水害対策や脱炭素分野で商機到来、存在感放つ「ポンプ関連」に熱視線 <株探トップ特集>

特集
2023年10月5日 19時30分

―さまざまな産業に欠かせない“縁の下の力持ち”、国内外で受注は増加中―

国内外で産業用ポンプ の存在感が増している。液体や気体、スラリーの制御、調整、誘導などに使用されるポンプはいわば縁の下の力持ちで水・下水処理、石油・電力、食品・飲料、化学などの分野で使用されている。世界的な水不足への懸念から上下水道処理施設の需要増加が見込まれることに加えて、気候変動に伴う 水害対策 脱炭素分野での利用が今後増加するとみられており、市場の拡大が期待されている。関連企業のビジネスチャンスも拡大しそうだ。

●22年度の受注高は10%増

国内外でポンプ受注は堅調に推移している。日本産業機械工業会によると、ポンプの受注高はコロナ禍の2020年度に前年度比3.1%減の3711億円に落ち込んだものの、21年度には4305億円(前年度比16.0%増)、22年度には4730億円(同9.9%増)へ拡大した。国内外の内訳では、国内向けが20年度2970億円(同0.6%増)から21年度3128億円(同5.3%増)、22年度3239億円(同3.6%増)と堅調に推移。一方、海外向けは20年度741億円(同15.7%減)から21年度1176億円(同58.8%増)、22年度1490億円(同26.6%増)と急増している。

国内では、原子力発電所向けが落ち込んでいるものの、東日本大震災を受けた水関連インフラの復興需要に加えて、国土強靱化に伴う防災対策など官公需が増加している。一方、海外は途上国を中心にインフラ整備需要が増加基調にあるようだ。

幅広い産業に使われているポンプだが、今後の需要を牽引しそうな、特に二つの分野に注目したい。

●水害対策の要を担う

一つ目は水害対策の分野だ。都市部における雨水の排水や河川対策などにポンプが用いられており、水害対策の要を担っている。国土交通相の諮問機関である社会資本整備審議会の資料によると、気温が2度上昇すると降雨量は約1.1倍となり、河川流量は約1.2倍、洪水の発生頻度は約2倍になるとしており、対策の重要度は増している。

河川の洪水対策としては、全国には排水機場と呼ばれるポンプ施設が国・都道府県が管理するもので900施設弱あるが、高度経済成長期に整備されたものが多く、設置後40年以上を経過した施設が高い割合を占めている。これらの更新需要が今後発生する可能性が高い。

●脱炭素分野に注目

次に注目したいのが、脱炭素分野だ。政府は21年に発表したエネルギー基本計画で水素を新たな資源として位置付けており、今年6月に発表した水素基本戦略では、40年の水素(アンモニア含む)供給量を現在の6倍にあたる年間1200万トン程度に増やす方針を掲げた。

水素やアンモニアは国内でも製造できるが、発電コストが低い海外で製造し、それを日本に運んでくることも計画されている。水素やアンモニアは液化して、タンカーで日本に運ぶが、その積み下ろしの際にはポンプが使われることになる。また、液化水素を水素ステーションに運ぶ際にもポンプは必要となり、同分野における需要拡大が期待されている。

●ポンプ関連銘柄に注目

このほか、半導体製造装置向けや世界的な水不足への懸念から上下水道処理施設向けなども今後の需要増加が期待できる。競争力で優位性のある大手を中心に関連銘柄に注目したい。

荏原 <6361> [東証P]は、ポンプの総合メーカー。30年までの長期ビジョンでは水インフラなどに使われる量産品の「標準ポンプ」を成長事業に位置づけており、特に海外売上高の拡大を狙う。その布石として、海外企業のM&Aに力を入れており、21年4月にはトルコのポンプメーカーを傘下に持つシグリス社を買収。22年9月には北米に拠点を持つヘイワード・ゴードン社を買収した。また、21年4月にはドイツに半導体製造用ドライ真空ポンプのオーバーホール工場を新設し、アフターサービスの強化も図っており、海外事業を牽引役とした成長が期待されている。23年12月期はサービス&サポートの好調もあり、連結営業利益710億円(前期比0.6%増)を予想。更に液化水素用ポンプの開発も注目されている。

酉島製作所 <6363> [東証P]はプラント用の大型ポンプに強みを持ち、海水淡水化プラント向けでは世界トップ。足もとの受注は、海外大型案件による変動はあるものの、水資源を中心としたインフラ整備や防災・減災対策、淡水化プラント向けなどが堅調。24年3月期は連結営業利益68億円(前期比14.7%増)を見込む。また、新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO)が実施する「競争的な水素サプライチェーン構築に向けた技術開発事業/大規模水素サプライチェーンの構築に係る技術開発」に対して同社の「大流量・高圧・高効率な液化水素昇圧ポンプの開発」が採択されたことで脱炭素分野でも注目されている。

日機装 <6376> [東証P]は特殊ポンプに強み。23年12月期は、LNG向けなどが伸長する一方、LEWA社及びGeveke社の連結除外の影響などもあって連結営業利益40億円(前期比88.3%減)を見込む。注目は液化水素用ポンプの開発で、10月4日には水素航空機向け液化水素ポンプの実液試験に成功したと発表した。川崎重工業 <7012> [東証P]から委託を受けて開発に取り組んでおり、25年度の納入を目指しているという。

鶴見製作所 <6351> [東証P]は水中ポンプの国内最大手で、足もとでは、国内で豪雨対策などのインフラ整備関連事業の受注が堅調に推移しているほか、海外では北米や香港、タイなどの子会社が建設・設備向けの受注を順調に伸ばしている。24年3月期は景気減速懸念などを考慮し連結営業利益は67億円(前期比7.8%減)を見込むが、8月9日に発表した第1四半期営業利益は17億6300万円(前年同期比32.8%増)と上期計画に対する進捗率が75%に達している。

電業社機械製作所 <6365> [東証S]はポンプ大手の一角で官公需に強みを持つ。足もとでは水害対策などの官公需のほか、国内民需も受注が増加する一方、大型案件における追加工事の発生で24年3月期第1四半期は連結営業損益が1億7100万円の赤字(前年同期4800万円の赤字)となった。通期では営業利益23億7000万円(前期比6.9%減)を見込むが、6月末時点で受注残高は291億円(前年同期比19.0%増)と豊富にあり、業績回復への期待がかかる。

このほか、真空ポンプに強みを持つ宇野澤組鐵工所 <6396> [東証S]、化学用精密ポンプに強みを持つタクミナ <6322> [東証S]などにも注目したい。

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