上げ相場では開店休業中でも、資産2億円超え&FIRE達成の訳
すご腕投資家さんに聞く「銘柄選び」の技 みねおかさんの場合-第1回
2023年6月に55歳で公務員を辞め、目標にしていたFIRE(経済的自立と早期リタイア)を達成する。株式投資を始めたのは03年からで、当初は株主優待目当てだった。しかし、14年にマイホームのローン完済したのを機に割安株狙いに変更。暴落時に買い向かい、その後は基本、ホールドし続ける投資スタイルを確立させていく。現在の運用資産は約2億3000万円。家計に役立つ優待銘柄を中心に、家族4名義分の口座を用いて銘柄を保有し、一口座当たりの保有数は約130銘柄に。自宅取得と同時に賃貸駐車場も得ており、この不動産収入も家計や投資の種銭づくりに貢献している。
昨日(10月3日)のTOPIX(東証株価指数)は前日比▲1.68%と今年4番目のきつい下げとなった。とはいえ25日・75日・200日の3つの移動平均線は、依然上向き基調だ。
こうした上昇相場の最中には、投資は開店休業の状態を決め込んでいるのが、今回から登場するみねおかさん(ハンドルネーム)だ。
■TOPIXの日足チャート(2022年末~)
みねおかさんは、金融資産が目標の2億円に手が届き、この6月に55歳で公務員をFIRE(経済的自立と早期リタイア)したばかりだ。投資に充てる時間が十分ある中で、前のめりになっていないのは、FIREしたことで守りに入っているからではない。
その理由は、みねおかさんの特徴である自分がこれだと描いた設計図を、とことん貫く"頑固さ"にある。それはどのようなものなのか? みねおかさんがFIREに至った軌跡を3回シリーズで見ていく。
初回は、足元の上げ相場では開店休業状態でいる理由を見ていく。
■FIREを実現し、家族とお祝いした際にもらったケーキ
撮影:本人
コロナ大暴落で1000万円を投入
現在、さしたる取引をしていなくてもホクホクの状態でいられるのは、過去に強気買いした「種」が豊作となって恵みをもたらしているからだ。
直近では2020年春のコロナ大暴落で、果敢に買い向かったことが大きなキメ手となった。この時の新規の投入資金は、約1000万円。売買高を伴う大きな下落となった2月28日と3月9日の2度に分け、ここぞとばかりに、狙っていた銘柄を買い集めていった。
もちろん完璧な底値拾いをできたわけではないが、今から振り返れば絶好の買い場を見逃さなかったことになる。
■コロナ禍当初の日経平均株価の動き(20年2月1日~12月2日)
注:出来高・売買代金の棒グラフの色は当該株価が前期間の株価に比べプラスの時は「赤」、マイナスは「青」、同値は「グレー」。以下同
コロナ禍で、アウトドアの早い立ち上がりを予想
その時に仕込んだ銘柄の1つが、釣具やテニス・ゴルフ用品などのアウトドア関連を手掛けるグローブライド<7990>だ。
コロナ感染が拡大すれば、人々がレジャーやイベント参加、旅行、飲み会などを控え出すのは容易に想像がつく。そうした中で、アウトドア関連は、特に嫌われ売られる銘柄であることに目を付けた。
銘柄選びに当たっては、自身のテニス仲間たちの顔を思い浮かべながら、彼らは今、どのような気持ちでいるのか考えた。人との接触でコロナ感染するのは避けたいが、好きなテニスをずっとしないで平気なわけがない。
感染拡大に落ち着きが見られれば、密集する場面が少ない野外スポーツのテニスは、すぐにファンは戻ってくる。釣りやゴルフもそうだ。むしろ、こんな時期だからこそ、より人との交流を求めて人気が高まると、グローブライドに買いを入れた。
■グローブライドの日足チャート(19年12月1日~20年2月19日)
その読みは的中する。20年3月9日に800円台で仕込んだ同社株は、その約9カ月後には2000円を超えるまでに復活していた。
みねおかさんは、通常はそのまま売らずに保有を続けるのだが、このケースでは利益確定して待機資金に向けることとする。約2200円水準で手仕舞いし、投入金を3倍近くに拡大させた。
グローブライドと同日、やはり暴落の中で買い向かったものに、二輪車世界大手のヤマハ発動機<7272>もある。
この銘柄も、バイクはアウトドア関連で立ち直りが早いという思惑から参戦する。素早い判断が決め手となり、ほぼ底値で拾うことに成功した。ヤマハ発については、現在も保有し続けている。
■ヤマハ発動機の週足チャート(19年12月13日~)
設計-1 いざという時のために、フルポジはご法度
みねおかさんが暴落時のチャンスを確実にものにするために描いた設計図の1つが、フルポジションをご法度としていることだ。常に一定水準のキャッシュを温存している。2億円を超える資産を持つ足元の待機資金は、数千万円規模になる。
相場の暴落時は、この種銭で落ちてくるナイフを掴みにかかる。その最中には、含み損というナイフの刃に傷つくこともあるが耐え忍ぶ。嵐が過ぎ去り、受けた傷も癒えて期待通りにリバウンドし始めたら、含み益がさらに膨らんでいくことを気長に待つ。
急落時に待機資金をつぎ込むと、新たな待機資金の確保が必要になる。みねおかさんは、含み益のある銘柄の中から一部を利確するなどで、新たな待機資金を用意する。
設計-2 平時の場面では、緊急出動リストを作成
どんなに投資経験を積んでも相場の暴落時には、心の動揺を完璧に制御することは難しい。
暴落ハンターのみねおかさんはパニック売りに陥ることはないが、注意しなくてならないのが真逆のパニック「買い」に走ることだ。ついにやって来た買い場にアドレナリンが必要以上に出ると、冷静な判断ができなくなってしまう。
この「逆パニック」に陥らないために本人が取り組んでいるのが、「開店休業の時はメニューづくりに精を出す」ことだ。暴落時に購入する候補を、リスト化する。
主な候補となるのが、
・株主優待のある飲食関連
・財務が健全で、業績の向上が見込める
・株価上昇のカタリスト(株価を動かす要因)がある
――などになる。
こうした暴落時の注文メニューを用意しているからこそ、何年かに1回あるかのチャンスに、心を穏やかにして落ちてくるナイフを拾いにいくことができる。
設計-3 「暴落日記」を記し続ける
みねおかさんは、相場の暴落時に「暴落日記」をつけることを日課にしている。
そこには、日経ボラティリティ・インデックス(VI)や、証券会社が提供する信用評価損益の状況などが暴落局面ではどのような経過を辿ったのか記録している。20年春のコロナ暴落時にも「コロナ暴落日記」を記録している。
■みねおかさんが記した「コロナ暴落日記」の一部
日経VIは、一般に株価が急落し人々の不安心理が高まると、上昇していく。信用評価損益は、信用取引でポジションを持つ人の損益状況を表す。みねおかさんは狙う銘柄の過去の底値と見比べながら、信用の追証に入れる資金捻出のための売りが出尽くしになるタイミングを自分なりに図るのだ。
みねおかさんによれば、暴落日記は、自身の相場観察の精度を高め、同時に自分は今、この局面で何をすべきなのかを整理することで、最適な買い場を探ることに役立つ存在となっている。
20年のコロナショック⑦(下図参照)以前に襲った暴落時でも、みねおかさんは暴落日記をつけながら、買いのチャンスを探っていた。主な買い場に
① 14年10月の「エボラ出血熱ショック」
②と③ 15年8月と16年2月に襲った「チャイナ・ショック」、
④ 16年6月の「Brexit(英国の欧州連合離脱)ショック」、
⑤と⑥ 18年の初めと後半に数度にわたって起きた「ショック」
――などがある。いずれの暴落時もその後のリターン・リバーサルの波にうまく乗ることができた。
■日経平均株価の月足で見るこれまでの主な暴落(13年11月~20年10月)
こうした幾多のチャンスをモノにし、投資成果をぐんと上げてきたみねおかさんだが、本人は「自分は投資が下手くそ」と話す。
その表情は、単に謙遜をしているのとは違った何かを感じさせるものだった。
※当該情報は、一般情報の提供を目的としたものであり、有価証券その他の金融商品に関する助言または推奨を行うものではありません。