明日の株式相場に向けて=アベノミクスのDNAを継げるか

市況
2022年7月11日 17時00分

週明け11日の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比295円高の2万6812円と3日続伸した。一時は550円近く上昇する場面もあったが、2万7000円台では戻り売りの厚い壁に阻まれ押し戻される展開となった。値上がり銘柄数自体はプライム市場の88%を占め、ほぼ全面高商状といっても間違いはないのだが、半導体製造装置の主力2銘柄である東京エレクトロン<8035>とレーザーテック<6920>が下げたこと、また前週末の決算発表に注目が集まっていた安川電機<6506>が大幅安に売り込まれたことなどが、全体相場の体感温度を下げたといえる。

今回の参院選は周知の通り自民党が大勝したが、日経平均はセオリー通り買い優勢となったものの多分に迷いも感じられた。市場では「きょうは(全体相場が)高くても安くても手が出しにくいタイミング。アベノミクス の継承が財務省寄りの岸田首相にできるのかという猜疑心に苛(さいな)まれている投資家も少なくないのではないか」(中堅証券ストラテジスト)という声も出ていた。

岸田首相はきょう午後の記者会見で、安倍元首相が凶弾に倒れるという事件に痛恨の念と哀悼の意を表したうえで、遺志を引き継いで拉致問題や憲法改正などの難題に取り組むほか、安倍元首相が遺した功績の上に取り組みを進めていく構えを明らかにした。しかし、アベノミクスのレガシーを継承できるのか、あるいは「本当に継承するつもりなのか」未知数な部分があるのは事実だ。参院選を乗り切った後、予想されている内閣改造で宏池会の色を強くするような動きをみせれば、マーケットからは財務省寄りの政権として途端にソッポを向かれるというケースも考えられる。

英国の金融街シティーで声高に掲げた「インベスト・イン・キシダ」から確かに相場の流れは変わったようにも見えた。しかし、貯蓄から投資へ促す「資産所得倍増プラン」の実感を伴う具体策がはっきりしない。「金融所得課税強化」の話は、勝手に独り歩きして目に見える形でマーケットに大きな影響を与えたのとは対照的だ。

今後、財政支出を伴う経済政策が出てきて、株式市場を安心させてくれるような流れになることを期待したいが、投資する側にすれば見切り発車で前のめりに突っ込んでいっても蛮勇で終わる可能性は否定できない。安倍・麻生のダブルAで支えられていた岸田政権にとって、短絡的に片方の車輪が外れたとはいえないまでも、最大派閥の領袖を失ったことで政治のパワーバランスが崩れることは避けられない。目先はムードに流されず、基本的に相場を冷静に観察する時間帯と考えておきたい。

特に今週については国内外で重要な経済指標の発表が目白押しである。まず、13日水曜日に6月の米消費者物価指数(CPI)の発表が予定されており、この数字次第ではインフレ懸念がまたぞろ相場を大きく揺らす可能性がある。その後も、5月の国内鉱工業生産や6月の米生産者物価指数(PPI)、週末には中国の4~6月期GDP及び小売売上高・工業生産などの発表が予定され、これらを無風で通過できるとは考えにくい。

個別株を見ると中小型成長株への物色意欲が今ひとつだ。きょうはマザーズ指数がマイナス圏で引けており、個人投資家の信用評価損益率も急な改善はなく、追い証多発に向けた綱渡りの状況が依然続いているとみられる。商品市況の下落を背景に、これまでの「コモディティ関連株買い・グロース(成長)株売り」というロングショート戦略のアンワインドが起こっている。これをポジティブに捉え東京市場でも中小型成長株の逆襲に照準を合わせたいところだが、やや時期尚早の感触も否めない。東京通信<7359>、キャンバス<4575>や、直近IPO銘柄のイーディーピー<7794>、マイクロ波化学<9227>のほか、当欄でも複数回取り上げたクシム<2345>あたりが派手な動きを示している。ただ、参戦するのであればその日の板状況を確認しながらの“居合抜きトレード”と割り切っておく必要がある。

あすのスケジュールでは、朝方取引開始前に6月の企業物価指数が発表されるほか、5年物国債の入札が行われる。また、イエレン米財務長官の来日も予定されている。海外では7月のZEW独景気予測指数が注目される。米国ではリッチモンド連銀のバーキン総裁の講演が予定されている。(銀)

出所:MINKABU PRESS

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