「え、今、それを拾うの?」FP1級が 訳アリでもナンピン勝負に挑むワケ
すご腕投資家さんに聞く「銘柄選び」の技
JIROTYOUさんとKentetsuさんの場合-最終回
1964年、20歳から元手20万円で株式投資を開始。その後に休止を経て、1998年のNTTドコモ上場時に再開、約5000万円の追加資金を経て、現在運用資金は4億円以上、保有銘柄は1150になる。主に暴落時を生かして高配当&優待株を中心に割安株に買い向かい、再投資をしながら長期投資を続ける。園芸は趣味。ハンドルネームは、生まれ育った現在の静岡市清水区の「清水の次郎長」に由来する。
「株探-個人投資家大調査-2024」の回答者で、投資スタイルは「配当・株主優待重視」、日本株投資の腕前は「上級者」となる。
株式投資をしていた父親の影響も受け、本人が20歳の1979年のころから株式投資を開始。累積元本約5000万円に親からの相続資産1億円を加え、現在4億円以上を運用資金とする。日本を代表する大型株中心だった父とは違い、新興市場株やアメ株も加えながら長期投資する。現在の保有銘柄は約600。暴落時や、不祥事などの訳アリ下落株を狙う逆張りハンター。趣味はミリタリー関連、釣りと古銭切手等収集。
「株探-個人投資家大調査-2024」の回答者で、投資スタイルは「バリュー重視」、日本株投資の腕前は「上級者」となる。
第1回記事「日銀ショック時に1500万円分の逆張り、勝つ秘訣は『花の手入れ』」を読む
「落ちるナイフは掴むなと言われますが、大人しくしていられないんです」
そう話すのは、前回に続く4億円ベテランコンビの1人、Kentetsuさん(ケンテツさん、ハンドルネーム)だ。
今年2024年8月初めの日銀ショックでは「5000万円ヤラレた」と聞き、さぞ、凹んでいるのだろうと思いきや、当の本人は、この時期にせっせとナンピン買いに励んでいたという。
買い向かった銘柄は、半導体製造装置のSCREENホールディングス<7735>、そして投資用不動産の開発や売却を行う霞ヶ関キャピタル<3498>などだ。では、その成果はと聞くと、「ただいま含み損拡大中」とのこと。だが、本人は懲りずに買い下がっているという。
一見、「大丈夫?」と心配になるが、本人にとっては、これは戦略の一環だ。現在、アメ株を含めて約600銘柄を保有するケンテツさんは、幅広いセクターに分散、バイ&ホールド(買い持ち)を基本に据えているため、ポートフォリオの一部に含み損が出ても、他の含み益で相殺できるのだ。
この点では、投資の教科書に沿った形となっているが、本人は「それだけでは退屈」と、時に信用取引を使ってナンピン買いや訳アリ株の逆張り買い、そしてショートなども織り交ぜている。
今回は、この「ちょっと山っ気あり」の超分散投資を続けるケンテツさんについて見ていこう。
待ってられないと、「ただいま落下中のナイフ」を掴みにかかる
ケンテツさんがスクリン<7735>に、一発目の買いを入れたのは、今年7月18日だ。
この日は、同社株が前日比▲6.5%の急落を見た翌日で、バイデン米政権の対中半導体規制を巡る報道を嫌気して、同じ半導体関連の東京エレクトロン<8035>などに連れ安した格好だ。
■SCREENホールディングスの日足チャート(24年5月下旬~)
注:出来高・売買代金の棒グラフの色は当該株価が前期間の株価に比べプラスの時は「赤」、マイナスは「青」、同値は「グレー」。以下同
この購入後も、スクリンは軟調気味で、8月の日銀ショック時も大きく下げた。それでも、ケンテツさんは、今がチャンスとナンピン買いを繰り返した。
含み損が拡大しても、"落ちるナイフ"に向かっていけたのは、「本来、実力があるのに適正な評価がなされていない」という考えがあるからだ。
今は需給や外部環境の影響でヤラレていても、いずれ本来の価値に見合った株価に是正されていく。その見立てを支えに、株価が下がっていく中、逆張り買いの手を緩めなかった。
スクリンは、今年3月7日に上場来の最高値となる2万440円をマークして以降、これを天井に下落トレンドが続き、高値の半値程度の水準に沈んでいる状況だ。
だが、「株価はいずれ是正される」と見る材料として、ケンテツさんは主に2つの強みに注目していた。
トップシェア、着実な業績成長を評価
1つ目は、スクリンが重要な特定分野で世界トップシェアであることだ。
世界の産業が発展を続ける限り、機械やインターネット機器の作動に欠かせない半導体の需要がなくなることはない。その中で同社は、ウエハと呼ばれる半導体チップの基盤となる部材の洗浄装置で世界的に高いシェアを握っている。
半導体市場が中長期的に大きな成長が期待できるならば、競争環境に大きな変化がない限り、同社もその勢いに乗って成長する可能性は高い。
2つ目は、着実に増収増益基調を継続していることだ。
スクリンの株価は、3月に最高値を付けて以降、好材料が出ても押し下げられる場面が多かった。こうした展開の中で、ケンテツさんは同社が業績を伸ばしている点を評価した。
24年3月期決算期では、23年10月と24年1月の2度にわたって上方修正をしているにも関わらず、5月の通期決算発表時には、売上高以降の利益は全て、予想を上回る実績を打ち出してきた。
加えて、25年3月期でも、早々と第1四半期の時点で上方修正を出している。ただ修正値が市場予想を下回ったため、同社株は売られたものの、ケンテツさんは長期的な成長ストーリーは揺るがないと見ており、その期待が株価に反映される局面に、いずれ転じると見ている。
足元では、10月末に発表された25年3月期第2四半期決算発表で、同社は2回目の通期業績の上方修正および増配を公表。株価が持ち直す兆しが見えつつある状況だ。
■『株探プレミアム』で確認できるスクリンの業績修正履歴
訪日外国人の増加のもあり、土地活用は重要
同じく、足元でナンピン買いを続ける霞ヶ関キャピタル<3498>も、長期的には伸びると見る銘柄だ。
ケンテツさんが注目しているのは、同社が首都圏を対象に、付加価値のある不動産を開発し、投資ファンドに売却しているビジネスだ。
東京都区部の人口は、数十年先までは大きな減少はないとの予測や、インバウンド(訪日外国人)が増加することを踏まえると、土地の有効活用は今後も必要不可欠な取り組みだ。海外に比べて物価の高騰が抑えられ、治安も良い日本に対して、今後も外国人から注目される機会は多く、都市部の不動産はまだまだ人気が高まるとも考えている。
ならば、霞ヶ関Cのビジネスの優位性も、今後ますます高まっていくというのがケンテツさんの見立てだ。足元の同社株はボックス圏で荒い値動きをしているものの、業績は堅調に伸びている。引き続き、株価が軟調な場面では、買い増しを続ける方針だ。
■霞ヶ関キャピタルの日足チャート(24年5月初旬~)
こうして、自分なりに想定する「企業の実力」や「将来的な可能性」に対し、株価が低いと思った時は、下落基調であろうが買い向かうのが、ケンテツさんのやり方だ。ナンピン買いで含み損を抱えても、時間を味方にじっくりリバウンドしていくのを待つ。
ただし、信用取引も生かして買いを入れるため、資金不足による強制決済は逃れるように留意する。「とにかく資金管理は命」、常にそう言い聞かせながら、現物と信用のバランスを取りながら取り組んでいる。
「訳アリ銘柄」も標的に
株価が軟調な時に狙う銘柄の戦略では、あえて「訳アリ」を選ぶこともある。会計疑惑や不祥事、何らかの事件等に巻き込まれ、本業の業績以外の材料で売られたパターンだ。
このケースでは、ビジネスの屋台骨を揺るがすような致命傷でないかに注視して、一時的な悪材料だと判断できれば行動に出る。今年6月も、悪材料が発覚した訳アリ銘柄に買い向かった。
※当該情報は、一般情報の提供を目的としたものであり、有価証券その他の金融商品に関する助言または推奨を行うものではありません。