明日の株式相場に向けて=「黄金の3年間」はユートピアか

市況
2022年7月12日 17時00分

きょう(12日)の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比475円安の2万6336円と4日ぶり大幅反落。前日とは打って変わってリスクオフ一色の地合いとなった。今週明けにリスクオンの展開となった時は、参院選挙の自民大勝により岸田政権が堅牢な政権基盤を手に入れたとの見方で買いを後押しした、というのが主な解釈だったが、違和感を覚えた向きも少なくなかったのではないか。多分に後付け的な要素が大きい。政権基盤というのであれば、未曽有の事件によってむしろ不安定さを増している。党内は自民党最大派閥の領袖で天性のリーダーシップを発揮していた安倍元首相を失ったことで、扇の要が外れたような状況にあることは察しがつく。次に安倍派を束ねるのは誰というのが、すぐに思い浮かばないのが現状を反映している。

アベノミクスを継承するというスタンスを示してはいるものの、岸田首相に対する疑心暗鬼の念が拭いきれないのが今の東京市場だ。昨年9月下旬、日経平均は暴落途上にあったが、岸田氏が自民党新総裁の座についてすぐに数十兆円規模の経済対策を講じる考えを示した時、マーケットの売りは止まらなかった。その時点で政府は新型コロナウイルス対策で積み増した予算のうち、約30兆円を使い残した状態にあったことから、信頼を得られなかったという背景がある。

今回も内閣改造を経て大規模な補正予算が組まれる可能性が意識されているが、当時と同じような雰囲気が漂う。財務省が5日に発表した一般会計の決算概要では28兆円あまりの使い残しがあるということが改めてクローズアップされた。岸田首相は前日午後の会見で、現在の日本を大きな課題が幾重にも重なり合う戦後最大級の難局と位置づけ、有事の政権運営が求められるとの認識を示したことが伝えられている。

しかし、どうも発言だけで実践が伴わないのではという思惑が株式市場上空を黒い雨雲のように覆っている。これは眼前のすぐ一歩前に広がる景色とは限らない。ひょっとすると遥か遠方の空の青さまで連綿と続く雲が覆い隠すような状況に陥りかねない。下り坂の相場で財政再建に向けたモーションを起こすようなセンスのない政治ほど怖いものはない。2025年まで国政選挙がないという岸田政権にとっての「黄金の3年間」が、マーケットにとってディストピアにならないように切に願っている市場関係者も少なからずいる。

もっとも、きょうの日経平均の急落は国内に原因があるというよりは、日本を含めた世界景気の後退懸念が改めて嫌気されたもの。この景気が悪化することへの懸念というのは、インフレの沈静化や、中央銀行の過度な金融引き締めを抑制する思惑にもつながるものだ。したがって見る角度によって、同じ経済指標でも相場にポジティブに作用する場合とネガティブに作用する場合があるのだが、これははっきりとした境界線が引かれているわけでなく、すべてはその時の地合い次第。前日はロシアとドイツをつなぐ天然ガスのパイプライン停止が欧州経済を一段と悪化させるという思惑を想起させ、一方で有無を言わさずゼロコロナ政策を貫く中国で再び新型コロナ感染者数が増勢にあることから、こちらはサプライチェーン問題と中国の消費減退への警戒感が売りを誘発した。日本でも今朝の取引開始前に開示された6月の企業物価指数が前年同月比で9.2%上昇という高い伸び率で113.8に達し、水準的には統計以来過去最高と伝わった。いわゆる円安進行の悪い部分を見ているわけだが、仮にこれを嫌気するようになると、相場の風向きは一段と厳しくなる。

あすは日本時間の夜9時半に発表される6月の米CPIに耳目が集まる。しかし、きょうはこれに先立ってホワイトハウスの報道官が、このCPIが「非常に高い水準」になるとの見通しを示し、これが米株価指数先物の下げと軟調な日本株に追い打ちをかけた。“泣きっ面に蜂”といったところだが、事前のガス抜きの意味合いもあると思われ、結果的に今晩の米株市場とあすの日本株に良い方向に働く可能性に期待したい。

あすのスケジュールでは、6月の投信概況が大引け後に投資信託協会から開示される。海外では韓国中銀、ニュージーランド中銀、カナダ中銀がそれぞれ政策金利を発表するほか、6月の中国貿易統計、5月のユーロ圏鉱工業生産指数も注目されている。また、6月の米消費者物価指数(CPI)、6月の米財政収支、米地区連銀経済報告(ベージュブック)などにマーケットの関心が高い。(銀)

出所:MINKABU PRESS

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