新次元ヘ~災害リスク対応、資本コストと株価意識経営【フィリップ証券】

市況
2024年9月4日 15時35分

8/30現在、台風10号が日本列島に上陸。新幹線ほか主要交通網で計画運休実施など災害リスク対応で日本経済への影響も出ている。8月は8日に発生した宮崎県の日向灘を震源とする地震発生後、気象庁が「南海トラフ地震臨時情報」を初めて公表し、1週間の注意呼びかけが継続された。16日に台風7号が関東に接近した際も、異例の主要交通網計画運休を実施。政府も能登半島地震発生後の断水長期化を受けて水道管耐震化対策を打ち出している。東京都内でもそのための工事が目に見えて増えている。防災・減災、国土強靱化への予算も今後一層拡充されよう。自民党総裁候補の石破氏も「防災省」設立を強く打ち出している。

国民の危機意識も高まっているようで、亀田製菓<2220>が防災意識の高まりを受けた長期保存食の需要増が業績を押し上げているとしているほか、包装米飯製品のサトウ食品<2923>の株価が8月に大きく高騰しているのも、猛暑によるコメ不足だけの理由ではないだろう。

アクティビスト(物言う株主)の動きが加速している。調剤薬局首位のアインホールディングス<9627>には香港投資ファンドのオアシス・マネジメントが攻勢をかけている。アインHDに対してはオアシスが約15%保有するほか、セブン&アイHD<3382>も約8%を保有し提携強化に動いている。オアシスは以前、保有していたツルハHD<3391>株式をイオン<8267>に売却してドラッグストアの業界再編を主導したことがある。株価が動意づく下地は窺われよう。

米鉄鋼大手のUSスチール<X>買収手続き中の日本製鉄<5401>傘下の企業に対する動きも激しい。シンガポール拠点の3Dインベストメントは日鉄ソリューションズ<2327>の大株主として登場。ストラテジックキャピタルは大阪製鐵<5449>の買い増しに動いている。日本製鉄は他にも子会社の山陽特殊製鋼<5449>に加え、筆頭株主となっている共英製鋼<5440>や合同製鐵<5410>など、株価が低PBR(株価収益率)の割安に放置された関連企業を擁する。日本取引所グループ標榜の「資本コストや株価を意識した経営」の観点からは再編による企業価値向を目指す可能性もあるだろう。

電子情報技術産業協会(JEITA)は8/27、7月のパソコン出荷台数が前年同月比38%増の57万9000台(出荷台数の約9割のノートPCが43%増)と発表。Windows10の来年10月サポート終了対応に加え、新型コロナ禍の在宅勤務推進で導入が進んだノートPCの買い替え需要が牽引。校務システムに強い内田洋行<8057>は小中学校に1人1台ずつ端末を貸与する「GIGAスクール構想」に係る「ネクストGIGA」が追い風だろう。また、データセンターを経由せずに生成AI(人工知能)が使えるAI半導体の需要増にも繋がろう。

参考銘柄

ライト工業<1926>

・1948年に仙台市で設立。技術力に定評がある専業土木工事(斜面・法面対策工事、基礎・地盤改良工事、補修・補強工事、環境修復工事)、一般土木工事、および建築・その他工事を営む。

・8/7発表の2025/3期1Q(4-6月)は、売上高が前年同期比1.4%減の254億円、営業利益が同21.3%増の20.98億円。受注高は建築事業分野で複数件の大型マンション工事受注も前年同期の米国での大型地盤改良工事の反動減から同3.8%減(472億円)。採算性の向上が利益増に貢献。

・通期会社計画は、売上高が前期比3.1%増の1210億円、営業利益が同21.8%増の137億円、年間配当が同5円増配の75円。8月に入り台風7号および10号と日本列島に近づくか上陸後に発達度合いを高めるなど従来と次元が異なる様相を呈している。防災・減災、国土強靱化の政府建設投資は政府による政策の優先順位が高まると見込まれ、予算の重点計上など同社へ追い風となろう。

ウェザーニューズ<4825>

・1986年設立。気象を含む自然現象データを顧客と共に収集・加工しコンテンツとして提供。BtoB(法人向け)の気象予測に基づく業務支援、およびBtoS(社会向け)の情報コンテンツ提供を行う。

・7/8発表の2024/5通期は、売上高が前期比5.3%増の222億円、営業利益が同0.4%増の32.70億円。BtoBで航海気象(売上比率26%)が同6%増収、航空気象(6%)が2%増収、陸上気象(15%)が9%増収、環境気象(5%)が13%増収。BtoSではモバイル・インターネット気象(37%)が5%増収だった。

・2025/5通期会社計画は、売上高が前期比5.7%増の235億円、営業利益が同16.2%増の38億円、年間配当が同10円増配の130円。IT開発人材強化に伴う人件費増も、天候に応じた柔軟な広告投資戦略は利益率向上に寄与しよう。大型台風や南海トラフ地震臨時情報等に対応した交通網の計画運休などに対し同社の業種特化型「ウェザーニュース for business」などのサービス需要増が見込まれる。

愛知製鋼<5482>

・1940年に豊田自動織機製作所より分離独立。自動車向け特殊鋼大手でトヨタ自動車<7203>グループ企業。鋼材事業、ステンレス鋼事業、鍛造品事業、電磁品事業、およびその他の事業を展開。

・7/31発表の2025/3期1Q(4-6月)は、売上高が前年同期比2.5%減の719億円、営業利益が同51.6%減の14.85億円。販売数量減と販売価格下落に伴い営業大幅減益も、上期会社計画(13億円)を1Qで超過。売上比率15%のステンレス(4.7%増収)は堅調も、同37%の鋼材が8.3%減収だった。

・通期会社計画は、売上高が前期比1.2%増の3000億円、営業利益が同32.5%減の70億円、年間配当が同30円減配の70円(配当性向37.3%)。トヨタグループが政策保有株式縮減を打ち出すなか足元のPBR(株価純資産倍率)0.25倍と低位にとどまる。自動車メーカーと厳しい価格交渉を行う日本製鉄<5401>が同社の第2位株主。少数株主利益の観点から「物言う株主」の動きも注目されよう。

萩原工業<7856>

・1962年に岡山県倉敷市で糸用ポリエチレン糸の製造販売で設立。ブルーシートやコンクリート補強繊維の「合成樹脂加工製品事業」、および産業機械スリッターの「機械製品事業」を主に営む。

・6/10発表の2024/10期1H(11-4月)は、売上高が前年同期比2.8%増の163億円、営業利益が同25.8%増の12.71億円。売上比率82%の合成樹脂加工製品は、包装資材用途「メルタック」およびコンクリート補強繊維「バルチップ」が海外堅調。ブルーシートは能登半島地震の復興需要へ優先対応。

・通期会社計画は、売上高が前期比2.4%増の320億円、営業利益が同11.2%増の22億円、年間配当が同14円増配の50円。建築現場の資機材野積みカバーで使われるブルーシートで同社は国内シェア約9割。土嚢の布袋でも高シェア。防災シートも軽量・高防音性の高技術。バルチップはコンクリート耐久性を高める資材として世界シェア2割。人工芝は商業施設やオフィスでの導入が広がる。

フィリップ証券
フィリップ証券 リサーチ部 笹木和弘
(公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト)

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