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「いずれ会費は無料化、決済事業で稼ぐ」の原点に米国そして孫正義氏

特集
2023年4月7日 12時02分

10年上昇企業~「ベネフィット・ワン」最終回

登場する銘柄
ベネ・ワン<2412>

ベネフィット・ワンの成長戦略について白石徳生社長に方針を聞く2回目の記事は、中長期の成長戦略だ。

現在の同社の稼ぎ頭は、会社や官公庁・自治体などを対象とした福利厚生の代行サービスと、同事業から派生したヘルスケア事業になる。その収益源は会費収入および手数料になる。中でも会費収入は福利厚生事業で売り上げの9割を稼ぐ。

だが、白石社長は将来的に会費0円にし、「ベネフィット・ステーション」で発生した取引から得る決済手数料を柱にしていくという。それは、なぜなのか。その原点は、インターネットの黎明期に米国滞在の経験などを通じて固めていった創業のアイデアにあった。

(聞き手は真弓重孝、高山英聖/株探プレミアム編集部)

【タイトル】白石徳生社長のプロフィール:
1967年生まれ。90年にパソナジャパン(現ランスタッド)に入社し、6年後の96年に社内ベンチャーとしてビジネス・コープ(現ベネフィット・ワン)を設立、2000年に代表取締役社長に就任した。自身の性格は「楽天家」と分析している。「最大限の努力をすれば、何とかなると考えてここまで来た」(白石社長)。趣味はスキー。毎シーズン、1~2月の半分程度はスキー場に滞在し、リモートで業務をこなしている。

第1回「株価は一時80倍超え、10年平均・2桁増収増益のベネ・ワン」を読む

第2回「ネットフリックスをサービスメニューに追加したわけ」を読む

――中長期の成長戦略はどのように描かれていますか。

白石徳生社長(以下、白石): 当社は現在、福利厚生やヘルスケア事業が収益の柱となっていますが、今後はこれからのサービスを展開するうえで欠かせない決済分野を収益の柱にしていく方針です。すでに収益化に向けたサービスを始動させています。

2021年に開始した「給与天引き決済サービス」で、当社の区分ではペイメント事業として立ち上げています。このサービスは、福利厚生事業で展開する「ベネフィット・ステーション」で提供している各種サービスの利用料金を、給与から引き落します。そこで発生する決済手数料をサービスの提供会社から得るビジネスモデルです。

■給与天引き決済の対象になるメニューの例

【タイトル】

出所:同社ウェブサイト

潜在的な市場規模は、取引の流通総額ベースで35兆6000億円と試算しています。この市場には金融機関やクレジットカード会社など既存のプレーヤーに加え、最近ではNTTドコモやKDDI<9433>、ソフトバンク<9434>といった通信キャリアも参入しています。通信事業者は携帯料金のほかに電気・ガス、そして映画料金や通販といった通信料金以外の決済サービスを展開しています。

ブランド力のある大企業などが競争相手となる中で、当社が勝ち抜く鍵が価格競争力です。現在の決済手数料は3%程度としていますが、1%程度まで引き下げ可能な仕組みを整えています。

クレジットカード会社の収益構造を分析すると、彼らが引き下げられる料率は1.7%が限界と見ています。これに対して当社は1%まで下げても0.5%の利益を確保できます。ベネ・ワンでは業務のペーパーレス化が進んでおり、貸し倒れリスクもほぼなく、銀行への送金手数料も抑えられており、低コスト体制を構築しているからです。

最後は、給与口座を押さえた企業が勝つ

――ペイメント事業の収益化にあたっては、価格競争力以外に必須となる条件は。

白石: 給与口座を押さえている会社が、優位になるだろうと考えています。その点で、当社は福利厚生事業を通じて多くの企業との関係を構築し、また類似のサービスを展開している点を強みにできます。

そのサービスとは、約20年前から事業展開している「カフェテリアプラン」で、従業員が会社から付与されたポイントを使って好みの福利厚生サービスを受けられるものです。「カフェテリアプラン」では、契約した企業に自動決済システムを提供しており、給与天引きサービスの先駆けのような仕組みになっています。

顧客にはパナソニック ホールディングス<6752>やANAホールディングス<9202>といった大企業を中心に約300社がおり、こうした顧客基盤を持っていることは新規の顧客開拓で武器になるはずです。

21年から始めた給与天引きの決済サービスでは、企業が「ベネフィット・ワン」という控除項目をつくってしまえば、電気代もガス代も、動画配信サービスの会費も、毎月自動で決済されます。ベネ・ステのプラットフォームから提供されたサービスは割引価格なので、会員(従業員)にとってはメリットを感じるはずです。

さらにベネ・ステでの利用を増やして流通総額の引き上げにつなげるためにも、今期以降、テレビCMを使って既存会員にサービスの魅力を訴求していきます。

――従業員の立場でいうと、プライベートで利用した料金を給与の天引きに際して会社に把握されることに、心理的な抵抗感があります。

白石: 利用料金の詳細は、会社側が把握できないような仕組みを整えます。それでも、天引き額は会社が把握できることになります。そこに不都合を感じる人はいるでしょう。ただし、天引き額を会社に把握される以上のメリットを感じると見ています。

先程も申したように、利用価格が割引になるからです。光熱費や家賃など毎月、それなりの金額が発生する料金が仮に10%割引になれば、年間で節約できる金額は10万円を超えるでしょう。

どうしても給与天引きに抵抗感があるようなら、会社に情報を知られたくないサービスだけ別の手段で支払えばいいだけの話です。今でもクレジットカードは絶対に利用しないという人がいるように、給与天引きでもそうした例はあるでしょう。

――4月からは給与のデジタル払いが解禁されました。ここにも勝機はあるのでしょうか。

白石: デジタル払いでは、QRコード決済など多数あるキャッシュレス決済サービスのゲートウェイ機能を提供していきます。企業にとっては、この従業員はこのA社のサービス、別の従業員はB社のサービスと管理するのは手間がかかります。

こうした管理の手間を省くために、当社はさまざまなデジタル決済サービスの会社と提携し、企業とデジタル決済サービスのゲートウェイになれば導入する企業はメリットを感じるはずです。

GAFAMが参戦する前に勝負をかける

――ペイメント事業が収益の柱となるのは、何年後を想定していますか。

白石: 最短で3年、最長で6年とイメージしています。ある程度の収入源を確保できれば、ベネ・ステの会費を0円にします。

会費が無料になれば、就業人口6700万人全員の会員獲得が視野に入り、家族会員制度を通じて日本人全員を囲い込むことも不可能でないと考えています。

気の遠くなる目標ではあるものの、ゆっくりしてはいられません。いつかはGAFAM(グーグルの親会社のアルファベット、アップル、旧フェイスブックのメタ・プラットフォームズ、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフト)をはじめとした米巨大テックが日本に上陸し、当社と競合するリスクを想定する必要があるからです。

もっともビジネスモデルの先進性では、当社は彼らより1周先を歩んでいると自負しています。一方で、世界を見渡せば、欧米では当社と同じようなビジョンを持ったベンチャー企業が立ち上がっています。ほとんどのケースでファンドが株式を保有しており、足元の企業価値は500億円程度になっています。

彼らの企業価値が2000億円以上に拡大したときに、GAFAMに株式を売却する可能性があります。資本を増強した後、展開エリアを拡大することは容易に想像がつきます。当社も、そうした企業のM&Aを考えています。その資金の調達は、金利が上昇しないうちに借り入れるなどで確保したいと考えています。

――足元で福利厚生事業の会員数は約900万人と、全就業者に対する割合は10%超の水準です。会費を無料にしても、100%に持っていくのは容易でないようにも見えます。

白石: 就業人口の70%までは、宣伝広告に力を入れることで達成可能と想定しています。前回も触れたように30%の法則です。ベネ・ワン会員の割合が30%程度になれば、「他が入っているなら自分たちも」と意識が変わっていくからです。

問題は70%に到達した後です。未加入の人たちを会員化するには、わかりやすいインセンティブが必要で、それが会費の無料化です。

会員になれば、利用料金が安くなることもインセンティブになるはずです。サービスはオンライン化すると、価格が10%やすくなります。通販でも旅行の予約でも、ネット経由になったことで、料金は低下していきました。

当社のサービスも通常より10%安い価格で提供しています。1月に提携をリリースした動画配信サービスの「Netflix(ネットフリックス)」も10%引きで利用できるようになっています。

また当社を経由して通販サイト「Amazon(アマゾン)」を利用すると、年間を通じて2%ほど安くなるようになっています。この話をすると「知らなかった」と驚く人が多くいます。

今後は、「Apple Music(アップルミュージック)」や「Amazonプライム」などとも提携を探っていきます。人気の根強い提携メニューが充実すれば、「どうせ契約するならベネ・ワンを通さないと損だよね」という考えに変わっていくでしょう。

私の10年後のイメージは明確です。すべての日本人はベネ・ワン経由でしかサービス利用や予約をしなくなります。会費は無料になっているので、会員にさえなれば、さまざまなサービスを割引で利用できるのです。

当社の収益は会員がサービスの利用料を決済する際に発生する手数料となります。それ以外は、サービス会社は当社に送客費用などを払う必要はありません。また利用者も利用料金以外の支出は不要です。

利用者とサービス提供会社、そして当社のそれぞれにメリットを生む関係になるのです。

■ペイメント事業の中長期戦略

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注:「ベネ・ステ」は「ベネフィット・ステーション」の略

「サービスの流通」を押さえる

白石: 当社が「サービスの流通」を押さえたとき、将来的に一番劇的に変わるのは不動産流通業界だと見ています。

今は賃貸仲介ショップが店舗を借りて、人を採用して運営しています。そして賃貸需要が膨らむ1月から3月にかけては、大量のテレビCMを流して新社会人や大学生などにPRしています。

しかし、当社は既にあるベネフィット・ステーションを通して、会員企業の新入社員などに物件の仲介ができます。新入社員などへの訴求は会員企業を通してできますから、駅前に店舗を構え、販促費用をかけなくても仲介ができます。

携帯ショップや保険代理店などのサービスも、規制さえなくなればベネ・ステのプラットフォーム上で、原価で提供することが可能になります。代理店のように流通コストを販売価格に転嫁する必要がないからです。当社のような、サービス価格が2~3割安くなる世界ができれば、流通コストが発生する産業はなくなってくるでしょう。

決済領域のもう1つの柱、「小口精算の代行」も潜在性あり

――決済領域では、交通費や交際費などの精算を代行する「購買・精算代行事業」も手掛けています。その中には10年以上前から開始しているサービスもありますが、22年3月期の売上高・営業利益全体に対する割合は、それぞれ2%未満にとどまっています。

白石: この事業は、出張旅費を含めた交通費や接待・交際費といった小口の経費精算の代行業務になります。企業にとっては、経費精算の負担を軽減する以外にも、不正防止対策にもなります。小口精算には過大請求など、不正が起きやすいからです。

コンプライアンス(法令順守)の意識が高まっている昨今、不正防止の観点から小口精算の代行業務のニーズは高まっていくでしょう。コンプライアンスが厳しい欧米企業では、出張などでは旅行会社が手続きを代行するBTM(ビジネス・トラベル・マネジメント)サービスを導入するのが常識となっています。経済のグローバル化が進む中で、その流れは日本企業にも波及するはずです。

すでに兆候は現れています。足元では、我々が提供する出張経費の精算サービスをあるメガバンクから、接待経費の精算サービスを別のメガバンクから受注しています。日本では通常、銀行が利用するようになると、他の業界にも普及していくものです。当社の小口精算の代行サービスも、そのセオリー通りに展開していくと考えています。

■『株探プレミアム』で確認できるベネ・ワンの通期業績の長期の成長性推移

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※当該情報は、一般情報の提供を目的としたものであり、有価証券その他の金融商品に関する助言または推奨を行うものではありません。

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