金は内外で史上最高値を更新、米国の関税発動で先行き不透明感 <コモディティ特集>

特集
2025年2月5日 13時30分

は米国の関税発動を受け、内外で史上最高値を更新した。ドル建て現物相場は2850ドル台に上昇、JPX金先限は1万4202円をつけた。トランプ米政権の政策でインフレ高止まりが見込まれ、米連邦準備理事会(FRB)の利下げペースが鈍化するとみられることは上値を抑える要因だが、関税発動で先行き不透明感が強く、金に逃避買いが入りやすくなっている。イスラエルとイスラム組織ハマスの停戦が実現する一方、ウクライナでの戦闘が続いていることも支援要因である。ただ、トランプ米大統領はロシアのプーチン大統領と停戦交渉する見通しであり、交渉の行方を確認したい。

金の独自材料では、中国人民銀行の金買いが再開されたことが価格を押し上げている要因である。一方、ニューヨークの指定倉庫在庫が急増した。昨年の米大統領選以降、1月末時点で88%増の3229万0384オンス(1004トン)となった。米国の関税発動を控えて輸入が急増したことが背景にある。関税発動後に輸入が止まると、上値を伸ばす可能性が出てくる。3000ドルの節目を目指すとの見方もあり、高値での買いが続くかどうかを確認したい。

トランプ米大統領は1日、カナダとメキシコに25%、中国に10%の関税を課す大統領令に署名した。ただ、メキシコのシェインバウム大統領やカナダのトルドー首相と3日の電話会談で、麻薬の流入阻止に向け、国境警備を強化することで合意したことから、関税発動は1ヵ月延期された。一方、中国に対する関税は発動。米大統領は欧州連合(EU)にも関税を課す意向を示しており、EU首脳らはベルギーのブリュッセルで会合し、対応策を協議した。

不法移民の強制送還でも米大統領の関税発言が見られた。米大統領は1月26日、コロンビアが不法移民を乗せた軍用機の着陸を拒否したことを受け、25%の関税や制裁などの報復措置を取ると表明した。コロンビアが合意したことで報復措置は回避されたが、トランプ米大統領の交渉に関税を利用するスタイルに変わりはない。米大統領はBRICS諸国に対しても脱ドルを目指せば100%関税を課すと警告している。

●米FRBの金利据え置きとディープシーク・ショック

米連邦公開市場委員会(FOMC)でフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を4.25~4.50%に据え置くことを決定した。パウエル米FRB議長は会見で、トランプ米大統領の政策を判断するのは時期尚早であり、米FRBの2%のインフレ目標は維持されるだろうと述べた。CMEのフェドウォッチで、米FRBの次の利下げは6月とみられている。

一方、欧州中央銀行(ECB)理事会で、主要政策金利の0.25%引き下げが決定された。利下げは4会合連続となり、昨年6月以降で5回目となった。経済成長の低迷が懸念されるなか、一段の金融緩和の可能性がある。

中国のAI開発企業ディープシークは、新型AIモデル「R1」を発表した。R1はグーグルやオープンAIが開発するAIに匹敵する性能を持ち、しかも旧型の半導体を使って開発された。開発費用は600万ドルと大手AI企業の幹部1人分の報酬とほぼ同額、開発期間は約2ヵ月とのこと。オープンAIやソフトバンクグループらが米国で今後4年間、5000億ドル投資する「スターゲート・プロジェクト」が発表された直後であり、ナスダックやS&P500が急落し、リスク回避の動きから金ETF(上場投信)に換金売りが出る場面も見られた。中国政府へのデータ流出リスクやプライバシー保護の脆弱性に対する懸念から、ディープシークR1の使用を制限する動きが広がり、急落は一服したが、AIバブルが弾けたとの見方もあり、AI業界の行方も確認したい。

●NY金先物市場でのファンド筋の買い意欲が強い

世界最大の金ETF(上場投信)であるSPDRゴールドの現物保有高は、2月4日に863.05トン(昨年12月末872.52トン)となった。戻り場面で利食い売りが出ると、1月27日に857.02トンまで減少したが、トランプ米大統領の関税発言を受けて投資資金が戻った。

一方、米商品先物取引委員会(CFTC)の建玉明細報告によると、ニューヨーク金先物市場でファンド筋の買い越しは1月28日時点で29万9409枚(前週30万0784枚)となった。昨年末の24万7279枚が当面の底となるなか、新規買い、買い戻しが入って2020年3月3日以来となる30万枚台まで買い越しが拡大した。

(MINKABU PRESS CXアナリスト 東海林勇行)

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