土信田雅之(楽天証券経済研究所)が斬る ―どうなる?半年後の株価と為替―
米シリコンバレーバンク破綻などを受けた米欧の金融不安がひとまず落ち着き、日米の株式市場にも一定の安心感が広がりつつある。ただ、これまでの米国の急激な利上げによる不動産や金融機関への悪影響への懸念は根強い。ロシアによるウクライナ侵攻は収束のメドがつかず、米国と中国の政治経済の対立も残る。アナリストやエコノミストなどの専門家は、「半年後の株価」や「半年後の為替」をどう見ているのか。インタビューを通じて、著名アナリストに予測してもらい、その背景を詳報する。第13回は楽天証券経済研究所の土信田雅之シニアマーケットアナリストに話を聞いた。
●土信田 雅之(どしだ まさゆき)
楽天証券経済研究所 シニアマーケットアナリスト。1974年生まれ。青山学院大学国際政治経済学部卒業。国内証券会社にて企画や商品開発に携わり、マーケットアナリストに。2011年より現職。中国留学経験があり、アジアや新興国の最新事情にも精通している。
土信田 雅之氏の予測 4つのポイント | |
(1) | 半年後の日経平均株価は2万7000円程度、2万5500~2万8500円で推移 |
(2) | 半年後のS&P500株価指数は4000程度、3500~4200で推移 |
(3) | 米利上げの悪影響とSNSの発達が金融機関への過度な不安を増幅の恐れ |
(4) | ヤクルトやユニ・チャームなど生活必需品、海外での収益好調な銘柄に注目 |
―― 急速に高まった欧米の金融不安は一服しつつありますが、市場関係者の間では懸念もくすぶっています。半年後(10月末)の日経平均株価、S&P500をどう予測しますか。
土信田:私は10月末の株価を弱気に見ています。日経平均株価は2万7000円程度だと予測しています。この半年間は2万5500円から2万8500円程度で推移するでしょう。S&P500株価指数は4000程度で、この半年は3500から4200程度で推移すると見ています。
図1 日経平均株価 日足
―― 日米ともに当面はレンジ相場が続き、大きな上昇はないという予測ですが、理由を教えてください。
土信田:年初のマーケットでは、世界の株式相場のソフトランディング説が浮上していました。しかし、米連邦準備理事会(FRB)が極端な金融緩和から極端な引き締めに動いたことを考えると、なかなかソフトランディングというわけにはいかないでしょう。
シリコンバレーバンクやクレディ・スイス・グループ<CS>などの経営問題については、金融当局の迅速な対応が奏功しましたが、今後も金融機関の経営問題が発生するリスクは残っています。インターネットやSNSの発達で、金融機関に経営不安が浮上すると、予想以上のスピードで情報が拡散し、取り付け騒ぎになりやすくなってきました。このため、金融機関は保守的な経営をせざるをえない面があり、融資先企業への貸し渋りや貸しはがしが世界的に起きることが考えられます。
―― FRBによる急速な利上げは不動産市場や債券市場にも影響を与えました。
土信田:欧州連合(EU)の金融監視機関である欧州システミックリスク理事会(ESRB)は1月に商業用不動産に起因した金融市場の不安が生じかねない状況だと警告しました。債務の借り換えや新たな融資を制限する金融引き締めを受けて、不動産業界が脆弱になっていることが背景にあります。
利上げにより債券価格も下落しています。クレディ・スイス・グループの救済買収では同社のAT1債(劣後債の一種)が無価値となったことから、他の金融機関のAT1債の価値も下落しやすくなっています。破綻したシリコンバレーバンクのように、住宅ローン担保証券(MBS)の含み損の拡大が重荷となる金融機関も少なくないと見られます。
―― 2008年のリーマン・ショックの際には中国が大規模な経済対策を打ち出し、世界経済をけん引しました。中国では新型コロナウイルスを封じ込める「ゼロコロナ」政策が解除され、市場関係者の一部からは景気回復を期待する声も出ています。
土信田:残念ながら中国は今回、大きな期待をできそうもありません。不動産市場では、過度の需要を見越してつくりすぎたマンションが売れなくなり始めています。手抜き工事が露見する事例も出ています。中国不動産大手、中国恒大集団の債務再編案も不十分で再建のメドは立っていません。金融機関の潜在的な不良債権も増加しています。中国経済は予想以上に良くないリスクがあると考えています。
―― 円安は輸入物価の上昇というマイナス面がありますが、昨年は輸出企業を中心に日本企業の業績を下支えしてきた面がありました。
土信田:私は2023年の円相場をやや円高傾向になると予測しています。半年後は1ドル=126~136円程度を予想しています。このため、昨年のように円安が企業業績の大きな支えになることは考えにくいでしょう。
―― 東京証券取引所は、株価の割高・割安を判断する投資尺度のひとつであるPBR(株価純資産倍率)が低迷する企業を念頭に、改善策の開示を要請しました。東証の対策が株式相場を押し上げる可能性はあるでしょうか。
土信田:東証とすれば、低PBR企業の「稼ぐ力」を強め、株式市場を活性化したいということだと思います。株価対策として自社株買いと自社株消却だけでお茶を濁していては、いつまでたっても企業価値は高まりません。東証の要請を受けて、自社の成長について問題意識を持ち、ROE(自己資本利益率)向上などに努める企業が増えれば、日本の株式相場全体が底上げされると考えられます。
―― この半年の株式相場は大きな上昇が見込めないという予想ですが、その中でも注目している銘柄を教えて下さい。
土信田:足もとの景気の状況の中でもしっかり稼いでいる企業、特に生活必需品の銘柄、海外で高い収益をあげている銘柄に注目しています。例えばヤクルト本社 <2267> [東証P]です。同社は経済成長しているアジアやアフリカなど新興市場国で国民の健康志向が高まったことから、業績は好調です。
ユニ・チャームや味の素も海外での収益増に期待できます。特にユニ・チャーム <8113> [東証P]が取り扱う紙おむつは平均年齢が若い国では幼児向け、高齢化の進む国では老人向けに需要があり、安定的な成長を期待できます。回転ずし「スシロー」を運営するFOOD & LIFE COMPANIES <3563> [東証P]は迷惑動画問題で株価が下落しましたが、海外出店に力を入れており、長い目で見れば「買い」だと見ています。
(※聞き手は日高広太郎)
◆日高広太郎(ジャーナリスト、広報コンサルティング会社代表)
1996年慶大卒、日本経済新聞社に入社。東京本社の社会部に配属される。小売店など企業ニュースの担当、ニューヨーク留学(米経済調査機関のコンファレンス・ボードの研究員)を経て東京本社の経済部に配属。財務省、経済産業省、国土交通省、農水省、日銀、メガバンクなどを長く担当する。日銀の量的緩和解除に向けた政策変更や企業のM&A関連など多くの特ダネをスクープした。第一次安倍内閣時の独ハイリゲンダムサミット、鳩山政権時の米ピッツバーグサミットなどでは日経新聞を代表して同行取材、執筆。東日本大震災の際には復興を担う国土交通省、復興庁のキャップを務めた。シンガポール駐在を経て東京本社でデスク。2018年8月に東証1部上場(現プライム市場)のB to B企業に入社し、広報部長。2019年より執行役員。2022年に広報コンサルティング会社を設立し、代表に就任。ジャーナリストとしても記事を複数連載中。2022年5月に著書「B to B広報 最強の戦略術」(すばる舎)を出版。内外情勢調査会の講師も務め、YouTubeにて「【BIZ】ダイジェスト 今こそ中小企業もアピールが必要なワケ」が配信中。株探ニュース