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鈴木英之(SBI証券)が斬る ―どうなる?半年後の株価と為替―

特集
2025年2月21日 10時00分

日米の株式相場は高値圏で売り買いが交錯している。貿易相手国に同水準の関税を課す米国の「相互関税」の動向などに市場関係者は目を凝らしている。国境管理の厳格化などを受けた米国のインフレ懸念も根強く、米景気が堅調な中でも株価は一方的な動きにはなっていない。トランプ米大統領が「就任から24時間以内に終わらせる」と語っていたロシアによるウクライナ侵攻も収束のメドはついていない。アナリストやエコノミストなどの専門家は、「半年後の株価」や「半年後の為替」をどう見ているのか。インタビューを通じて、著名アナリストに予測してもらい、その背景を詳報する。第34回は、SBI証券の鈴木英之投資情報部長に話を聞いた。

●鈴木 英之(すずき ひでゆき)

SBI証券 投資情報部長(日本証券アナリスト協会検定会員)。早稲田大学卒。旧日栄証券(現SBI証券)入社、リテール営業、調査部、株式部などを経て、SBI証券投資調査部長に。ウエルスアドバイザー株式会社(調査分析部ゼネラル・マネジャー)へ転籍を経て2009年5月より現職。ラジオNIKKEI(月曜日)、ストックボイス(木曜日)などでコメントを発信中。ダイヤモンドZAIなど定期的寄稿も多数。

鈴木英之氏の予測 4つのポイント
(1) 半年後の日経平均株価は4万2000円程度
(2) 半年後のS&P500株価指数は6500程度
(3) 円相場は1ドル=150~160円程度で推移。日米金融政策の違いも円高なりづらく
(4) 日本の株式市場ではソフトウエア関連、電気工事含めた建設関連の銘柄に注目

―― 米トランプ政権が誕生して1カ月が経過し、日米株価は高値圏ながらも売り買いが交錯しています。半年後(8月末)の株価水準をどう見ていますか。

鈴木:私は半年後の米S&P500株価指数を6500ポイント程度、日経平均株価を4万2000円程度だと予測しています。

―― 米新政権の下でさらに米国株が上昇し、日本株にも好影響を与えるということですね。詳細を教えて下さい。

鈴木:米国の株式相場は足もとでは、トランプ政権の政策の先行きが不透明であること、予想PER(株価収益率)が22倍と高いことから、ボックス圏の動きが続いています。PERは歴史的な高水準まで上昇しており、これ以上、容易には上がらないでしょう。しかし、米企業の2025年12月期の最終損益は前期比で12%程度の増加になる見通しです。PERが足もとの水準のままであれば、S&P500株価指数は6500程度まで上昇する計算になります。

―― 中国の人工知能(AI)企業であるDeepSeek(ディープシーク)の登場で、「生成AI市場で米国の技術優位が崩れる」との見方からエヌビディア<NVDA>など半導体関連株が売られる場面もありました。

鈴木:安全保障を考えると、実際に西側諸国がディープシークを使うようになるとは思えません。しかし、「ディープシーク・ショック」を受けて、主要な半導体関連銘柄で構成するフィラデルフィア半導体株指数(SOX)が大幅に下落しました。その後もSOX指数はボックス圏にあります。これまで株式相場を牽引してきた半導体関連銘柄の株価が上がりづらくなったことも、足もとで米国株が伸び悩んでいる原因になっていると考えられます。

―― 日本株の予測の背景を教えて下さい。

鈴木:日本の株式相場も足もとでは3万8000~4万円のボックス圏で推移しています。トランプ政権の政策不透明感、日米の金融政策の方向性の違いによる円高・ドル安が懸念されていることが背景にあります。これまで日米株価を牽引してきた半導体株の伸び悩みは日本株にも影響を及ぼしています。

ただ、日本企業の業績は堅調です。今後は、このところボックス圏にとどまっていた日経平均株価の1株当たり利益(EPS)が上昇することが株価の押し上げ要因になるでしょう。日経平均株価のEPSは足もと(2月17日時点)で2500円を超え、過去最高を更新しています(図1参照)。

日米の金融政策への懸念も薄れ始めています。私は米国の利下げは終わりつつあると見ています。インフレ懸念が出てきたこともあり、FRB(米連邦準備理事会)が年内に金利を引き下げない可能性も出てきました。米新政権の誕生で不透明感が漂っていることもあり、日銀が利上げペースを速める可能性も非常に低いでしょう。結果として今後半年間の円相場は概ね1ドル=150~160円で落ち着くと見ています。

●図1 日経平均株価と予想EPSの推移

【タイトル】

※日経平均株価データ(日足)をもとにSBI証券が作成

―― とはいえ、日本の株式市場ではトランプ政権の関税政策などへの懸念が根強くあります。

鈴木:日本の輸出企業に悪影響を及ぼす「トランプ関税」は、米国の物価を押し上げ、米国の消費者も苦しめます。鉄鋼などの関税の引き上げは日本企業だけでなく、米国の自動車メーカーにもマイナスとなります。

トヨタ自動車 <7203> [東証P]をはじめ日本メーカーは現地生産が進んでいます。第一次トランプ政権の際に、多くの日本企業は国際的なサプライチェーンの見直しを進めました。仮に関税が引き上げられても、そこまで大きな悪影響はありません。結果としてトランプ政権が目指していた高関税政策は後退していくと考えています。日本の自動車産業などへの悪影響が全くないわけではありませんが、過度に懸念する必要はないでしょう。

―― 円相場は当面、1ドル=150~160円の水準が続くとのことですが、円安による輸入物価上昇などを懸念する声もあります。

鈴木:確かに円安は輸入物価の上昇や、穀物などの買い負けなど悪影響も少なくありません。一方、円安で日本の人件費が安くなることにより、海外企業の製造拠点の新設など対内直接投資が盛んになるメリットもあります。例えば、台湾積体電路製造(TSMC)<TSM>の熊本工場の新設は国内の雇用を生み、地政学的リスクへの対応にもなります。インバウンド(訪日外国人)の増加は、小売店などサービス業の業績に寄与しています。

―― 第二次トランプ政権の懸念点は。

鈴木:万が一、トランプ大統領が就任前に宣言していたような高関税政策を強行すれば貿易戦争が起こり、日米株価もどんどん下がっていくでしょう。もう1つの懸念は賃金インフレです。トランプ政権が掲げる移民政策の厳格化が実現すれば、労働市場を支えてきた移民が入りづらくなります。米国も若年人口が減少するサイクルに入ってきており、不法移民の強制送還などが実施されれば、米国の賃金上昇率をさらに押し上げます。

―― 日本の株式市場で注目するセクター、銘柄を教えて下さい。

鈴木:ソフトウエア関連と建設関連です。ソフトウエアはDX(デジタルトランスフォーメーション)関連、AI関連などの需要が増えています。建設では、データセンター関連の電気工事、建設などに買いが集まりそうです。埼玉県八潮市の道路陥没事故を受けて、インフラ管理や老朽化の課題も浮上しました。こうしたインフラの修繕や更新に関連する建設会社にも関心が高まりそうです。金利の先高観が国内で高まっていることや高配当に注目が集まっていることから、銀行株も引き続き買われやすいと考えています。

(※聞き手は日高広太郎)

◆日高広太郎(ジャーナリスト、広報コンサルティング会社代表)
【タイトル】
1996年慶大卒、日本経済新聞社に入社。東京本社の社会部に配属される。小売店など企業ニュースの担当、ニューヨーク留学(米経済調査機関のコンファレンス・ボードの研究員)を経て東京本社の経済部に配属。財務省、経済産業省、国土交通省、農水省、日銀、メガバンクなどを長く担当する。日銀の量的緩和解除に向けた政策変更や企業のM&A関連など多くの特ダネをスクープした。第一次安倍内閣時の独ハイリゲンダムサミット、鳩山政権時の米ピッツバーグサミットなどでは日経新聞を代表して同行取材、執筆。東日本大震災の際には復興を担う国土交通省、復興庁のキャップを務めた。シンガポール駐在を経て東京本社でデスク。2018年8月に東証1部上場(現プライム市場)のB to B企業に入社し、広報部長。2019年より執行役員。2022年に広報コンサルティング会社を設立し、代表に就任。ジャーナリストとしても記事を複数連載中。2022年5月に著書「B to B広報 最強の戦略術」(すばる舎)を出版。内外情勢調査会の講師も務め、YouTubeにて「【BIZ】ダイジェスト 今こそ中小企業もアピールが必要なワケ」が配信中。

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