明日の株式相場に向けて=「テスラ売り・トヨタ買い」の衝撃波
きょう(7日)の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比40円安の3万6119円と続落。小幅下落とはなったが、むしろ強さが際立つ地合いだった。値上がり銘柄数が値下がりを上回りTOPIXは余裕のプラス圏で着地。半導体関連は冴えない動きが目立ったが、それでも全体相場は崩れる気配を見せなかった。個別株は決算発表によって明暗を分けてはいるものの、総じて物色意欲は旺盛であったといってよさそうだ。
そのなか、個別株ではトヨタ自動車<7203>の快走が目を引く。前日の後場取引時間中に今3月期業績予想の上方修正を発表、最終利益は従来予想の3兆9500億円から4兆5000億円に大幅増額し、これが評価され株価は連日の上場来高値更新となったのだが、きょうもその延長線上で株価の好パフォーマンスが続いた。一時は7.3%高の3364円まで上値を伸ばす場面があった。前日終値で時価総額は50兆円の大台に乗せたが、そこからあっという間に4兆円あまり上乗せするなどまさに有卦に入っている状態だ。
買い主体は海外投資家とみられるが、これはトヨタの好決算を評価する以外にもいくつかの複合的な買い材料が存在している。例えば、半導体受託生産世界最大手TSMC<TSM>が、熊本工場の運営子会社であるJASMにトヨタも出資することを発表、きょうはこれも目先の株価刺激材料となった。しかし、市場関係者の間ではそれよりももっと需給的見地からの「トヨタ買い」の背景が囁かれている。
まず、ここで注目されるのは米テスラ<TSLA>の株価が年初から一貫して下落歩調にあることだ。前日の米国株市場で同社株は反発に転じたとはいえ2%強の上昇にとどまっており、下げ止まったイメージには遠い。同社株は10~12月期決算発表を受けて1月25日にマドを開けて売り込まれたのだが、その後もリバウンドらしいリバウンドをみせることなく、更に下値を探る動きを強いられている。ここにきて世界的な電気自動車(EV)シフトの流れに陰りがみられているのは、寒波で立ち往生する車両が続出したことなど、使い勝手の悪さが浮き彫りとなっていることともう一つ、今年の大統領選でトランプ前大統領が返り咲く可能性が高まってきたことが挙げられる。
仮にトランプ氏が再び大統領の座に就いた場合、バイデン米政権が強力に推し進めてきた脱炭素政策の大幅な方向転換が見込まれる。そして、その象徴であるEVは敵視の対象ともなり得るため、EV関連のシンボルストックがテスラである以上、機関投資家の立場では足もとの業績を云々する以前に同社株の保有ポジション(持ち高)を低める動きが相次ぐのはうなずける。しかし、「テスラが嫌気される背景はそうした大局的な話よりももっと深刻」(ネット証券マーケットアナリスト)という指摘がある。
それは、米ウォールストリート・ジャーナルが連載形式で報道しているイーロン・マスク氏の違法薬物使用問題で、マスク氏だけでなく他の複数の取締役も使用している可能性が報じられている。「これを天下のウォールストリート・ジャーナルが“文春”並みの高姿勢で、不退転の構えで報じていることに驚かされる。FBIからのリーク、そして更にその後ろには現政権が絡んでいる可能性が否定できない」(同)とする。何やら陰謀論めいてはいるが、辻褄の合う話で、マスク氏潰しの動機はX(旧ツイッター)における情報発信に絡んでいるという見方もあるようだ。テスラはマグニフィセントセブンの一角ではあるが、ワンマン経営ゆえの脆弱性は常に意識され、「テスラ株を大量に持ち続けることは相当な太い神経の持ち主か、あるいは神経が麻痺しているかのどちらか」とする声もあながち誇張された表現ではない。ひと頃の「トヨタ売りのテスラ買い」というロングショート戦略は、足もとで大逆流を始めているという指摘もある。皮肉にも今度は「テスラ売りのトヨタ買い」が、トヨタの“日本版1兆ドルクラブ”実現に向かう道程の演出に一役買う可能性がある。
あすのスケジュールでは、1月の貸出・預金動向、12月の国際収支統計(速報値)、1月のオフィス空室率、1月の景気ウォッチャー調査など。また、東証グロース市場にVeritas In Silico<130A>が新規上場する。海外では、1月の中国消費者物価指数(CPI)、1月の中国生産者物価指数(PPI)、インド中銀の政策金利発表、チェコ中銀の政策金利発表、週間の米新規失業保険申請件数、12月の米卸売在庫・売上高など。米30年物国債の入札も行われる。台湾、インドネシア、ベトナムの各市場は休場。(銀)