窪田真之(楽天証券)が斬る ―どうなる?半年後の株価―

特集
2023年7月13日 13時00分

好調な企業業績や日銀による超金融緩和、円安などを背景に、日本の株式相場は堅調に推移している。日経平均株価もバブル崩壊後の最高値を更新するなど好調だ。もっとも、市場関係者の間では、米連邦準備理事会(FRB)の利上げ継続への警戒感は根強い。ロシアによるウクライナ侵攻は収束のメドがつかず、米国と中国の政治経済の対立など懸念材料も消えていない。アナリストやエコノミストなどの専門家は、「半年後の株価」をどう見ているのか。インタビューを通じて、著名アナリストに予測してもらい、その背景を詳報する。第16回は楽天証券の窪田真之チーフ・ストラテジストに話を聞いた。

●窪田真之(くぼた まさゆき)

楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。

1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。住友銀行、住銀バンカース投資顧問、大和住銀投信投資顧問を経て2014年より現職。日本株ファンドマネージャー歴25年、1000億円以上の大規模運用で好実績をあげたスペシャリスト。


窪田真之氏の予測 4つのポイント
(1) 半年後の日経平均株価は3万2000~3万5000円程度と予測
(2) インフレ復活など日本経済の構造変化が日本株高を呼ぶ
(3) 「ソシオ・ショック」でも半導体関連産業の成長性は変わらず、暴落はない
(4) メガバンクや保険大手など金融関連、商社など資源関連に注目

―― 日本株は高水準での取引が続いていますが、米国の利上げ継続への観測が再び強まっています。半年後(2024年1月末)の日経平均株価をどう予測していますか。

窪田:私は半年後の日経平均株価は3万2000~3万5000円程度だと考えています。

―― 日本株はある程度、堅調に推移するという予測かと思います。背景の説明をお願いします。

窪田:背景には景気の循環的な要因と日本経済の構造変化があります。株式市場では「米国や中国の景気が年内にソフトランディングして来年、回復に向かう」という期待から買いが入っています。これに加えて日本株には「インフレの復活」、「自社株買い」、「新型コロナウイルス禍からのリオープン(経済再開)」という独自の好材料があります。

―― 確かに海外投資家などから日本株を再評価する声が強まっています。独自の好材料を具体的に聞かせてください。

窪田:例えばインフレの復活です。日本企業が必要な値上げをできるようになってきました。日本の生鮮食品およびエネルギーを除くコアコアの消費者物価指数(CPI)の前年比上昇率が上昇しています。コアコア・インフレは企業収益を直接押し上げますから、株式市場では買い材料になります。物価上昇を受けて、内閣府が発表した1-3月期の名目国内総生産(GDP)の伸び率も前期比年率で8.3%増に上りました。これまで日本経済はデフレで苦しんでいましたから、大きな変化です。

東京証券取引所が3月、PBR(株価純資産倍率)が低迷する上場企業に対して改善策を開示・実行するよう要請したこともプラス材料です。これまで日本企業は財務のバッファー(緩衝材)があるにも関わらず、自社株買いを欧米企業ほど積極的にはやってきませんでした。東証の要請を受けて日本企業は自社株買いをはじめとした資本効率、PBRの改善に乗り出しており、足もとの株高を支えています。

欧米に比べて遅れていたコロナ禍からの経済再開が始まったことも、日本独自の株高要因です。日銀が発表した6月の全国企業短期経済観測調査(短観)では、訪日外国人の増加やリベンジ消費などを受けて「宿泊・飲食サービス」の景況感が前回から大幅に改善しました。

図1 日米インフレ率の推移

【タイトル】

―― 株式市場では楽観論が広がっており、市場関係者の一部では日経平均株価が年内に4万円前後に上昇すると予測する向きもあります。

窪田:私は日本株の予測を立てる際に、PER(株価収益率)がどんどん切り上がっていくという前提には立っていません。EPS(1株当たり利益)が増加していく前提で予測を立てています。企業収益が増加してもPERが上昇するとは限らないからです。このため、半年後に日経平均がそこまで上昇するとは予測していません。

日本は製造業の存在感が大きい産業構造だけに、PERが上がりづらい面があります。製造業は海外の工場などが地政学リスクの影響を受けやすく、製造物責任などのリスクもあるためです。一方、米国は盛んだった製造業が空洞化してIT(情報技術)大手のGAFAMなどが台頭しました。インターネット関連やバイオテクノロジー、ヘルスケアといった成長産業が多く、PERも上昇しやすくなっています。

もちろん、PERがそこまで上がらなくてもEPSが増加すれば、日本株はさらに上昇します。私は早ければ2年、遅くとも4年以内に日経平均が4万円に達すると予想しています。 

―― 7月6日の東京株式市場では、半導体設計のソシオネクスト <6526> [東証P]の下げをきっかけに株価が下落し、「ソシオ・ショック」などと呼ばれました。富士通 <6702> [東証P]やパナソニック ホールディングス <6752> [東証P]など大株主が一斉に同社株の売り出しを決めたことが背景で、ほかの半導体関連株にも売りが出ました。半導体関連株はこれまで上昇してきましたが、今後の動きをどう見ますか。

窪田:シリコンサイクル(半導体業界における好不況の波)は来年に回復する見通しで、株式市場では、それを見込んで半導体関連株に買いが入っています。すでに株価は上昇していますが、半導体は成長産業です。パソコンやスマートフォンだけでなく、AI(人工知能)や家電など多くの製品の基幹部品だけに、今後も市場が成長するでしょう。こうした意味では今後も株価が大きく下がることはないと考えています。

―― 日本の株式市場で、注目する業界や銘柄を教えてください。

窪田:「ディープバリュー株(本来の企業価値に比べて大幅に割安な株)」に注目しています。例えば、配当が高いにもかかわらず、PBRが大きく1倍を割り込んでいるような金融、資源関連の銘柄です。今後、インフレが定着して金利が上がれば、メガバンクや保険大手などの収益性も改善します。

資源関連の銘柄にも注目しています。世界景気が緩やかに回復していけば、原油価格も上昇していくでしょう。日本でいえば、INPEX <1605> [東証P]やENEOSホールディングス <5020> [東証P]、大手商社などです。著名投資家のウォーレン・バフェット氏率いる米投資会社バークシャー・ハサウェイ<BRK.B>の買いを受けて商社株は上昇しましたが、なお買い余地があると考えています。

(※聞き手は日高広太郎)

◆日高広太郎(ジャーナリスト、広報コンサルティング会社代表)
【タイトル】
1996年慶大卒、日本経済新聞社に入社。東京本社の社会部に配属される。小売店など企業ニュースの担当、ニューヨーク留学(米経済調査機関のコンファレンス・ボードの研究員)を経て東京本社の経済部に配属。財務省、経済産業省、国土交通省、農水省、日銀、メガバンクなどを長く担当する。日銀の量的緩和解除に向けた政策変更や企業のM&A関連など多くの特ダネをスクープした。第一次安倍内閣時の独ハイリゲンダムサミット、鳩山政権時の米ピッツバーグサミットなどでは日経新聞を代表して同行取材、執筆。東日本大震災の際には復興を担う国土交通省、復興庁のキャップを務めた。シンガポール駐在を経て東京本社でデスク。2018年8月に東証1部上場(現プライム市場)のB to B企業に入社し、広報部長。2019年より執行役員。2022年に広報コンサルティング会社を設立し、代表に就任。ジャーナリストとしても記事を複数連載中。2022年5月に著書「B to B広報 最強の戦略術」(すばる舎)を出版。内外情勢調査会の講師も務め、YouTubeにて「【BIZ】ダイジェスト 今こそ中小企業もアピールが必要なワケ」が配信中。

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