明日の株式相場に向けて=迷走するFRBと身構える市場
きょう(15日)の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比303円安の2万6326円と4日続落。4営業日合計の下げ幅は1900円を超えた。全体相場には重苦しいムードが漂っている。あすの日本時間午前3時にFOMCの結果が開示され、その30分後にはパウエルFRB議長の記者会見が予定されている。直近、ウォール・ストリート・ジャーナルが報じた政策金利の0.75%引き上げの可能性は、あっという間に投資家のコンセンサスとして浸透し、マーケットは発表前の段階でこれを95%織り込んだ状態とされる。つまり、FRBが事前の観測通り0.75%引き上げたとしても、それは売り方(空売り筋)の立場からみて材料出尽くしということになる。そして、仮に0.5%の引き上げにとどまった場合、これはポジティブサプライズとなり、株価には強力な上昇圧力が働く理屈となる。
売り方と買い方、どちらが精神的優位に立っているかといえば後者であることは自明である。足もとのマーケット、例えばきょうの東京市場ではFOMCを目前に売り方の手仕舞い、つまり買い戻しを誘発する流れが想定され、株価は気迷いながらも高くなるというのが道理である。だが、日経平均の動きは寄り付きこそ前日終値近辺で売り買いを交錯させたが、その後は次第に売り物に押し潰される展開となった。「米株価指数先物がプラス圏でしっかりした動きをみせている割には弱い」(準大手証券ストラテジスト)という声が聞かれた。
これが意味することは、「今回の株価下落局面では空売りがそれほど積まれていないということ」(同)が挙げられる。東京市場では3月中旬から下旬にかけての鮮烈な「三空踏み上げ」がまだ記憶に新しいが、売り方にとってはかなりのダメージだったはずで、その後の戦略に大きな影響をもたらしたことは想像に難くない。「羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く」ではないが、日銀の鉄壁の超緩和策とそれに付随する円安を背景とした日本株優位論が勢いを増すなか、積極的に売り建てることに躊躇するのが人間心理だ。実際、今回の「三空叩き込み」の下落局面では、マーケットウォッチャーから売り仕掛けに関する話があまり聞かれなかった。その結果として導かれる答えが、目先の下げ局面で手仕舞うべき売り玉がない、という状況。きょう後場の日経平均の動きはそれを反映した可能性が高い。
FOMC通過後の欧米株市場、そして日本株市場はアク抜けとなるのかどうか。これについて米国株に詳しい市場関係者は「いったんショートカバーで戻る可能性はあるが、結局は売り直されるのではないか。ヘッジファンドのような短期筋ではなく、もっと長期スタンスのマクロ系ファンドの売りを誘導する可能性がある」(ネット証券マーケットアナリスト)とする。現在の米国株市場にとって、最大のネガティブ材料は何か。それは金利の上昇とそれに伴う米国経済のオーバーキル、即ちリセッション懸念ということになるが、「本当の悪材料はFRBに対する信頼性が完全に失われていること」(同)と指摘する。
確かに、パウエルFRB議長の言動を過去に遡れば、一連の信用失墜の流れは理解できる。最初のうちは、インフレはサプライチェーン問題による一時的な要因によるもので、金融引き締めを急ぐ必要はないというハト派姿勢で一貫していた。それが、旗色が悪くなってから後手に回って金融引き締めの必要性を主張し始め、返す刀でFRBのバランスシート縮小いわゆるQTにも言及。政策金利の引き上げ幅についても25ベーシスの通常モードでは焼け石に水と判断したのか、マーケットとの対話姿勢不十分なまま50ベーシスに引き上げ、直前になって大手メディアを使って75ベーシスが順当という認識を強引に刷り込ませる動きをみせた。FRBがコロナバブルを甘くみたツケを投資家が払っている構図だ。
東京市場に視点を変えれば、まず為替相場が乱高下して壊れた計器の針のようなブレをみせている。株式市場のクラッシュの予兆とは言わないまでも、このまま平常モードに戻れるのか不安がよぎる。きょうのプライム市場では84%の銘柄が下落、更に3市場合計で新安値銘柄は219に及んだ。来週にかけて戻りがあれば、とりあえず保有株のポジションを軽くしておくのが賢明な選択肢といえそうだ。
あすのスケジュールでは、5月の貿易統計、3カ月物国庫短期証券の入札。また、17日までの日程で日銀金融政策決定会合が行われる。海外では5月の中国新築住宅価格動向、スイス中銀の政策金利発表、英中銀の金融政策発表及び議事録の開示、6月の米フィラデルフィア連銀製造業景況感指数、5月の米住宅着工件数・建設許可件数など。(銀)