ESG最前線レポート ─「石油消費削減のための10項目計画」
第8回 「石油消費削減のための10項目計画」
リサーチチーム 倉橋 麻生
●個人・企業が自主的に実行できる行動変容
前回のレポートでは、国際エネルギー機関(IEA)が今年3月に発表した「EUのロシア産天然ガスへの依存を減らすための10項目計画(A 10-Point Plan to Reduce the European Union's Reliance on Russian Natural Gas)」について紹介しました。今回は、これに続いて発表された「石油消費削減のための10項目計画(A 10-Point Plan to Cut Oil Use)」を詳しく見ていきたいと思います。
ロシアのウクライナ侵攻により、需要・供給において、また価格変動において、石油が予想外の変動に見舞われています。その対応策には、供給を増やすことと需要を減らすことがありますが、私たちが取り組めるのは後者です。IEAは、石油需要が夏場のピークに入る前に、需要を抑制するために先進国がすぐに実行できる10項目の行動計画を提案しました。これらを実行すれば、4カ月以内に先進国の石油需要を、日量270万バレル節約できると推定しており、これは3月時点でIEAが推計した、4月以降のロシア産石油輸出の減少量である日量250万バレルを上回る量となります。
この10項目は、政府主導で進めるべきものもあれば、地方自治体などが直接実施できるものもあります。そして、個人や企業がウクライナ国民との連帯を示しながら、金銭的な節約につながる措置を自主的に実行できるものでもある、とIEAは述べています。では、この10項目について見ていきましょう。
●計画に掲げられた10項目
この計画には、次の10項目が掲げられ、それぞれどれほどの石油需要量の節約になるのか、その効果が具体的な数値で示されています(カッコ内は日量の削減効果)。
1. | 高速道路の最高速度を少なくとも時速10km引き下げ(約29万バレル) |
2. | 可能であれば1週間に最大3日間の在宅勤務(約50万バレル) |
3. | 日曜に都市部での自動車走行を禁止する「カーフリー・サンデー」を導入(38万バレル) |
4. | 公共交通機関の料金引き下げおよびマイクロモビリティ(自動車より小さい移動車両)や徒歩・自転車利用の奨励(約33万バレル) |
5. | 大都市における自家用車の交互利用規制(ナンバープレートによる自家用車の乗り入れ制限を週2回適用すると21万バレル) |
6. | カーシェアリングの普及促進と燃料消費削減の取り組み(一定条件達成で約47万バレル) |
7. | 貨物トラックや商品配送の効率的な運行の促進(約32万バレル) |
8. | 可能であれば飛行機の代わりに高速鉄道や夜行列車を利用(約4万バレル) |
9. | 代替手段があれば飛行機移動を伴う出張を回避(26万バレル) |
10. | 電気自動車や燃料性能の優れた車両の普及促進(10万バレル以上) |
これらの要素と構造的な対策を組み合わせることで、石油需要のトレンドを長期的により持続可能な軌道に乗せることが可能になるとしています。
●気候変動対策とエネルギー安全保障に
この取り組みは、2050年までに温室効果ガス排出実質ゼロをめざす取り組みにもつながるばかりでなく、エネルギー自給率の低い日本では、エネルギー安全保障の強化につながると言えます。しかし、2050年までにネットゼロを達成するためには、2030年の先進国の石油需要を2021年の水準から日量1500万バレル以上削減する必要があるとされており、さらなるクリーンエネルギーへの移行が重要となっています。
投資においても、気候変動への注目度は高まっています。5月末からは、日経平均株価をベースにした「日経平均気候変動1.5℃目標指数」の算出・公表が始まります。環境配慮型の指数は世界標準になりつつあり、2020年4月に適用が始まったEUの指数規則「パリ協定適合ベンチマーク」に、この気候変動型の新指数も準拠しています。ESG投資は、私たちの持続可能な生活を支える上で重要な行動変容の一つと言えるでしょう。
(2022年5月24日 記/次回は6月25日配信予定)
株探ニュース