プチ金融不安をスルーするなら、外国人売り&個人買いの相関に注目
大川智宏の「日本株・数字で徹底診断!」 第109回
智剣・Oskarグループ CEO兼主席ストラテジスト
2005年に野村総合研究所へ入社後、JPモルガン・アセットマネジメントにてトレーダー、クレディ・スイス証券にてクオンツ・アナリスト、UBS証券にて日本株ストラテジストを経て、16年に独立系リサーチ会社の智剣・Oskarグループを設立し現在に至る。専門は計量分析に基づいた株式市場の予測、投資戦略の立案、ファンドの設計など。日経CNBCのコメンテーターなどを務めている。
前回記事「早くも昨年超えの「バガー銘柄」、その特徴は」を読む
米国の地銀、シリコンバレーバンク(SVB)の破綻に端を発した金融不安の広がりもあり、足元の株式相場は力強さに欠ける展開となっています。
現時点では、世界的な金融恐慌へと波及する可能性は低いとの見立てが浸透しています。が、米国の雇用や消費、住宅販売などに陰りも出ており、投資家心理(センチメント)が弱気に傾きやすい状況です。
これらを踏まえると、今後もプチ・パニック相場が散発することが予想されます。
■過去3年間の米国の新規雇用者数と平均時給の動向
出所:リフィニティブ・データストリーム。注:雇用者数は非農業部門
■2022年以降の小売売上高と中古住宅販売(対前年比)
出所:リフィニティブ・データストリーム
仮にこの金融不安に伴う混乱が継続し、米国景気の悪化に伴ってセンチメントも低迷していくのであれば、世界的な企業業績の悪化よりもさらに懸念すべき状況が顕在化する恐れがあります。
それは、「投資家の資金逃避」です。米国の投資家は世界最大の投資主体。東証においても売買シェアの70%ほどを占める海外投資家の多くは、米国を本拠地とする投資家であると見られています。
その最大の資金の出どころである米国で金融不安による混乱が続き、かつ景気が今後後退していくのであれば、彼らの資金の引き揚げが発生することは避けられないでしょう。
■東証における海外投資家の委託売買のシェア
出所:リフィニティブ・データストリーム
株式はボラティリティー(株価の変動率)の高いリスク資産としての性格を持っているので、投資センチメントの悪化が即時資金引き揚げへとつながりやすい対象です。
当面は、この換金売りに巻き込まれない対策も考えておく必要があります。そこで、今回はこの海外勢の資金逃避のリスクに備えた投資スタンスを考えていきたいと思います。
過去5年累積で最大の買い越し主体は事業法人
まず、過去5年間で海外投資家や個人投資家などの投資主体別の売買動向をおさらいしましょう。下のグラフが示すように、この期間で日本株の最大の買いを行ってきたのは「事業法人」、その次に多いのが「その他法人」となっています。
一方で、金融機関や個人投資家、海外投資家はすべて売り越しとなり、海外勢は最大の売り主体になっています。これらから昨今の日本株市場は投資を業とする金融機関や機関投資家などの売り需給を、事業会社が必死に支えていた構図となります。
事業法人が買い越しとなっているのは、自社株買いによるものです。過去5年の日本株市場は、良くも悪くも、米国型の自社株買い主導に状況が変化してきたようです。
■過去5年間の主体別売買累積額
出所:リフィニティブ・データストリーム
これらの状況を踏まえると、海外投資家の売りと事業法人の自社株買いを踏まえた投資戦略を立てるのが効果的になりますが、自社株買いを予測するのは非常に困難になります。
とすると、相場が下落するときに買いを入れる傾向にある個人投資家の逆張りと、相場の下落時は売り越す傾向にある海外投資家の順張りを組み合わせた戦略が次善策になります。
とはいえ、個人投資家は過去5年で海外投資家の次に累積の売り越し額が大きくなっています。そうした中で、海外投資家と個人投資家がどのような局面で買い越し、もしくは売り越しているのかを確認しておく必要があります。
下は過去5年間の海外勢と個人の売買累積額と日経平均株価の推移を比較したものになります。
■個人と海外勢の売買累積額と日経平均株価
出所:リフィニティブ・データストリーム
海外勢(赤の折れ線)は20年春のコロナ暴落のときには順張りで売りを積み上げたのに対して、同じ時期の個人(紺の折れ線)は逆張りで買いに入っている状況が確認できます。また20年後半からの日経平均の上昇時にも、海外勢は順張りの買い、個人は逆張りの売りを見せています。
さらに22年からのレンジ相場では、個人は相場のサイクルに合わせて機動的に逆張りしているのに対して、海外勢は個人の逆の動きをしている様子がうかがえます。
プチ・パニックの時は海外勢と低相関、個人と高相関
これを投資戦略に反映する手段はシンプルです。
海外勢の資金逃避による日本株市場や個別銘柄の下落と、それに対する逆張りの買いの動きから、状況に沿った銘柄を選定してします。
今回は日本株市場の個々の銘柄について、過去5年間の週次の株価の騰落率と海外投資家および個人投資家の売買動向との連動性を定量化していきます。
今後に米国をはじめとした海外の混乱に伴う市場の下落が発生するのであれば、海外投資家との相関係数が大きくマイナスで、かつ個人投資家の売買動向との相関係数が強いプラスとなるような銘柄を選べばいいでしょう。
海外投資家の動向との相関係数がマイナスということは、彼らが資金を引き揚げる局面で売られにくい、そもそも彼らに保有されていない(興味がない)銘柄である可能性が高くなります。一方、個人投資家が買い越す局面では個人投資家に人気で買い支えが入りやすい銘柄であると考えることができます。
短期的に海外における投資センチメントが改善するような場合は、この逆で海外投資家に好まれやすく(高相関)、個人投資家が積極的に利益確定をしない(低相関)銘柄を選定すればいいという結論になります。
参考までに、上記の2つのケースごとに条件を満たす銘柄の一例を、次ページに抽出しました。
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