2025年度補正予算から見た投資チャンス、当面のリスク【フィリップ証券】
2025年度補正予算が12/11、衆院を通過した。補正予算の一般会計総額は前年比31%増の18兆3034億円に上る。その三本柱は、「生活の安全保障・物価高への対応」(8兆9041億円)、「危機管理投資・成長投資による強い経済の実現」(6兆4330億円)、「防衛力と外交力の強化」(1兆6560億円)である。
生活の安全保障・物価高への対応では、電気・ガス代支援や子育て応援投資を含む「物価高への対応」に2兆9451億円が計上されていることに加え、「医療・介護分野の経営支援と処遇改善」に1兆3832億円、「中小企業の賃上げ環境の整備」に9804億円が充てられている点が注目される。10/4の自民党総裁選後の「高市トレード」と呼ばれた上昇相場で人気となったテーマについても「危機管理投資・成長投資」として「AI(人工知能)研究開発・利活用」に1895億円、「造船業再生基金」に1200億円、「宇宙戦略基金」に2000億円、「エネルギー・資源安全保障の強化」に3487億円が計上されている。それらを大きく上回る予算が充てられたことで、年末から来年春に向けて日本株市場の中心的なテーマとなる可能性がある。中小企業のデジタル変革(DX)支援の関連銘柄に関しては、人手不足対応の省力化投資として従来から買われてきた面がある一方、医療・介護分野の経営支援や処遇改善の関連銘柄については、あまり目立ってこなかったこともあり、割安な水準に放置されているものが多いように見受けられる。
危機管理投資の一環として「防災・減災・国土強靭化」には2兆9503億円が計上された。うち、「自然災害からの復旧・復興」が7417億円、「公立学校施設の整備」が2552億円を占める。今年1月に埼玉県八潮市で起こった道路陥没事故を契機として国土交通省は12/1、下水道管の定期調査を強化する方針を固めた。12/8には青森県東方沖を震源にマグニチュード7.5の地震が発生。全国的に事前の防災対策の強化が加速すると見込まれる。また、公立学校施設は、児童生徒の学習・生活の場であるだけでなく、地震等の災害時に地域住民の避難場所としての役割を果たすことが求められている。老朽化対策だけでなく、耐震対策、トイレ環境改善、空調設置など、裾野の広い需要が見込まれるため、注目度の上昇が期待される。
来週の日銀金融政策決定会合で利上げが決定された場合に「円キャリートレード」巻き戻しリスクに加え、中期的には外債から国内長期債・超長期債への資金回帰が起きて為替の円高を後押しする可能性がある。中国関連では、年内に2本の社債償還を控える中国不動産開発大手の万科企業のデフォルトリスク、および、来年2月の「春節」を控えて日中関係の悪化に伴うインバウンド消費関連の機会損失リスクも無視できない。また、半導体メモリー価格高騰に伴う電子部品・ゲーム機の製造コスト高騰も日本株にとって痛いところだ。
■インバウンド消費と日中情勢~訪日中国人客の減少と経済への悪影響
11月の高市首相による台湾を巡る発言を契機とした日中の対立は、中国戦闘機による自衛隊機へのレーダー照射でさらに激化した。各種報道によれば、関係悪化を受けて12月の中国発日本行き旅客便のうち約4割が運休し、中国政府は航空会社に対し、来年3月まで日本への便数を削減するよう指示している。
2025年7-9月期の訪日外国人旅行消費額(インバウンド消費額)は前年同期比11%増の2兆1128億円。うち中国からのインバウンド消費額のシェアは27%に上り、香港を含めると33%となる。中国と香港からの7-9月期インバウンド消費額を4倍して年率換算すると2兆7612億円。2024年度の名目GDPに対する比率は約0.45%であり、24年度の実質GDP成長率0.6%から見てもその影響は大きい。

参考銘柄
ライト工業<1926>
・1948年に仙台市で設立。技術力に定評がある専業土木工事(斜面・法面対策工事、基礎・地盤改良工事、補修・補強工事、環境修復工事)、一般土木工事、および建築・その他工事を営む。
・11/6発表の2026/3期1H(4-9月)は、売上高が前年同期比18.4%増の650億円、営業利益が同25.5%増の69億円。受注高はインフラ老朽化対策を主軸とする政府建設投資の高水準な推移を受けて9.4%増の866億円。そのうち基礎・地盤改良工事が29%増の412億円と全体の受注増に貢献。
・通期会社計画は、売上高が前期比5.0%増の1275億円、営業利益が同6.9%増の137億円、年間配当が同7円増配の107円。2025年度補正予算案の18兆3034億円の歳出のうち「危機管理投資・成長投資による強い経済の実現」に6兆4330億円。うち「防災・減災・国土強靭化」が2兆9503億円を占める。9月の手持工事高が前年同期比8%増の1089億円。足元で豊富な手持工事は順調に進捗。
タカミヤ<2445>
・1969年に設立。主に建設用仮設機材の開発・製造・販売事業およびレンタル事業を手掛ける。国内工場2か所および韓国、ベトナムで製造を行う。海外事業はアセアン地域に強みを有する。
・11/10発表の2026/3期1H(4-9月)は、売上高が前年同期比0.2%増の212億円、営業利益が同38.3%増の11億円。セグメント別の営業利益は、主力のレンタル事業(売上比率61%)が単価改定を受けて43%増の18億円、プラットフォーム事業(同14%)が粗利益率改善を受けて62%増の6億円。
・通期会社計画は、売上高が前期比9.8%増の481億円、営業利益が同42.5%増の29億円、年間配当が同横ばいの16円。同社が本社を置く大阪では日本維新の会が掲げる「副首都構想」を背景に再開発の動き加速が期待される。最近は鉄スクラップ高を背景に建設現場の足場板の盗難件数が増加。同社の「Iqシステム」への需要増が見込まれる。好業績・低PBR銘柄として注目の余地がある。
BIPROGY<8056>
・1958年にスペリー・コーポレーションと現・三井物産<8031>の協定に基づき設立。2012年に三井物産が株式を大日本印刷<7912>へ譲渡。顧客企業に対し、統合的なITソリューションサービスを提供。
・11/5発表の2026/3期1H(4-9月)は、売上高が前年同期比10.3%増の2051億円、営業利益が同19.0%増の213億円。区分別の粗利益は、サービス(売上比率71%)が8%増の440億円、ソフトウエア(同11%)が5%増の30億円、ハードウエア(同18%)が32%増の66億円とそれぞれ好調に推移。
・通期会社計画は、売上高を前期比5.7%増の4270億円(従来計画4200億円)へ上方修正に対し、営業利益は9.0%増の426億円、年間配当が10円増配の120円と従来計画を据え置いた。期間の長い大型アウトソーシング案件に関する損失発生の可能性から営業利益計画は据え置かれた。電力先物の対象エリア拡大の中、電力先物取引を対象とした同社のASPサービスも伸びが見込まれる。
シーユーシー<9158>
・2014年設立。エムスリー<2413>の子会社。医療機関(国内医療機関への経営支援、海外での足病・静脈疾患クリニック運営)、ホスピス、居宅訪問看護、メディカルケアレジデンスの4事業を展開。
・11/10発表の2026/3期1H(4-9月)は、売上収益が前年同期比21.7%増の262億円、EBITDAが同10.9%減の37億円。事業別のEBITDAは、医療機関(売上比率31%)が32%減、ホスピス(同30%)が29%減に対し、居宅訪問看護(同25%)が12%増。メディカルケアレジデンスを新事業として追加。
・通期会社計画は、売上収益が前期比23.8%増の582億円、EBITDAが同27.1%増の102億円、年間配当は無配。2025年度補正予算案の18兆3034億円の歳出のうち「生活の安全保障・物価高への対応」に8兆9041億円。うち「医療・介護分野の経営支援と処遇改善」が1兆3882億円を占める。同社は支援先医療機関の月額報酬について段階的回復を見込んでおり、追い風になるとみられる。
※執筆日 2025年12月12日
当資料は、情報提供を目的としており、金融商品に係る売買を勧誘するものではありません。フィリップ証券は、レポートを提供している証券会社との契約に基づき対価を得る場合があります。当資料に記載されている内容は投資判断の参考として筆者の見解をお伝えするもので、内容の正確性、完全性を保証するものではありません。投資に関する最終決定は、お客様ご自身の判断でなさるようお願いいたします。また、当資料の一部または全てを利用することにより生じたいかなる損失・損害についても責任を負いません。当資料の一切の権利はフィリップ証券株式会社に帰属しており、無断で複製、転送、転載を禁じます。
<日本証券業協会自主規制規則「アナリスト・レポートの取扱い等に関する規則 平14.1.25」に基づく告知事項>
・ 本レポートの作成者であるアナリストと対象会社との間に重大な利益相反関係はありません。
※フィリップ証券より提供されたレポートを掲載しています。
株探ニュース
