安定続くかロシアルーブル【フィスコ・コラム】
ウクライナ戦争から2年あまりが経過し、ロシアの通貨ルーブルが安定さを増しています。戦時下にもかかわらず、非欧米諸国との貿易拡大で同国経済は高成長を維持。それ以上に寄与しているのが5期目に突入したプーチン大統領の政権運営とみられます。
ルーブル相場は昨年、対ドルで3割超も減価しましたが、今年はレンジ内の落ち着いた値動き。引き締め的なアメリカの政策運営の継続が見込まれているものの、対ドルでの下げは限定的です。ロシア経済の高成長がその背景にあると考えられます。2023年の国内総生産(GDP)は+3.6%と、前年の-1.2%から持ち直しました。国際通貨基金(IMF)は24年も同程度の高成長を予想しています。
欧米の経済制裁にもかかわらず主力のエネルギー輸出は拡大し、ウクライナ戦争前の水準に戻しました。欧州連合(EU)と原油取引が減少した分、「影の船団」により中国やインドへの原油輸送が増大し、成長につながっているようです。蜜月関係の中国との直接取引は人民元で決済され、最近の1元=13ルーブル付近での安定的な相場はロシア中銀による為替介入の成果、と専門家は指摘しています。
景気回復に伴いインフレの再加速も顕著です。消費者物価指数(CPI)はコロナ禍を経て前年比+2%台まで伸びが鈍化した後、再び上昇し足元は+7%台と、ロシア中銀の目標である4%を大きく上回っています。同中銀はそれに合わせ政策金利を2023年には7.50%から16.00%に引き上げています。人材の国外流出による人手不足や物価高は国民の生活を圧迫しているはずですが、政治の混乱は抑えられているもよう。
プーチン氏の揺るぎない政権運営の「演出」がやはりルーブル相場にも反映しているとみられます。3月に行われた大統領選で、プーチン氏は過去最高の90%近い得票率で圧勝。2000年にエリツィン氏から引き継いで以降、首相時代を含めておよそ四半世紀にわたって権力を掌握してきました。大統領として5期目を迎えたプーチン氏の任期は2030年までですが、「終身大統領」の可能性が取り沙汰されています。
次の焦点となるのは米大統領選でしょう。バイデン大統領が再選なら、欧米の弱腰な対ロ制裁がロシア経済の回復を引き続き支える見通し。「盟友」トランプ前大統領の再登板なら、プーチン氏にとってさらに好都合でしょう。不正選挙や政敵の監禁・死去、独裁政権・・・ロシアの政治に関わるニュースには「闇」が付きまといますが、差し当たりルーブルの安定化は当面続きそうです。
(吉池 威)
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