イランの大規模反撃は世界を混乱へ導くのか?<コモディティ特集>
米国とイスラエルが協調してイラン攻撃を開始した。昨年6月のミッドナイトハンマー作戦で一時的に停戦が成立していたため、両国の共同作戦が再開したというべきだろうか。米国とイランの核開発協議で、オマーン外相によればイランは濃縮ウランを備蓄しないことに同意し、協議が前進したにも関わらず、イスラエルと米国は攻撃を開始した。米国とイスラエルの空爆は核開発施設や軍事基地を標的としたほか、イラン最高指導者ハメネイ師を殺害した。イラン革命防衛隊(IRGC)やイラン政府の高官らも数十名が死亡している。
攻撃後、トランプ米大統領は今回の軍事作戦の目的について、イラン核開発プログラムの再建を阻止すること、イランのミサイルを破壊すること、イラン海軍を殲滅すること、イラン人に政権転換を促すことであると述べた。また、「IRGCやイラン政府軍、その他の治安部隊の多くが戦う意思を失い、米国の免責を求めていると聞く」、「イラン指導部は協議の再開を望んでいる」と述べ、イランに降伏を促した。また、米ニューヨーク・タイムズ(NYT)によれば、トランプ大統領は「イランの新指導部が現実的な協力者であることを示せば、イラン制裁解除に前向きだ」と語った。イランの対応次第では協議を続ける構えのようだが、交渉相手の最高指導者をまず殺害しておいて協議を促す思考は理解しがたい。
●イランは全方位に反撃、巻き込まれる各国
イスラエルのYネットによると、トランプ米政権は先制攻撃でイランを屈服させ米国の要求を飲ませる計画で、攻撃を開始した週末に仲介国を通じてイランに停戦を提案したが、イランは拒否したという。この報道からすると、米国は交渉に関心がないのではなく、米国の主張をはねつけてきたイラン指導部には用がなく、米国の要求を受け入れそうな従順なイランには興味があるようだ。
ただ、攻撃を受けて指導部の多くを失ったイランは反撃し、様々な対象にミサイルやドローンを打ち込んでいる。最も身近な敵であるイスラエルのほか、ドバイやクウェート、イラク、バーレーン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、トルコなど中東各地の米軍基地が標的となっている。また、イランはイスラエルのハイファ製油所などインフラのほか、リヤドの米大使館、ドバイのパーム・ジュメイラ、バージュ・アル・アラブなど高級ホテルなど主要な観光地にもミサイルを打ち込んだほか、キプロスの英空軍基地にもドローン攻撃を実施しており、軍事資産だけでなく、幅広い対象を狙っている。イランのアラグチ外相の発言からすると、米兵の滞在先として利用される可能性のある場所は標的となっているようだ。
米国とイスラエルの先制攻撃を皮切りにイランが当初から警告していた全面戦争が始まったが、イランは英国、欧州連合(EU)、中東各国も敵国として巻き込もうとしている可能性が高い。ただでさえ中東各国の米軍基地に包囲され、2つの米空母打撃群も作戦に参加するなか、イランの報復攻撃には不適当と思えるような余裕が感じられる。イランの滅亡を願うイスラエルさえ軍事的に沈黙させられるなら、今回の衝突を早期に終わらせることがもしかしたら出来そうだが、イランはしらみつぶしのように射程圏にある敵国の資産を叩いている。イラン革命防衛隊(IRGC)はホルムズ海峡を閉鎖し、経済的な報復も始まった。
イラン攻撃を巡って英空軍の基地使用を拒んでいたスターマー英首相は、イランのミサイル拠点を破壊するため、米軍に基地利用を認めた。仏原子力空母FSシャルル・ド・ゴールも中東に向かうことになり、敵を増やしたがっているように見えるイランの目論見は成功している。報道によると、ドイツ軍もイラン攻撃に参加する可能性がある。
●イランの徹底抗戦は米国にとって誤算?
米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、イランの核開発協議の中心人物であるラリジャニ氏と米国の対話再開に向けた取り組みが仲介国オマーンを通じて提示されたと報道したが、ラリジャニ氏はこの報道を否定し、米国と交渉しないと明言した。殉教したハメネイ師の信頼が最も厚かったラリジャニ氏が交渉を拒絶し、イランは対話よりも軍事作戦の継続を望んでいる。昨年の12日間戦争後、米国とイスラエルが再軍備を整え、再び攻撃を仕掛けてきたことからすれば、イランにとって停戦は敵に猶予を与えるだけである。イランは理想的な和平合意を目指して軍事行動を続けるだろう。イランにとっての強固な和平には、多くの国を巻き込む必要がある。
イランはただでさえ包囲されているなかで、あえて敵を増やしている。米国やイスラエルに加えて、英国やドイツ、フランスが参戦し、UAEやサウジアラビアのような軍事力を備えた中東のライバル国がイランと対峙するならかなり追い詰められるリスクがありそうだが、今のところ怯む様子はない。トランプ大統領はイランに対する攻撃強化を予告し、「本格的な攻撃は始まってもいない」、「ビッグウェーブはまだ起きていない」と述べたが、中東の極度の緊迫化は米国にとって誤算でしかない。米国がホルムズ海峡におけるタンカー護衛や、中東からの退避を今さら発表していることが後手であることを示唆する。米国の同盟国を守る迎撃ミサイルもまもなく枯渇するようだ。ファトワー(イスラム教の法解釈)で核兵器の製造を禁じていたイラン最高指導者ハメネイ師は殺害されたが、米国が自滅するならばイランは切り札に傾斜しないと願いたい。
(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)
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