リスクだらけの戸建て再販で独走、強さは「先行者利益の持続」~カチタス
~株探プレミアム・リポート「戸建て業界-勝ち組の条件 第3回」~
第1回「リモート特需後の勝ち組になるのはどこ? 不動産業で気を吐く『戸建て』」を読む
第2回「狭小・変形の穴場開拓で急成長、持続の鍵は『脱・東京依存』~オープンH」を読む
住宅セクターにとって悩ましい要素の1つが、長期的な人口減少による地方の空洞化だ。第1回の記事で住宅情報サイト「SUUMO」の池本洋一編集長が指摘したように、地方が主流の戸建て市場では、人口減少は事業者間の競争激化に発展しやすい。
だがそんな「悲観論」をよそに地方マーケットを基盤にしながら業績を急成長させている戸建て企業がある。中古の戸建て物件の再生・販売を全国展開するカチタス<8919>だ。今期は6期連続の増収増益を見込む(下の図)。
株価は21年11月から軟調な展開だが、コロナ前の2019年末に比べれば50%高い水準だ。TOPIXの+15%や不動産業の▲3%を大きく上回る。
■『株探プレミアム』で確認できるカチタスの長期業績の成長性推移
成長の原動力は、中古戸建て住宅の買取再販で全国展開している点。同社の新井健資社長(下の写真)は「特定の地域で展開する事業者は多く存在するが、全国展開にはさまざまなハードルがあり容易でない」と話す。
事業モデルの根幹は、人口5万~30万人の「地方」にある空き家などの老朽化した物件を低価格で仕入れ、リフォームで付加価値を付けた後に転売するものだ。その内容は社名にも込められており、「カチタス」には「家に価値(カチ)を足す(タス)」という意味が含まれている。
シリーズ3回目は、同社の競争力の源泉と今後の課題について取り上げる。
成長理由は「地方特化」「全国展開」「先行者利益」の3つ
中古住宅の買取再販で同社は独走する状態だ。専門紙・リフォーム産業新聞が実施する「買取再販・年間販売戸数ランキング(2021年)」で1位を獲得(同社IR資料)。2位はグループ会社のリプライス(愛知県名古屋市)で、2社の販売実績は約6000戸になる。
中古住宅には「マンション」「戸建て」の2種類があり、上記のランキングは2つの再販件数を含んだ実績を上から順に並べたものだ。カチタスとリプライスの実績の大部分は「戸建て」の再販件数で、6000戸のうち約5500戸になる。
同社の概算では、戸建てに限れば、同社グループの次にくる会社の販売戸数は約400戸。なので、同社グループの中古戸建の販売数は2番手を13倍以上引き離す計算になる。
このように戸建ての中古再販で同社が独走する理由は、大きく3つある。それは
地方に特化
全国展開
先行者利益
――になる。
地方に特化するのは、都市部に比べて新築物件との価格差が明確になるからだ。例えば、東京都心部の1億円の土地にある中古建物に数百万円のリフォームをしても、地価が高いためリフォームの付加価値を顧客に訴求しにくくなり、「新築物件との差別化が難しくなる」(新井社長)。
同社が地方を中心に販売する中古戸建価格の平均は1500万円前後で、概ねその地域の新築価格の半値程度という。老朽化して取り扱いが難しくなった空き家を安く仕入れているからだ。この安さもあって、戸建ての取得をためらいがちな年収200万~500万円の層から引き合いを増やしている。
■カチタスが再生した戸建て物件 リフォーム前とリフォーム後(右)
2つ目の全国展開については、中古戸建て物件の再販事業と親和性の高い地方で営業エリアを広げることで販売戸数を増やしている。全国展開はどんな事業でも容易ではないが、中古住宅を買取、再販する場合、そのハードルが高くなる。売りに出た物件情報の収集や、建物に瑕疵がなく、次の買い手を見つけやすい物件を探すには相応のノウハウがいるからだ。
そのノウハウを強みに変えているのが3つ目の先行者利益だ。ノウハウを蓄積・伝承し、拠点を広げる基盤になる人材の採用・育成を進めるのは「一朝一夕ではなし得ない難しさがある」と新井社長は言う。
同社は20年以上の年月を費やして、ノウハウを蓄積し、拠点を全国に増やしてきた。足元の全国の拠点数は124で、先行者利益を維持する原動力になっている。
中古戸建て再販にまつわる3つの壁
カチタスが、上に見てきた先行者利益を保ってきた理由をさらに分解すると、この事業には3つの参入障壁がある。1つは先に触れた拠点拡充で、そのほかに「想定外の瑕疵リスク」と「機動的な資金調達体制」の確立がある。
これら3つの壁を、カチタスが乗り越えていく中で、競争力の源泉を生み出してきた(下の図)。今後もそれぞれの強みを維持し、強化していく戦略だ。以下、それぞれについて見ていこう。
■戸建て再販の「全国展開」の参入障壁、カチタスの競争力の源泉と維持・強化策
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