来週の相場で注目すべき3つのポイント:パウエル議長証言、日銀金融政策決定会合、米雇用統計
■株式相場見通し
予想レンジ:上限28500円-下限27500円
来週の東京株式市場は神経質な展開か。今週末の日経平均は久々に大幅に上昇、根強い戻り待ちの売りから長らく明確に超えることができなかった27500円水準を大きく上放れ、2月6日高値27821.22円を超えてきた。27500円を挟んだ長いもみ合いを経た後の上放れとあって強気トレンドへの転換が期待される展開となっている。一方、来週末に3月限先物・オプション取引に係る特別清算指数算出(メジャーSQ)を控える中、9日からは黒田東彦日本銀行総裁にとって最後となる金融政策決定会合が開催されるほか、米国の金融政策動向を占うイベントも週半ば以降に多いため、波乱含みの展開が予想される。
市場関係者の間では今回の日銀金融政策決定会合では現状維持を予想する向きが大半だ。一方、市場機能が改善していないことなどを理由に、一部では10年国債金利の変動幅を1%まで拡大させることは急務であり、次期総裁の植田和男氏による政策運営により自由度を与えておく状況を創出することを目的に、3月会合でのサプライズ修正を指摘する向きもいる。他方、米国の雇用、物価に関する指標の上振れが続いており、ドル高・円安基調はまだ維持されている。来週末に米2月雇用統計を控えていることもあり、週末まで為替は膠着感を強める可能性が予想される。
一方、週半ばにも大きな材料がある。日本時間8日の午前0時頃に、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が米上院銀行委員会公聴会で証言を行う予定だ。一連の強い物価指標の発表以降では初めての発言の場となり、注目される。米アトランタ連銀のボスティック総裁が今夏の利上げ停止の可能性を示唆したことや米2月ISM非製造業景況指数の仕入価格が前月から低下したことを背景に、1日に昨年11月以来となる4%台に乗せたばかりの米10年債利回りは今週末に再び4%を割り込んだ。米株式市場も大幅に続伸した。ただ、同総裁は政策金利を5.00-5.25%に引き上げた後は、2024年もしばらくその水準で維持する必要性についても言及している。全体として見ればハト派的とはいえない中、株式市場が都合よく解釈している感は否めない。また、米ISM非製造業の仕入価格も低下したとはいえ、65.6と依然として高水準だ。米ISM非製造業景況指数が予想を上振れたことも踏まえれば、利上げ停止期待を後退させる内容とも捉えられる。
たしかに、最後の利上げ停止以降は株式市場が上昇基調に転じる経験則は有名で、大よその利上げ停止時期が分かってきたことはポジティブなのであろう。しかし、そもそも今回マーケットが好感した発言の主であるボスティック総裁は今年の米連邦公開市場委員会(FOMC)で投票権を持っていない。また、来週末の米雇用統計や翌週の米消費者物価指数(CPI)の結果次第では今夏の利上げ停止期待が修正を余儀なくされる可能性もある。このため、まずは来週のパウエル議長の議会証言を見極める必要があるし、その後も予断を許さないだろう。
さて、時間軸は前に戻るが、5日から中国で全国人民代表大会が開催される。今週に発表された中国2月製造業購買担当者景気指数(PMI)が民間版及び政府版ともに市場予想を上振れて改善したことで同国経済の回復期待が高まっている。また、日本政府は新型コロナ対策として中国からの渡航者を対象に義務付けてきた水際対策の緩和を3月1日から実施。これらの背景から中国関連株の強い動きが目立っている。予想以上に速いペースでの回復を受けて、逆に全人代での追加景気対策への期待が後退したとの指摘もあるが、昨年、経済成長率目標を大きく未達となった経緯や若年層を中心とした高い失業率が続いていることも踏まえると、今年は中国政府が経済成長を狙う動機を有しているとも考えられ、景気対策への期待は根強いとみる。全人代で追加景気対策が打ち出されれば、関連株への物色が強まろう。9日には2月工作機械受注の発表もあるため、合わせて機械株などの手掛かり材料となりそうだ。
■為替市場見通し
来週のドル・円は下げ渋る可能性がある。米国でインフレ鎮静化への期待感が後退するなか、2月以降に発表された米国経済指標の多くは雇用統計を含めてまずまず良好だった。2月ISM製造業景況感指数では仕入れ価格指数が上昇。直近発表の新規失業保険申請件数は市場予想を下回った。来週発表の2月米雇用統計は、非農業部門雇用者数が1月の大幅増の反動で前月比+22万人程度と予想される。また、失業率は歴史的低水準の3.4%と前回から横ばいの見通し。一方、平均時給は堅調とみられ、賃金コストの上昇によるインフレ高止まりが意識されやすい。今月開催の連邦公開市場委員会(FOMC)では0.25ポイント幅の利上げが予想されているが、一部で0.50ポイント幅の利上げも予想されている。
一方、3月9-10日に開催される日銀金融政策決定会合では、現行の緩和政策を維持する公算。来月任期満了の黒田総裁は大規模緩和政策を維持する必要性を強調するとみられ、リスク回避の米ドル売り・円買いは後退する見通し。ただし、金融緩和策継続は相応に織り込み済みのため、リスク選好的な米ドル買い・円売りが一段と強まる可能性は低いとみられる。
■来週の注目スケジュール
3月6日(月):米・製造業受注(1月)、欧・ユーロ圏小売売上高(1月)、など
3月7日(火):日・実質賃金総額(1月)、豪・オーストラリア準備銀行(中央銀行)が政策金利発表、米・消費者信用残高(1月)、米・パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長が上院銀行委員会で半期に1度の議会証言、、など
3月8日(水):日・国際収支(経常収支)(1月)、景気ウォッチャー調査(2月)、米・ADP全米雇用報告(2月)、加・カナダ銀行(中央銀行)が政策金利発表、米・JOLTS求人件数(1月)、米・パウエルFRB議長が下院金融委員会で半期に1度の議会証言、など
3月9日(木):日・GDP改定値(10-12月)、東京オフィス空室率(2月)、日・工作機械受注(2月)、日銀政策委員会・金融政策決定会合(-10日まで)、中・消費者物価指数(2月)、米・バイデン大統領が予算教書発表、など
3月10日(金):日・家計支出(1月)、日・国内企業物価指数(2月)、黒田日銀総裁が会見、米・雇用統計(2月)、米・財政収支(2月)、米・世界最大級の複合イベント「サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)」(19日まで)、など
《YN》