コロナ禍が普及促進、「ダイナミックプライシング」導入で躍動する銘柄群 <株探トップ特集>
―収益最大化と需要の平準化による混雑緩和に貢献、鉄道分野も導入へ関心高まる―
需給に応じて価格を変動させる「ダイナミックプライシング 」(DP)への関心が急速に高まっている。新型コロナウイルス感染症の影響が長引くなか、店舗や施設では「3密」を避けるために混み合う時間帯や曜日には値段を上げ、閑散時には安い値段をつけることで、人出を呼び込み収益の安定化につながる取り組みとして注目されている。
DPはこれまでにも 旅行や宿泊施設、テーマパークやスポーツ観戦などで導入されてきたが、最近では日常の身近な分野にも徐々に広がりをみせている。DP導入はメリットが多く、今後こうした動きは加速しよう。
●ダイナミックプライシング導入のメリット
DPとは商品、市況、天候、個人の嗜好、販売状況などに関するビッグデータに基づいて、その時々の需給に合った適正な価格を算出し、価格の上げ下げを自動的かつ柔軟に変更する仕組みのこと。仕組み自体は目新しいものではなく、航空機のチケットやホテル・旅館などが繁忙期に高くなり、閑散期は安くなるのはその代表例といえる。ただ、以前は、過去の実績と担当者の勘に頼ることが多かったが、近年では人工知能(AI)などを利用することで、膨大な情報を集め、即時に価格設定ができるようになった。それに伴いチケット販売や飲食店などさまざまな分野でDPを導入する例が増えている。
DPのメリットは収益の最大化を図るところにある。人気のある商品は高く、あまり人気のない商品は価格を安く設定することで、適正な価格を享受しながら、売れ残りをなくすことができる。
例えばスポーツの試合では、チームが優勝争いをしていたり人気選手が出場する試合は価格を高めに設定し、反対にチームの状態が悪い時や雨天の場合などは価格を下げるといったことを柔軟に行うことで収益の最大化を図っている。また、小売りや飲食店でも時間帯によって同じ商品・メニューでも料金を変動させる仕組みがあり、これもDPの一つだ。
●鉄道会社でDP導入の可能性高まる
DPの導入は、需要の平準化による混雑緩和にもつながるため、顧客満足度の向上も期待されている。「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」では、パークの価値に見合った価格設定と需要の偏りの是正を目的として、業界に先駆けて2019年にDPを導入したが、結果として入場者の満足度は向上したという。その後、オリエンタルランド <4661> [東証P]の「東京ディズニーリゾート」、サンリオ <8136> [東証P]の「サンリオピューロランド」などでもDPが導入されたが、概ね好評を得ている。
今後注目されるのは 鉄道分野だ。鉄道では朝夕の通勤・通学時間帯の混雑が深刻な問題となっているが、混雑の緩和にDPの導入が効果を発揮するとみられている。海外ではロンドンやシンガポールでDPを導入し、混雑する時間帯の利用料金を高くすることで、相対的に料金が安く、比較的空いている時間帯へのシフトが起こり、利用者数の平準化に一定の効果が報告されている。
日本では鉄道料金の見直しは国への事前の届け出が必要であるため、これまで機動的な料金改定はできなかったが、7月27日付の日本経済新聞朝刊では「国土交通省は時間帯によって価格を変える『ダイナミックプライシング』の鉄道運賃への導入に向けた制度設計に入る」と報じられた。JR東日本 <9020> [東証P]の深沢祐二社長は7月7日の会見で利用状況に合わせた運賃体系の見直しを検討すると述べており、今後は鉄道会社でも導入が期待されている。
●AI需要予測を手掛ける銘柄などに注目
DPの普及は国内ではまだ緒に就いたばかりであり、DP普及でメリットのある関連銘柄も少ないのが現状。そうしたなか、注目されるのは、データをもとに最適価格を算出する仕組みを手掛ける企業や価格を即時に変更する仕組みを手掛ける企業、それらをワンストップで提供する企業などだ。
ワンストップでDP導入を支援する企業は未上場企業が多い。凸版印刷 <7911> [東証P]やBEENOS <3328> [東証P]などが出資するメトロエンジン(東京都港区)や、三井物産 <8031> [東証P]、ぴあ <4337> [東証P]などが出資するダイナミックプラス(東京都新宿区)、伊藤忠商事 <8001> [東証P]のグループ会社であるD&Sソリューションズ(東京都品川区)などで、出資企業などに注目。また、同じくダイナミックプライシングベンチャーのハルモニア(東京都千代田区)には東芝テック <6588> [東証P]が出資している。
データをもとに最適価格を算出する仕組みを手掛ける企業では、AIによる需要予測を手掛ける銘柄に注目したい。ブレインパッド <3655> [東証P]は、小売り・流通業界をはじめとして需要予測に関するソリューションの導入事例が多く、ダイナミックプライシング導入に貢献。TDSE <7046> [東証G]は、購買データと商品の在庫状況から機械学習を用いて時刻ごとの売り上げ予測を行い、各時刻での利益の総和を最大化する価格列を算出することでダイナミックプライシング実現に寄与している。ALBERT <3906> [東証G]は、商品の売り上げ個数を予測し仕入れの発注量を判断する需給予測アルゴリズムを構築しているほか、AIによる価格予測なども手掛けている。
価格をリアルタイムで変更する仕組みを手掛ける企業では、複数のネットショップへの商品登録や価格などの更新作業を支援する「ネクストエンジン」を展開するHamee <3134> [東証P]、同じく複数のネットショップの商品登録・在庫管理・受注管理・発注・仕入れなどを一元管理する「クロスモール」を提供するアイル <3854> [東証P]などECサポートを行う銘柄に注目だ。また、店頭の商品棚につける棚札をデジタル化した「電子棚札」を用いることでリアルタイムでの価格変更を支援する銘柄として、フォーバル <8275> [東証P]や、グループ会社が電子棚札を手掛けるミライト・ワン <1417> [東証P]などにも注目したい。
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