OPECプラスは慎重に増産ペースを制御も、供給過剰の兆候は今のところ限定的<コモディティ特集>
石油輸出国機構(OPEC)プラスの主要8ヵ国はオンライン会合を開催し、12月の生産枠の引き上げ幅を日量13万7000バレルに維持した。主要産油国は、日量220万バレル規模の自主減産を9月で解消した後、10月以降は日量166万バレル規模の自主減産の段階的解除に着手している。ただし、10月以降の生産枠の引き上げ幅は日量13万7000バレルと、限定的な規模に据え置いている。なお、年初は需要が下振れしやすいことから、来年1~3月期については生産枠の引き上げを見送る予定だ。
●供給過剰懸念が根強い市場
今回のオンライン会合の結果を見る限り、OPECプラスの中核国は追加増産に慎重な姿勢を強めているとみられる。増加する需要を補うため、サウジアラビアやロシアは供給を拡大させてきたが、ウクライナ戦争の長期化でロシアによる供給増が難しくなっており、全体的な増産は転換期に差し掛かったのではないか。今年のOPECプラスは積極的に増産を進めてきたが、生産拡大の調整局面に入ったようだ。供給過剰を警戒する主要産油国の動きを踏まえると、今月30日に予定されるOPECプラス全体の閣僚会合では、日量200万バレルの協調減産が維持される公算が大きい。なお、この協調減産は2026年末まで継続することで既に合意済みだが、期限に変更があるかどうかが注目される。
今年4~10月にかけて、OPECプラスは合計で日量230万バレル規模の生産枠引き上げを実施した。年内では日量260万バレル規模となる見通しで、原油市場では供給過剰懸念が根強い。国際エネルギー機関(IEA)は、供給拡大に加え、需要の伸び悩みもあって、コロナ禍時並みの石油過剰在庫が積み上がる恐れがあると警告している。輸送途中の石油や海上在庫の増加を背景に、供給過剰が現実化するとみる市場参加者も多い。
●足もと原油在庫は供給不足を示唆
一方、調査会社ボルテクサによると、原油の海上在庫は11月2日時点で8537万バレルまで減少し、10月末にかけての増加傾向は一巡した。年初来では海上在庫が増加傾向にあるものの、5月以降のトレンドはほぼ横ばいであり、OPECプラスの増産による影響は明確には確認できない。
世界の石油市場の先行指標である米週間石油在庫統計では、原油在庫が年初来の低水準で推移している。米エネルギー情報局(EIA)の週報によると、戦略石油備蓄(SPR)を除く原油在庫は4億1596万9000バレルで、OPECプラスが増産を始めた4月以降は減少傾向にある。IEAは今後在庫が増加に転じると見ているが、速報性の高い週次統計ではその兆候は今のところ限定的である。例年、需要が鈍化する1~3月期に原油在庫が増加に転じるかが注目される。
米原油在庫の動向は供給不足を示唆している一方、原油相場の値動きは重く、供給過剰見通しが市場を支配している。今年を振り返ると、EIA週報をきっかけに明確なトレンドが形成された場面はほとんどなく、足元の需給動向は市場で軽視されている印象だ。低水準の米原油在庫とIEAの供給過剰見通しは相いれず、米週間石油在庫統計の存在感が薄れている。統計が示す現実の一端が軽視され、専門家の見通しが重視される市場の姿はやや歪んでいるようにも映るが、現況と見通しが乖離するこの対立の行方を今後も注視する必要がある。
(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)
株探ニュース