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需給の壺―流動性の需給③―【若桑カズヲの株探ゼミナール】

特集
2026年2月27日 11時53分

第19回:流動性の需給③

―信用創造の変容と「ブルー・アウル」が露呈した影の連鎖―

市場価格を動かす本質的な要因は、需要と供給、すなわち「需給」に尽きる。経済指標や金融政策、地政学リスクといった政治情勢のほか、他の金融市場の動向など、しばしば価格変動の要因として語られる指標は、あくまで需給を変動させる「きっかけ」に過ぎない。本連載では、この「需給の壺(ツボ)」を読み解くことを目的とし、マーケットにおける需給の基本構造とその変遷を追いながら、未来への洞察を試みる。

前回まで、米連邦準備制度理事会(FRB)のバランスシートやマネーストックといった「公的な統計」から見える流動性の構造を詳述してきた。そこでは中央銀行が供給する「ベースマネー」と、我々が手にする「マネーストック」の間に存在する大きな乖離を指摘した。

しかし、現代の金融市場において、我々が目にする公式なマネーの動きは、全貌の半分にも満たない。中央銀行や政府の監視が届きにくい「水面下」では、銀行を介さない新たな信用創造の仕組みが爆発的に膨張し、市場の需給を根本から塗り替えようとしている。今回は、その核心である「信用創造の真実」から、現代金融の最大の懸念材料といえる「ブルー・アウル問題」に象徴されるプライベートクレジットの脆さ、そして「グローバル・ドル」の深層までを網羅的に詳解したい。

◆銀行を介さない「信用創造」の膨張

投資家が需給の潮流を読み解く上で、まず打破すべき既成概念がある。それは「銀行は預金を元手に貸し出しを行っている」という教科書的な理解だ。現実はその逆である。銀行が借り手の口座に融資額を書き込んだ瞬間、この世には新たな預金(マネー)が誕生する。これが現代の「信用創造(Credit Creation)」の本質である。

なぜ、これが重要なのか。それは、マネーの総量は中央銀行の意思だけでなく、民間部門の「リスクを取る意思」によって増幅されるからだ。2026年初頭の現在、米国株式市場が高値を維持している一因は、利下げ期待を背景にこの信用創造のサイクルが再び活性化し始めたことにある。しかし、現代の信用創造はもはや伝統的な銀行の窓口だけで起きているのではない。

2008年のリーマン・ショック以降、銀行に対する規制が強化された結果、銀行が取れなくなったリスクを引き受ける「シャドーバンキング(影の銀行)」が、銀行に代わって巨大な信用創造を担うようになり、その一つであるプライベートクレジット市場が急膨張している。

「プライベートクレジット」とは、銀行以外の金融機関(運用会社、ファンドなど)が、主に非公開企業や不動産・インフラプロジェクトなどに対して、市場を介さず直接行う融資のことである。ヘッジファンド業界団体である代替投資管理協会(AIMA)の民間信用提携団体(オルタナティブ・クレジット・カウンシル:ACC)の調査 によると、現在その市場規模は世界全体で約3兆~3.5兆ドルに達しているという。そのうち約4分の3を米国市場が占めており、伝統的なハイイールド債市場を脅かす存在となっている。しかし、いまプライベートクレジット市場は岐路に立たされている。

◆ブルー・アウルが露呈した「流動性ミスマッチ」の罠

プライベートクレジット市場の旗手として急速に資産を拡大してきた米運用会社ブルー・アウル・キャピタル<OWL>の現状は、この「影の信用創造」がいかに危ういバランスの上に成り立っているかを如実に示している。

図1 ブルー・アウル・キャピタル(週足)

【タイトル】

本来、プライベートクレジットは「流動性の低さ」を対価に「利回りの高さ」を享受する手法であり、投資家は長期間の資金固定を覚悟する代わりに、市場の混乱から遮断されるはずだった。しかし、2026年2月時点の報道によれば、ブルー・アウルが運用するプライベートクレジット・ファンドで投資家からの解約請求が急増し、一部では四半期ごとの解約を停止したという。

ここで発生しているのが、古典的かつ致命的な問題である。2025年9月にサブプライム自動車ローン会社であるトライカラー・ホールディングスが経営破綻したことなどから、プライベートクレジットに対する不安が醸成された。一方、ブルー・アウルのファンドが融資する先は主に未公開企業であり、なかでも主軸はAI(人工知能)の台頭によってビジネスモデルの再構築を迫られているソフトウエア企業などである。ブルー・アウルの投資家は投資資金の返却を迫り、「利回りの高さ」に懸念を抱き「流動性の高さ」を求め始めた。

ブルー・アウルは「流動性の高さ」を解約ではなく転売で確保すべく、解約請求が多いファンドを他の上場ファンドと合併させる計画を進めた。ところが、それによって損失を被る可能性がある投資家から猛反発を受けて計画は頓挫している。

そこで、ブルー・アウルは解約資金を捻出するため、ファンドが保有するローン債権を売却した。売却価格はほぼ額面とのことだが、売却先に子会社が入っていたため「回収が難しく評価が下がっている債権を簿価で移したに過ぎないのではないか」といった疑念が生じている。また、ブルー・アウルの創業者は金融機関の融資を確保するため、保有するブルー・アウル株の半分超を担保として差し入れている。これらが市場全体の需給を悪化させる負の連鎖を生みつつあるのだ。

◆「DPI向上」を目的とした複雑な資金調達

ブルー・アウルは、複雑な資金調達手法も用いた。同社は、既存のファンド資産を裏付けにして資金を調達したが、この資金の使途はもちろん新たな投資ではなく「既存投資家への資本還元」である。ファンドがどれだけ実際に現金を投資家に返したかという「投資回収の進捗」を、「DPI(Distributed to Paid-in Capital、出資払い戻し倍率)」と呼ぶ。投資家はこの倍率の高さを極めて重要視する。

DPIを高めるため、ブルー・アウルは投資目的会社を設立し、そこにファンドが保有する資産の一部を移して証券化商品を組成・販売した。更には投資目的会社の株式も売り出して投資家への資本還元に充てた。ここで問題になるのは、証券化商品や投資目的会社株式の売却価格である。高く売れれば運用収益の分配となるが、安いとなれば損切りによる投資元本の返却に過ぎない。

利上げ局面で企業のキャッシュフローが枯渇し、本来の「稼ぐ力」による配当ができなくなった影の銀行たちが、このような苦肉の策を重ねることで、需給の決壊を必死に食い止めているのが現状なのかもしれない。

◆短期金融市場の「目詰まり」と担保の回転

こうした「影の信用創造」を根底で支えているのが、レポ取引を中核とする米短期金融市場(マネー・マーケット)である。FRBが2025年末に国債購入を再開したことの真の意味は、単に「お金を増やした」ことではない。

市場に溢れかえっていた国債(担保)をFRBが買い取り、代わりに潤沢な「準備預金(キャッシュ)」を供給することで、短期金融市場の構造的な目詰まりを解消したことに真の意味がある。キャッシュという「潤滑油」が行き渡ることで、金融機関は手元の国債を媒介に再び活発な資金調達が可能となり、一つの担保を何度も使い回す「担保の再利用(リハイポセケーション:Rehypothecation)」が再加速した。

この「担保の回転速度の加速」は、公式な統計上のマネーを数倍に膨らませ、ブルー・アウルのようなプレイヤーがレバレッジを維持することを可能にしてきた。しかし、「担保の質」や「ファンドの健全性」に疑義が生じれば、この回転は一気に逆回転し始めることを忘れてはならない。

◆グローバル・ドルの還流と「SOFR」の引力

最後に、これらすべてのマネーを飲み込む巨大な器として、米国外のドル、すなわち「ユーロドル」市場に触れておく。現在の2026年初頭、世界のドル需給を占う上で決定的な役割を果たしているのが「SOFR(Secured Overnight Financing Rate、担保付翌日物調達金利)」である。SOFRは米ドル建ての新たな基準金利であり、かつてのユーロドル市場の主役であった「LIBOR(ロンドン銀行間取引金利)」に代わる指標である。2023年6月末に米ドルLIBORが公表停止となったことを受け、現在はデリバティブやローンなど、世界中の米ドル建て金融取引の事実上の標準となっている。

世界的な不安が高まれば、誰もがキャッシュを欲しがり、短期金融市場で「担保(米国債)」を差し出してでもドルを借りようとするため、SOFRが跳ね上がる。この時、米国内にどれだけマネーがあろうとも、グローバルなドルの「目詰まり」が世界の株価を暴落させる。現在高値圏にある日米株価は、ブルー・アウルに代表される「影の信用創造」が限界を迎えつつも、FRBが供給する「潤滑油」によってなんとか首の皮一枚でつながっている、極めて危うい均衡の上に成り立っている可能性がある。

◆「流動性の質」が突きつける未来

第17回から今回までの議論を通じて明らかになったのは、マネーには「量」と同時に「質」と「経路」が存在するということだ。これらを整理すると、以下の5点ということになる。

(1)FRBのバランスシート(公的な供給量)

(2)信用創造(民間部門による増幅)

(3)シャドーバンキング(担保の回転によるレバレッジ)

(4)プライベートクレジット(ブルー・アウルに象徴される複雑な信用の膨張)

(5)ユーロドル(グローバルな還流)

現在のマーケットは、これら5つのレイヤーが複雑に絡み合いつつ、ブルー・アウルの苦境が示す通り、その「質」は一部で急速に劣化してきた。ひとたび「担保」や「債権」の信認が崩れれば、供給は一転して凄まじい「吸収(消滅)」へと変わる。流動性が支える相場は、流動性が失われる時に最も残酷な結末を迎える。現在の過剰流動性は、将来のボラティリティを先食いしているに過ぎないかもしれない。(第20回に続く)

◆若桑カズヲ (わかくわ・かずを):
証券会社で株式やデリバティブなどのトレーダー、ディーラーを経て調査部門に従事。マーケット分析のキャリアは20年以上に及ぶ。株式を中心に債券、為替、商品など、グローバル・マーケットのテクニカル・需給分析から、それらに影響を及ぼすファンダメンタルズ分析に至るまで、カバーしている分野は広範囲にわたる。

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