さあ3月期決算の発表シーズン、サプライズは「楽観予想進捗率」で狙え!
大川智宏の「日本株・数字で徹底診断!」 第134回
智剣・Oskarグループ CEO兼主席ストラテジスト
2005年に野村総合研究所へ入社後、JPモルガン・アセットマネジメントにてトレーダー、クレディ・スイス証券にてクオンツ・アナリスト、UBS証券にて日本株ストラテジストを経て、16年に独立系リサーチ会社の智剣・Oskarグループを設立し現在に至る。専門は計量分析に基づいた株式市場の予測、投資戦略の立案、ファンドの設計など。日経CNBCのコメンテーターなどを務めている。
前回記事「歪み相場で生じた『お宝』銘柄、そして『地雷』銘柄の顔ぶれは」を読む
日本をはじめ、世界の株式市場は高値圏にありますが、地域を問わず米国の金融政策の動向に振り回される形での乱高下が続く状況となっています。
想定外に強い米国経済によって当面は波乱含みの展開が続く可能性がある中で、国内市場では、3月期決算の発表が本格化します。
約4000社に達する日本の上場企業のうち、その半数以上の2353社(前期実績)が3月期決算で、24年3月期の決算発表は5月中旬ころまで続く予定です。
■国内上場企業の本決算月の分布状況
出所:LSEGデータストリーム
証券会社のアナリストや機関投資家にとっては、毎年4月半ばから5月中旬にかけて決算やガイダンス(業績予想)の分析などに忙殺される地獄のような日々を送ることになります。
この時期は、機関投資家の短期的な決算プレーやポジション組み入れ銘柄の大幅な入れ替えなどが起こることから、個別銘柄の株価が大きく動くことがあります。
「実績」より「予想」に注目が集まるが……
こうした変化をもたらす要因として注視されるのが、終わった期(24年3月期)の実績より、今期(25年3月期)のガイダンスです。
株式投資は、「現在」よりも「将来」、「実績」よりも「予想」に重きが置かれます。24年3月期決算はこれから発表されますが、その内容が株価に織り込まれるのは、第3四半期累計決算が発表された今年の1~2月に大方終えていると考えるのが一般的です。
とは言うものの、個々の会社の数字を詳細に見ていくと、そうとも言い切れない要素が存在します。それが、第3四半期終了時点での「進捗率」です。
進捗率とは、業績が進捗した割合(パーセンテージ)で、売上高や営業利益など各利益の会社計画に対して、各四半期の累積値の割合を見る指標となります。
通常、通期は12カ月決算で、4つの四半期に分かれることから、進捗率は第1四半期で25%、第2四半期累計(上期)で50%、第3四半期で75%、そして第4四半期(通期)で100%となるイメージです。
ただし、業種や企業によっては、夏場や年度末などに収益が偏る季節要因などから、上記のように均等に四半期の進捗率が推移しないこともあります。また期中に経済や事業環境が期初時点より大きく変化し、それが進捗率に影響を与える可能性があります。
そうした場合、会社は業績を上方ないしは下方修正して、期末時点で100%を達成する新たなガイダンスを示します。それらを踏まえると、通常は、第3四半期終了時点の進捗率は75%前後となっているのが通常です。
ヤオコーなど、3Q時点で100%超えのままのケースも
しかし、「そうなってはいない」ケースも多々あり、たとえば3Q時点の進捗率が、既に100%を超えている企業もあるのです。
4月5日現在で、3月期決算の企業の進捗率を確認すると、高い精度で計画を立てることができる「売上高」については、100%を超過している企業は2社にとどまります。一方で、本業の儲けを表す「営業利益」については100%を超過する企業は265社にものぼります。
想定以上の利益が出ているにも関わらず、業績修正をしていない企業の1社が、埼玉県を地盤にスーパーマーケットを展開するヤオコー<8279>です。同社の場合、営業利益の進捗率は現時点で120%となっています。この超過理由について、同社のIR資料には明確な記載はありません。
■ヤオコーの営業利益の24年3月期3Q累計(右)と通期計画の比較
出所:会社資料
会社は自社の事業のプロであっても、経済金融のプロとは限らない
ヤオコーのように、すでに計画を上回る収益を上げているのにもかかわらず上方修正をしないのには、複数の要因が考えられます。
1つは、収益が為替や金利など自社の管理が及ばない要因で押し上げられている場合、その反動に備えて会社が慎重かつ保守的に見積もっていることが考えられます。
次に、会社が業績予想を重要視せず、修正を適宜実施しないケースもあるでしょう。そして、要注意なのは、第4四半期に何らかの大きな赤字が発生する可能性があることを踏まえて、修正を控えている可能性もゼロではないでしょう。
上に挙げた3つの例は、自社の業績動向は、その会社自身がもっとも熟知しているとの前提に立っています。
たしかに、展開する事業そのものについては、計画を立てる会社がもっとも精通していると考えるのが自然です。しかし、自社の事業をとりまく経済金融などの外部要因の分析にも長けているかといえば、そうとも限りません。
社内に為替や金利の専門家を配置していたり、傘下にシンクタンクなどを擁していたりする会社は別として、多くの企業はマクロ経済の前提を精緻に織り込んだ予想を作成していないでしょう。
市場予想の分析精度が高いならば、注目されるのは「楽観予想」
こうした状況などから、投資家が会社のガイダンスに全幅の信頼を置けないと判断すれば、企業や経済金融情勢を分析するプロ集団が出した「市場予想」が注目されることになります。
その会社を担当する一人の証券アナリストが、世界経済から金利、為替、地政学リスクや政治までのすべてを網羅できるわけではありません。しかし、社内のエコノミストや為替のストラテジストなどの見解を踏まえて、担当アナリストが予想を構築することで、その精度は事業会社より高くなる面もあります。
市場予想が事業のみならず、事業を取り巻く各種の要素分析を踏まえて構築されているならば、特に注目したいのが「楽観予想」です。これは、複数のアナリストが出した予想値の中でも、最も強い数字が該当します。
話を3Q時点の営業利益の進捗率に戻すと、楽観予想の営業利益に対する進捗率が高ければ、会社の足元の業績は非常に好調で、この勢いは新しい期が始まった後にも続く可能性があります。
■楽観予想進捗率のイメージ
出所:智剣・Oskarグループ
複数ある中での最強の数字を超えているなら、「ポジティブ・サプライズ」
もちろんプロの分析も万能ではなく、その予想にリスクがないとは言い切れません。しかし、1人ではなく複数のアナリストの予想を基に判断することで、リスクを緩和できる面もあります。
複数ある予想の中で、現時点で考えられる一番強い数字を凌駕するほど業績が順調に進捗しているのであれば、着地が想定を大幅に上回る「ポジティブ・サプライズ」となる可能性も高いと言えるでしょう。
参考までに、上場全銘柄のうちで3月を期末とする企業のうち、第3四半期終了時点で営業利益の対楽観予想の進捗率が80%を超えている銘柄の一覧を掲載しておきます。
アナリストのカバー人数が3人未満の企業、赤字の企業は除いています。また、本記事が公開される週の4月12日までに決算を発表予定(または発表済み)の企業も除外しています。
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