カーボンニュートラルの切り札、「ヒートポンプ関連」株を徹底マークせよ <株探トップ特集>

特集
2023年7月6日 19時30分

―欧州を中心に需要が拡大、出遅れていた米国も政策後押しで普及加速の可能性―

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻以降、省エネルギー性能の高い空調として ヒートポンプへの関心が世界的に高まっている。欧州連合(EU)の欧州委員会が今年3月に公表した「ネットゼロ産業法案」では、温室効果ガス排出ネットゼロ実現に貢献する技術(ネットゼロ技術)のEU域内での生産能力拡大を支援するとしたが、ネットゼロ技術として太陽光発電風力発電 バッテリーなどと並んでヒートポンプを挙げている。米国でもバイデン政権が4月、戦略物資の国内生産を促す「国防生産法(DPA)」とインフレ抑制法に基づき、ヒートポンプ式の空調機の生産設備を新設・増設する企業に最大2億5000万ドルを提供する方針を発表した。今後の市場拡大に拍車がかかることも期待でき、関連銘柄には注目したい。

●熱を「作る」のではなく「移動させる」

ヒートポンプは大気中の熱を膨張や圧縮を利用して冷暖房などに活用するシステム。気体には圧縮すると温度が上がり、膨張させると温度が下がる性質があるが、これを利用してヒートポンプのなかでは冷媒が圧縮による温度上昇と膨張による温度低下を繰り返しながら循環している。熱を「作る」のではなく「移動させる」ので、エネルギーの使用が少なく済み、圧縮と膨張に使う電力に対して数倍の熱エネルギーを得られることから、カーボンニュートラル実現の切り札として注目されている。

例えば米国では住宅、オフィス、学校、病院、軍事施設などの重要な施設の冷暖房は、全エネルギー消費量の4割以上を占めているとされる。これまでは、時にマイナス20度まで冷え込む北米の気候に対応した技術が確立されていないといった理由からヒートポンプ空調の普及は2割程度にとどまっていたが、技術の進歩や政府の支援策で普及が加速する可能性は高い。米国における需要は今後急速に拡大しそうだ。

●生産拡大に乗り出す空調大手

その米国に先行する欧州だが、欧州ヒートポンプ協会(EHPA)が2月に発表した市場調査によると、2022年の域内のヒートポンプ機器の販売台数は約300万台となり、前年比38%増で過去最高を大きく更新した。ドイツではガスや灯油の暖房からヒートポンプへの更新が促進され、24年以降毎年50万台の導入目標を設定。フランスでは超低所得層向けに設備導入時にかかる費用を9割補助するといった施策を展開しており、これらが需要拡大を牽引している。

欧州における需要増加を受けて、日本企業も生産拡大に乗り出しており、ダイキン工業 <6367> [東証P]は昨年7月にポーランドにヒートポンプ暖房機の新工場を設立すると発表、パナソニック ホールディングス <6752> [東証P]では同年9月にチェコでのヒートポンプ暖房機の生産拡大計画を発表した。特にヒートポンプの空調分野では、世界市場でも日本をはじめとするアジア勢が強く、両社のほか三菱電機 <6503> [東証P]などがシェア上位の一角を占めている。これらの企業が今後の需要拡大の恩恵を受けるとみられ要注目だ。

●空調大手以外にも

ヒートポンプは冷暖房のほか、冷蔵庫や洗濯乾燥機、給湯器などに幅広く利用されている。また、家庭用に比べて普及が遅れている産業用も含め関連銘柄の裾野は広い。前述の空調大手のほかにも、次のような銘柄にも注目したい。

神戸製鋼所 <5406> [東証P]は、三浦工業 <6005> [東証P]と共同出資するコベルコ・コンプレッサが主に産業用のヒートポンプ事業を展開している。食品や自動車などの工場から半導体のクリーンルーム、データセンターの空調などへの導入実績も多く、製品ラインアップも充実しているのが特徴という。

長府製作所 <5946> [東証P]は、空調機器分野のヒートポンプ熱源機が欧州を中心に好調に推移している。同社の22年12月期の輸出売上高は前の期比65.2%増の66億5600万円となったが同製品が、その牽引役となった。今後は米国、オーストラリアへもヒートポンプ熱源機を幅広く展開するとしており、新規市場への対応で更なる事業の拡大を狙う。

荏原 <6361> [東証P]は、子会社荏原冷熱システムがヒートポンプ事業を展開している。大型施設への納入が多く、東京スカイツリー地区(東京都墨田区)やゲートシティ大崎(東京都品川区)などへの納入実績がある。

オルガノ <6368> [東証P]は、ヒートポンプ技術を用いた熱回収ソリューション「水熱利用システム」を開発し、工場などで採用されている。同社ではサステナビリティ・ソリューションの事業展開を強化しており、同システムについても導入実績の積み上げを図っている。

サンデン <6444> [東証P]は、自動車向けヒートポンプシステムを手掛ける。特に電気自動車(EV)向けに強みがあり、17年に量産を開始し、18年には中国市場のEVにおいて世界で初めて採用された。駆動用バッテリーの消費量を抑え、航続距離の延長に貢献する技術として注目されている。

富士通ゼネラル <6755> [東証P]は、欧州におけるヒートポンプ需要の拡大を受けて、欧州現地生産へのシフトを強めている。昨年12月にはフランスの給湯・暖房機器メーカーであるアトランティック・グループと合弁会社を設立しており、ヒートポンプ温水暖房システムの現地生産を開始。更に東欧に工場を新設する方針だ。

岩谷産業 <8088> [東証P]は、工場や大型施設に向けて、ガスでコンプレッサを駆動させヒートポンプによって冷暖房を行うガスヒートポンプ空調を展開している。欧州でヒートポンプ空調の需要が伸びていることを受けて、今年1月にはタイで金属加工を手掛ける既存工場を拡張するなどしており、市場拡大の恩恵を受けそうだ。

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