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エヌビディア相場に一区切りのいま、注目したい3つのセクター<大山季之の米国株マーケット・ビュー>

特集
2025年3月5日 11時40分

◆トランプ政権"G1"リスクが顕在化、不確実性が高まる

先週から今週にかけて、注目のエヌビディア<NVDA>決算が発表されたと思ったら、トランプ大統領の関税を巡る不規則発言がマーケットを揺さぶり、さらにウクライナのゼレンスキー大統領との首脳会談決裂が伝えられるなど、目まぐるしい展開を見せた。まず、トランプ政権の関税政策に関しては、二転三転するトランプ発言にその都度、翻弄される展開になっているが、3月3日時点で関税が発動されているのは、中国に対する10%の追加関税だけだった。ここで留まるなら株式マーケットへの影響も問題ないだろう、と多くの市場関係者は捉えていた。

カナダ然り、メキシコ然り、欧州然り。多くのメディアが報じるように、トランプ大統領の発言は「ディール(取引)」の一環に過ぎず、最終的にはそれぞれの国の政府がアメリカ政府とネゴシエーションを行い、大事に至ることはないだろう、という見方が市場関係者の間では大勢となっていたのだ。ところがここにきて、どうやらそうではないかもしれないという空気が漂ってきた。1カ月延期が有力視されたカナダ、メキシコへの関税が発動されたり、期待されたウクライナへの停戦交渉が両首脳のメディアの前での罵り合いという前代未聞の事態となったり。まさに"世界のガキ大将"、トランプ大統領の本性を見せつけられたような怒涛の展開となった。

そもそも今年の米国株マーケットには2つの大きな懸念材料があると考えていた。一つはインフレ・リスクで、先の大統領選ではその収束を期待されてトランプ大統領が大勝したはずだが、足もとの各指標、CPI(消費者物価指数)やPPI(生産者物価指数)、ISM米国仕入価格指数などを見てみても高止まりしていて、収まる兆候さえ見えていない。そこに関税を連発しようというのだから、不確実性が高まらないはずがない。

もう一つは"G1"のリスクだ。これは2023年、24年と続いた株式市場における"アメリカ1強体制"という意味ではなく、ドラえもんのガキ大将、ジャイアン(G)のように振る舞うトランプ政権によってアメリカが国際協調から背を向け、内向き志向を強めていく、という意味だ。その結果がどうなるのかは、現時点では誰にも読めない。つまり、やはり不確実性が高まっていくのだ。アメリカの経済政策の不確実性を測る「経済政策不確実性指数」という数値があるが、実際、ブルームバーグのデータをもとに算出すると、3月1日時点で900を超える水準となっている。リーマン・ショック時の600強、コロナショック時の500強を凌ぎ、過去30年の記録を更新している。

足もとでダウ工業株30種平均S&P500種指数ナスダック総合指数といった米国株に加えて、暗号資産や金、もちろん日本株まで、ボラティリティ(変動率)の高い展開ながら、リスク・アセット全体から資金が流出し始めている。 "G1"のリスクが高まるにつれ、不確実を嫌うマーケットが現状を冷静に捉え、いったん資金を引き揚げ始めたのではないかと感じる。

◆エヌビディア決算と株価の反応が意味するところ

トランプ外交はともかく、先週の世界の株式マーケットの最大の関心事は、「ディープシーク・ショック」後はじめてとなるエヌビディアの四半期決算開示だった。発表翌日の株価の動きについては、売り買いが錯綜したが、トランプ発言の影響もあって大きく下げた。すでに伝えられている通り、決算内容自体は市場予測を上回るもので、投資銀行のアナリストたちはジェンスン・フアンCEO(最高経営責任者)のコメントを含めて一定の評価を与えていた。半面、ヘッジファンドなどの、いわゆる"グリード(強欲)"な投資家たちにとっては「物足りなかった」ようだ。セルサイドのアナリストは評価したが、バイサイドのアナリストは評価しなかった、と言い換えることもできるだろう。

低評価の根拠には、売上高や営業利益の増加率が前期比で鈍化していることなどが主に挙げられていた。とは言え、発表前に投資家たちが懸念していた前世代GPU「ホッパー」から次世代の「ブラックウェル」への移行もスムーズに進んでいて、相変わらず驚異的な需要が続いているという。「ディープシーク」の影響についても、フアンCEOは同モデルの性能は評価しつつも、より良いAI(人工知能)モデルを実現するためには推論を100倍に上げていかなければならないと、昨今の"AI過剰投資論"への回答としては分かりやすい説明をした。客観的に見れば"売り材料"は見当たらなかったはずだが、やはり同社に対してマーケットは"サプライズ"を求めることに慣れてしまっているのだろうか。

物足りないと言えば、AIエージェント系の銘柄として期待が高まっていたセールスフォース<CRM>にも同様の反応が示されたことだろう。こうした各社の状況とマーケットの反応を見て感じるのは、現時点ではいったん、AI銘柄からは距離を取ってもいいのではないかということだ。昨年までの相場展開では、「持たざるリスク」が意識され、AI銘柄のウェートを高めてリスクを積極的に取ろうという動きがあったが、今後は無理にリスクを取る必要はない。AI関連銘柄は時価総額も大きいので、ウェートを引き下げることもないかもしれないが、昨年までのように上げていく必要はない。そうしたマーケット心理が働き出したように感じるし、そんな中では個人投資家もマーケットの流れには逆らわない方が得策だろう。

◆金融、小売り、農業セクターに有望銘柄が続々、登場

では今後、どの銘柄に投資をしていくべきか。まず挙げられるのはビザ<V>、マスターカード<MA>などの金融セクターだ。このセクターはトランプ政権の規制緩和の恩恵を受けることが濃厚で、カード決済企業の大手ではアメリカン・エキスプレス<AXP>だけ業績が振るわずに株価が調整しているが、他の2社はどちらも年初来、右肩上がりに上昇している。

アメリカのインフレが高止まりすることを織り込むなら、小売りセクターにも注目したい。ウォルマート<WMT>やコストコ・ホールセール<COST>、アマゾン・ドット・コム<AMZN>など、勝ち続ける仕組みをきちんと持っている企業だ。ウォルマートはEC(電子商取引)事業が成長エンジンになり、富裕層の需要が増えている。ある市場関係者の説明では、世間体を気にして以前ならウォルマートで買い物はしなかったような人たちが、インフレに耐えられず同社のECを利用するようになっているのだという。もとから同社の生鮮食品の品揃えは他社を圧倒していて、即日配達や有料の3時間配送など、付加価値の高いサービスも好評だ。

アマゾンは言うまでもなくECの品揃えが群を抜いているし、コストコは品質の良い商品を安く買える会員制ビジネスが顧客たちの高い支持を得ている。アマゾンは24年12月期、ウォルマートは25年1月期決算がやはり「物足りない」ということで売られたが、こうした勝ち続けるビジネスモデルを持っている銘柄は、株価が下落したタイミングこそ買い場と言えるのではないか。

また、先週末の首脳会談によって予断を許さない状況に陥ったとは言え、今年、何らかの形でウクライナでの停戦が実現するとなれば、「平和の配当」が期待できるセクターに耳目が集まるはずだ。キャタピラー<CAT>、ディア&カンパニー<DE>、コルテバ<CTVA>といった農業関連銘柄だ。今年初めに開催された国際テクノロジー見本市「CES2025」では農業を含めた産業用車両の自動運転ブースが大盛り上がりだったそうだが、乗用車が安全性などの高いハードルがあるのに対して、この分野はいち早く、自動運転のイノベーションが進んでいる。中でもコルテバは2019年6月にダウ・デュポン(現在はダウ<DOW>とデュポン・ド・ヌムール<DD>に分割)からスピンオフした企業で、5年間、なだらかに右肩上がりの株価上昇を続けている優良企業だ。もし今の混乱を乗り越え、ウクライナの復興が始まれば、こうした銘柄が市場の注目を集めるのではないだろうか。

AI関連もすべての銘柄から距離を取る必要はない。AI半導体やAIモデルをつくる企業は当面、上値余地が限られるかもしれないが、AIを自社サービスや生産性向上に結び付けることができるセクターには業績面で大きな可能性がある。カスタマー・サービス、金融、物流、医療、セキュリティー、教育、人材管理など幅広い分野が対象になる。まず挙げられるのは、スノーフレイク<SNOW>、オラクル<ORCL>、IBM<IBM>など、広範な産業にAIソリューションを提供している企業だ。さらに軍事機関向けのパランティア・テクノロジーズ<PLTR>、教育機関向けのワークデイ<WDAY>、環境対策のエコラボ<ECL>といった得意分野を持ったソリューション企業の業績の変化にも注目したい。

◆ボラティリティの高い25年前半相場で採るべき投資戦略は?

最後に今後の米国株投資の基本的な考え方についても述べておきたい。まずトランプ政権の行方だが、紛糾しているウクライナの問題も含めて、最終的には落としどころを探るのではないかと考える。トランプ大統領は、良くも悪くも経済最優先の大統領で、ホワイトハウスを企業に例えるなら"ホワイトハウス株式会社"は実にうまく機能している。強烈なリーダーシップを持ったカリスマCEOが存在し、それを支えるCFO(最高財務責任者)がしっかりコストをコントロールする。つまりイーロン・マスク(テスラ<TSLA>CEO)だ。

ウクライナはもちろん、カナダにせよ、グリーンランドにせよ、トランプ政権の狙いは一貫している。アメリカにとってのエネルギー資源の権益拡大を求めているのだ。どうしてもリベラルなメディアはトランプ流の手法に懸念を示すが、こと対外的な経済政策という部分に焦点を絞れば、いまの外交は国益の面では理にかなっている。倫理的な判断は別にして、現政権の政策は、「アメリカ第一主義」、つまりアメリカの経済成長を促すものばかりではある。

だが今年の米国株への投資戦略を考えるうえでやはり大きなポイントとなるのは、インフレの進展と金利動向だろう。いまのアメリカの政策金利は4.2%から4.3%だが、潜在成長率や期待インフレ率を加味すると、おおむね4%前後が当面の落ち着きどころとなるのではないか。この水準で推移すれば、S&P500構成銘柄の平均PER(株価収益率)は25倍前後となり、過去の水準と比較しても適正に推移していると言える。

足もとではインフレ懸念から株価の上値が重いが、トランプ大統領にとって株価は通信簿のようなもの。ここでも、株価を上げるためのコントロールは確実にしていくのではないだろうか。したがって、25年前半に過度なインフレを抑え、景気後退に陥ることさえなければ、年後半には減税や規制緩和の効果も表れ、景気も株価も上昇していく。こうしたシナリオを前提に考えれば、当面はボラティリティの高い展開が続く中で、今回取り上げたような銘柄の押し目を拾うのが堅実な投資手法ではないだろうか。

【著者】

大山季之(おおやま・のりゆき)

松井証券マーケットアナリスト 

1994年慶應義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガン・スタンレー証券)に入社。2001年ゴールドマン・サックス証券、10年バークレイズ証券、12年から金融コンサルを経て現職に至る。これまで、機関投資家向け株式営業を中心に、上場企業へのファイナンス提案、自社株買い、金融商品組成などに関わる。現在は松井証券のマーケットアナリストとして、米国のマクロ経済分析や企業、セクターの分析等を行う。

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