明日の株式相場に向けて=AI・半導体周辺株がマッハの切り返し
きょう(12日)の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比22円安の3万8797円と続落。前場中盤に500円超の下落で3万8200円台まで大きく突っ込んだ日経平均だったが、後場は漸次買い戻しが利いて戻り足を明示、引け際プラス圏に浮上する場面もあった。荒れた地合いながら、日銀の金融政策正常化に向けた動きが前倒しされるという観測をマーケットは大方織り込んだ感触だ。少なくとも日銀サイドから投げられたビーンボールもどきの球筋に、ビックリして尻餅をつくような状況ではなくなったといえる。
前日は前引け時点でTOPIXが2%超の下落を示したのにもかかわらず、日銀はETF買いを入れなかった。これは前日の引け後に市場関係者の間で結構な話題となっており、次回の金融政策決定会合で政策変更を行う意思表示という捉え方が大半を占めた。ただし、先物主導で仕掛け的な売りを入れたショート筋も疑心暗鬼で一貫性を欠いている。一部の“急騰急落株”に追い証が発生しているほかは狼狽したムードはなく、前日時点の信用評価損益率はネット証券大手の店内でマイナス2.5%と、むしろ強気相場が過熱しているような状況だ。株式市場は日銀の変節を段階的に織り込んでいる印象が強い。金融政策の正常化はいずれにしても時間の問題であり、それが早まったにせよ寝耳に水ということはない。
この「金融政策の正常化が近い」というコンセプトも一筋縄ではいかず、必ずしも「マイナス金利解除の前倒し」という言葉で置き換えられるとは限らない。マイナス金利を解除した段階でとりあえず正常化がなされたといえるのか。それともゼロ金利ではダメで政策金利に0.1%あるいは0.25%でも色をつけた状態になって初めて正常化の一歩を踏み出したといえるのか、そこら辺が曖昧である。
したがって、株式市場ではマイナス金利解除後の金利動向の方に視点が移っている。場合によっては仮に3月にマイナス金利を解除したとして、ゼロ金利状態でしばらく様子を見るということならば、銀行株を急いで買う必然性はない。日銀の金融政策に対する思惑が週明けの波乱相場を演出したというのであれば、逆に嵐の中で銀行や生保株は買われるのが道理だ。しかし、きょうは全33業種のなかで「銀行」が値下がり率トップであった。3月期末配当の駆け込み権利取りが意識され、なおかつ今月の日銀決定会合でマイナス金利解除が視野に入った時間軸にありながら、売り込まれるのは解せない。年金基金のリバランス売りだけであれば、直近の三菱UFJ <8306> のような断崖チャートは形成されないはずだ。
植田日銀総裁の直近のコメントを聞く限り、「景気は回復してはいるのだが、物価高で個人消費が低調なのも気になる」という煮え切らない印象。物価高で消費が滞るのであれば、それは軽度のスタグフレーションである。いずれにしても今週末15日の春闘の賃上げ動向を参考にする方針を示唆してはいるが、日本の99%が中小企業である現実を考慮して、本当にこれが国内の経済状況を見極めたうえでの金融政策選択につながるかは疑問。植田総裁の本心としては、マイナス金利を解除しても実際に利上げ局面に移行するまでのモラトリアム期間は出来る限り長くしたいのではないか。足もと常識的には買いで報われそうな銀行株の軟調ぶりは、タカ派になれない日銀の苦悩が反映されているようにも見える。
きょうの相場で鮮烈に買い戻されたのが人工知能(AI)や半導体関連の一角だ。前週末9日のトップ特集「『AI用半導体』の需要沸騰!『究極の株高予備軍5銘柄』大選抜」でリストアップされたシキノハイテック<6614>が4連騰で上げ足加速、ディジタルメディアプロフェッショナル<3652>は一時ストップ高人気に買われた。トリケミカル研究所<4369>も戻り足が急だ。米エヌビディア<NVDA>が急反落したとはいえ、AI用半導体が払底状態にあるほど需給タイトであることに変わりはない。エヌビディアの目先の株価動向が同社株の成長シナリオそのものを霧消させるということはない。目先、東京市場における需給面の要衝として注目されるのが、ウリ気配S安モードのさくらインターネット<3778>。どこで切り返すかが、全体相場の流れを見るうえでもカギを握りそうだ。
あすのスケジュールでは、2月の投信概況が午後取引時間終了直後に発表される。また、この日は春季労使交渉(春闘)の集中回答日にあたる。海外では1月のユーロ圏鉱工業生産に関心が集まる。一方、米国では特に大きなイベントは見当たらないが、債券市場で米30年物国債の入札が行われる。(銀)