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「年収106万円の壁」が拡大、今年10月の制度改正前に知っておきたいこと

特集
2022年3月17日 10時00分

清水香の「それって常識? 人生100年マネーの作り方-第45回

清水香(Kaori Shimizu)
FP&社会福祉士事務所OfficeShimizu代表
清水香1968年東京生まれ。中央大学在学中より生損保代理店業務に携わるかたわらファイナンシャルプランナー(FP)業務を開始。2001年に独立後、翌年に生活設計塾クルー取締役に就任。2019年よりOfficeShimizu代表。家計の危機管理の観点から、社会保障や福祉、民間資源を踏まえた生活設計アドバイスに取り組む。一般生活者向けの相談業務のほか執筆、企業・自治体・生活協同組合等での講演活動なども幅広く展開、テレビ出演も多数。 財務省の地震保険制度に関する委員を歴任、現在「地震保険制度等研究会」委員。日本災害復興学会会員。

前回記事「80代でも加入9割、知らないと受け取れない親の保険金・給付金」を読む

共働き世帯のうち、どちらかがパートタイムで働く人は、「年収の壁」を意識します。配偶者の扶養から外れて、配偶者の所得税が高くなったり、自分に所得税がかかったり、また社会保険の扶養者から外れるのを避けるためです。

まずパートの年収が103万円を超えると、非課税限度額を超えて所得税がかかるようになります。そして同106万円または130万円を超えると配偶者の社会保険の扶養からも外れます。

厚生年金保険料・健康保険料などを合わせた社会保険料の本人負担分は年収の15%ほどになります。これらが年収から差し引かれ、壁を超える前より手取り収入が減ります。

【タイトル】

年収が150万円を超え201万円までは、配偶者控除(年収1120万円以下対象)が段階的に縮小され、配偶者の所得税・住民税がアップします。

そして今年10月、これまで健康保険・厚生年金保険を負担しなくてよかった年収106万円のパートタイマーでも、負担が必要になる改定が行われます。これによって「106万円の壁」に直面するパートタイマーが増える可能性があります。

詳しくは後述しますが、

従業員数101人以上の事業所に勤めるパートタイマーで、

月額賃金8万8000円以上(年収106万円以上)

週労働時間20時間以上

2カ月以上雇用される見込み

学生でない

――要件をすべて満たす場合、配偶者の社会保険の扶養から外れ、パートの勤務先で社会保険の被保険者になり、社会保険料が天引きされるようになります

一方、社会保険の加入にはメリットもあります。自らのキャリアアップも含め、長い目で見て総合的に判断することが大切です。今回は、上記の制度改正の概要と、今後の働き方と家計を考える材料を確認していきます。

就労調整の要因は「配偶者手当」にも

パートタイマーのうち収入を一定以下に抑える就労調整している人は、約15%になります(厚生労働省資料)。先に触れたように、税や社会保険料の負担を回避するためですが、配偶者がいる女性パートタイマーに限ると約23%に上ります。

就労調整をする理由としては、103万円超で所得税の課税対象になることを挙げる人が最も多くなります。本人の年収が103万円を超えても、150万円までは、配偶者に適用される38万円の配偶者控除は変わりません。家計への影響はさほど大きくならないはずですが、103万円までで就労調整をする要因に、「配偶者手当」の存在があります。

配偶者手当は、民間企業が配偶者のいる従業員に支給する家族手当の1つで、税・社会保険料の対象になる実質的な賃金です。

厚労省の調査では、配偶者手当も含めた家族・扶養関連の手当の平均月額は1万7600円になります。ただし、企業によってまちまちで、中には月額3万円を超える手当を支給する企業もあります。

配偶者手当を支給している事業所の9割が配偶者の収入制限を設けており、かつ半数近くは制限額を103万円としています。

妻の収入が104万円になると世帯手取りが10万円減

パートタイムの収入が103万円を超えて配偶者手当がなくなると、さらにそれ以上働いた場合に世帯の手取り額にどの程度の影響があるか、概算してみます。

パート年収が104万円になると、世帯の手取り収入はマイナス10万円と激減します。収入が131万円になると、妻は夫の社会保険の扶養から外れ、給料から社会保険料が天引きされるように。ただし妻の収入が増えて、世帯の手取り収入のマイナスは若干緩和します。

妻の年収と世帯の手取り収入の推移(40歳以上夫婦のケース)

妻の年収100万円104万円131万円150万円
妻の手取り収入100万円103万円109万円122万円
夫の年収*600万円**582万円**582万円**582万円
夫の手取り収入464万円451万円451万円451万円
世帯の手取り収入564万円554万円560万円573万円
***差額――▲ 10万円▲ 4万円9万円

注:筆者による概算。*収入のうち18万円は配偶者手当。

**配偶者手当がなくなる。***妻の年収100万円の場合との比較。▲はマイナス

妻の年収が150万円では、世帯収入が減る逆転現象はなくなります。妻の年収が151万円以上になると、夫に適用される配偶者控除が段階的に減っていき、配偶者控除は妻の収入が201万円になるとなくなります。ただし、世帯の手取り収入は増えていきます。

上記を踏まえると、妻は年収を103万円までに抑えるか、150万円を超えてより働くかの選択になります。世帯の手取り収入を減らさないためには、いずれかを選ぶのがベターということです。

ただ、家族の多様化や未婚率の上昇などもあり、配偶者手当は時代に合わなくなっているとも指摘されています。有配偶者女性の就労調整の要因となっていることから、国も検討会を設け、配偶者手当の在り方について検討するよう企業に求めています。

既存の制度を見直す企業も出てきており、トヨタ自動車<7203>は2017年、労使間で話し合い配偶者手当を廃止。一方で子ども手当を拡充する見直しを行いました。

人事院の調査では、家族手当を実施する企業の9割以上は配偶者手当を見直す予定がないとしています。しかし手当は、企業の福利厚生制度ですから将来の見直しはあり得ます。配偶者の勤務先の制度が今後どうなるかを注視して、働き方を考える必要がありそうです。

「106万円の壁」が従業員101人以上の企業に拡大される

ここから、冒頭で触れた今年10月から社会保険への加入対象者が広がる内容について見ていきましょう。

まず、原則として、パートタイマーでも、所定労働時間が一般社員の4分の3以上になると、「常用的使用関係」があるとされ、社会保険料を負担しなくてはならないようになります。負担が必要になる目安は、週30時間以上です。

つまり、所定労働時間を週30時間以下に抑えれば社会保険料を負担せずに済みましたが、2016年10月からは、下の表に示したように、事業者の人数や収入、所定労働時間、雇用の継続期間など5つの要件を満たすと、パートタイマーも社会保険の負担が必要になりました(下の表)。

そして今年10月から、事業所の従業員数と雇用の継続期間の基準変更で対象が拡大されることになり、24年10月にも事業所の従業員数で基準が変更されることが決まっています。

■厚生年金・健康保険の加入対象の範囲拡大の状況

時期原則16年10月~今年(22年)10月~24年10月~
所定労働時間週30時間以上週20時間以上同左同左
収入――年収106万円以上同左同左
雇用継続期間――1年以上*2カ月以上*同左
資格――学生以外同左同左
対象事業所――従業員501人以上101人以上51人以上
注: *見込み

16年10月から適用された5つの要件についておさらいすると、1点目の所定労働時間とは、会社と結ぶ雇用契約に定めた労働時間のことで、休憩時間を除く始業から終業までを指します。この契約上の労働時間が、週20時間以上となると対象になります。

しかし、契約上は対象外であっても残業等で恒常的に週20時間以上となる状況が続くと、超過月の3カ月目から被保険者(厚生年金や健康保険の給付を受ける人)になります。

2点目の収入は月額賃金が8万8000円以上、年収換算で106万円以上であることです。ここに結婚手当等の臨時手当や賞与、残業手当、家族手当や通勤手当、皆精勤手当等は含まず、雇用契約での賃金が月額8万8000円以上なのかで判断されます。

3点目の雇用期間について、1年以上継続見込みであること。ただし2022年10月からは2カ月以上と、これまでより短い期間でも対象になります。

4点目は、学生でないこと。

5点目の対象事業所は従業員数の規模で区分けされ、16年10月からは501人以上でした。しかし、今年10月から101人以上となり、24年10月からは51人以上と、小規模の事業所でも対象になるように変更されます。

長い目で見ればメリットが大きい社会保険加入

基準が拡大されて、社会保険に加入することになると、年収の約15%程度の保険料が天引きされます。目先の手取り収入が減るのは痛手ですが、保険料は勤務先が折半で負担してくれます。

また、社会保険の加入には次ページで示したようなメリットがあります。

次ページ 社会保険に加入するメリットは

 

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