明日の株式相場に向けて=多発する空売り筋の「追い証」
週明け15日の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比324円高の2万8871円と続伸。正直なところ意外高というよりない。8月初旬に市場関係者にヒアリングした時点では、下値に対する底堅さを指摘する声はあったが、前週(第2週)のタイミングで日経平均が6月の戻り高値(2万8389円)をクリアしてくると予想した向きは強気筋でも皆無に近かった。9月は鬼門の月という認識が広く浸透していたからで、相場が前倒しで崩れることはあっても、株価が噴き上げるイメージはおよそ湧いてこない。
しかし、得てして大方が想起した方向と逆に動くのが相場の難しいところであり、結果論とはいえ、今回もその“逆に行くアマノジャクな相場”が存分に存在感を発揮した。国内企業の4~6月期決算はきょうまでで大方終了したが、想定以上に好調な内容とはいっても為替の円安効果を除けば剥落する部分は多く、EPSは追い風参考記録、それもかなりの強風が背中を押した格好となっている。マクロでみると、エネルギー価格の上昇が一服したことでインフレ警戒感は和らいだが、7月の米コアCPIは前月比横ばいであり、これで一件落着と決めつけるのは時期尚早といえる。こうしたなか9月からFRBの量的引き締めが金額ベースで倍増し、毎月950億ドル規模で資金が吸収されていく。投資家にすれば強気になれる要素が見えないというのが偽らざる心境のはずだが、それが意外な現象を生んだ。
きょうは、国内ネット証券の手口にある異変が生じていた。朝方にレーザーテック<6920>などの半導体主力銘柄の株価が上値指向を強めたが、「複数のネット証券の手口で個人投資家の買い越しが目立った」(マーケットアナリスト)という。ここから同銘柄を実需で買い乗せるのは普通では考えづらいが、なぜか個人投資家は買い姿勢を積極化させている。「空売りを積み上げていた個人投資家に追い証が多発している」(同)というのがその答えだ。追い証を回避するために空売り手仕舞いを強制されている状況にある。
半導体はここにきてスマートフォンやパソコンの売れ行き不振からメモリー中心に在庫過剰の状態が判明し、設備投資需要も急速に冷え込む可能性が指摘されていた。これに先立って、世界最大のヘッジファンドであるブリッジウォーターが半導体主力銘柄に戦略的なショートポジションを組んでいることも報じられ、「右に倣えで(個人の)半導体株への空売りが急増した」(同)という。この反動が顕在化した。おそらく、こうした大手ヘッジファンドも直近はかなりの部分を買い戻し、既に利益の大半を確定させている可能性が高い。個人はその残像を追いかけているような状況に陥っている。
外部環境を見渡せば売りで対処したくなるのは人情だ。同じような背景がソフトバンクグループ<9984>にも見える。23年3月期第1四半期は、最終損益が3兆1627億円の大幅赤字で四半期としては史上最大の損失であり、2四半期連続赤字決算に伴い、ピーク時7兆円あったビジョンファンドの利益が雲散霧消したという。自社株買いの継続を除いて同社株にプラス材料は見当たらず、悪材料出尽くしとも言えない。にもかかわらず株価は急浮上し、気がつけば今年4月初旬につけた年初来高値5984円奪回までもう一息の水準まで漕ぎつけた。タネを明かせばこれも需給。日証金では直近の貸借倍率が0.17倍で逆日歩がついており、売り方自らが作り上げた上昇相場の典型となっている。
更に最も分かりやすく映し出されているのが、日経平均に連動する仕組みで組成されたNEXT FUNDS 日経平均レバレッジ・インデックス連動型上場投信<1570>だ。個人投資家が先物を売り買いする感覚で参戦し、常に売買代金首位を争う人気銘柄で、きょうは売買代金首位をソフトバンクGに譲ったものの、全市場を通じて2位となった。この日経レバも売り残の増加が際立っており、個人投資家の空売り志向の強さを物語っている。東証信用残は信用倍率が0.89倍、日証金では0.06倍で1日あたり15円の逆日歩がつく日もあるほどの“売り人気”である。ただし、一ついえるのは今の追い証発生は売り方の側から見て陰の極を示唆しているということだ。買い戻しラッシュが終了すれば、上昇エンジンも止まる。「持たざるリスク」が言われ始めると相場は目先天井をつける傾向が強い。
あすのスケジュールでは、6月の第3次産業活動指数、5年物国債の入札など。海外では7月の英失業率、8月のZEW独景気予測指数、6月のユーロ圏貿易収支。また、7月の米住宅着工・許可件数、7月の米鉱工業生産指数・設備稼働率などに注目度が高い。(銀)