している。経済産業省が19年4月に発表した「IT人材需給に関する調査(概要)」によると、30年には最大で79万人のIT人材が不足すると試算。同調査では、日本は既にIT人材不足の問題を抱えているが、今後更に深刻さを増していくとみており、その解消が急務となっている。
これを受けて、政府が昨年6月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2021」(骨太方針2021)でも、社会全体で求められるデジタル人材像を共有して先端技術を担う人材などの育成・確保を図るために、経済界や教育機関などと協力して、教育コンテンツやカリキュラムの整備、実践的な学びの場の提供などを行うデジタル人材プラットフォームを構築することを求めている。
●リスキリングとは
岸田文雄首相も「新しい資本主義」の柱の一つとして、経済成長に向けて「人への投資」を重視する方針を掲げており、3年間で4000億円規模とする施策パッケージを打ち出している。岸田首相が設置した教育未来創造会議でも、高等教育をはじめとする教育のあり方や社会人のリスキリングなどによる 人材育成策の検討が進められており、DX人材の育成を巡る動きは活発化している。
そもそもリスキリングとは、従業員が社内で新たな業務に就けるようにするための学び直しのこと。同じような意味を持つ言葉として「リカレント」があるが、リカレントは自らが大学など高等教育機関で学び直すのに対し、リスキリングは企業が社員に対して今後必要となる仕事上のスキルを身につけさせることをいう。社会人の学び直しということでは同じだが、新しいことを学ぶために、たとえ一時的にでも「職を離れる」必要のないリスキリングのほうが日本人にとっては受け入れやすいだろう。
●米国では既にリスキリングが本格化
リスキリングが既に活発化している米国では、政府が21年3月に発表した雇用計画の一環として、先端製造業や環境分野など成長産業の労働力開発に1000億ドルを投じるとした。もっとも、それ以前から企業はリスキリングに力を入れており、アマゾン・ドット・コム<AMZN>は19年7月、25年までに7億ドルを投じ、従業員10万人のリスキリングを実施すると表明。ウォルマート<WMT>やAT&T<T>も巨額の費用を投じ社員のリスキリングに取り組んでいる。
日本企業では、富士通 <6702> がDX企業への変革を加速させるなかでリスキリング支援を行っており、国内グループの全営業職約8000人を対象にスキルアップ・スキルチェンジ研修を行っている。また、キヤノン <7751> は研修施設を設立してデジタル関連教育を強化するなどしているが、まだ一部の大手企業にとどまっているのが現状だ。
●リスキリングを支援する企業に注目
今後、リスキリングの動きは幅広い企業に広がっていくとみられるが、全ての企業が社内にあるノウハウだけでリスキリングを実施するのは難しい。そこでリスキリングを支援する企業のビジネスチャンスが増えそうだ。
ジェイテック <2479> [JQG]は、機械設計などの技術者に特化した人材派遣会社だが、1月5日にリスキリングやリカレントを通して教育・就職を支援する新規事業「まなクル」を開始したと発表した。同サービスは、同社独自の人材育成カリキュラムや、人工知能(AI)、IoT、クラウドを含む最新技術に関するノウハウを基軸に、法人から個人に至るまで「働くこと」「学ぶこと」を支援する。会社側は、当面の業績に与える影響は軽微としているが、中長期的に業績に貢献しそうだ。
ALBERT <3906> [東証M]は企業向けにAI技術を用いたビッグデータ分析などを提供しているほか、社内教育で培ったデータサイエンティスト育成サービスを提供。「データサイエンティスト養成講座」は、経産省の「第4次産業革命スキル習得講座」の認定を取得している。また、資本・業務提携先であるマイナビ(東京都千代田区)と共同で企業・学生・大学をつなぐDX人材育成サービスの開発にも取り組んでいる。
Institution for a Global Society <4265> [東証M]は、AIを活用した人材評価システムによるサービスを企業や教育機関に提供しており、その一環として、企業におけるDX推進に必要な人材の資質・能力評価と、現状に合わせた人材育成を支援するサービス「DxGROW」を展開している。リスキリングのためには従業員のスキルの可視化が不可欠だが、日本の多くの企業ではその取り組みが十分になされていないこともあり、導入企業を増やしている。
ランサーズ <4484> [東証M]は、個人で仕事を請け負うフリーランスに企業が仕事を発注できるマッチングプラットフォーム「Lancers(ランサーズ)」の運営が主な事業だが、プログラミングやウェブデザインなどを独学で学ぶ人がオンライン上でメンター(助言者)を探せるサイト「MENTA(メンタ)」も運営。昨年7月からは法人向けサービスも開始しており、講習などに比べてきめ細かいサービスが受けられるとして注目されている。
テクノプロ・ホールディングス <6028> は、国内最大級の技術系人材派遣サービスグループで、傘下のピーシーアシストがパソコンスクール「Winスクール」を全国に展開。また、法人研修サービスも手掛けており、年間1500社近くの企業の法人研修を受託している。
インソース <6200> は、研修を中心とした社会人向け教育サービスを手掛けており、講師派遣型研修や公開講座を運営している。足もとでDX研修ニーズが増加しており、3月23日にはサッポロホールディングス <2501> が実施する「DX・IT人財育成プログラム」パートナーに選定され、約150人の「DX・IT推進リーダー」を対象に延べ78日間の研修プログラムを実施する予定だ。
KIYOラーニング <7353> [東証M]は、個人向けのオンライン資格対策講座「スタディング」の運営が主力だが、法人向けの社員教育サービスも展開している。3月9日には、データサイエンス領域での教育事業などを手掛けるデータミックス(東京都千代田区)と連携し、「リスキリング&DX教育パッケージ」をリリース。DXを推進する企業が社員のリスキリングを体系的に行うためのeラーニングと研修をワンストップで提供している。
このほか、DXやSDGsなどの推進ノウハウを無料配信する動画サービスを開始したサーキュレーション <7379> [東証M]、法人向けオンライン学習ツール「Udemy Business」で企業研修向けDX講座を展開するベネッセホールディングス <9783> などにも注目したい。
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