鶴田零(東京海上アセットマネジメント)が斬る ―どうなる?半年後の株価と為替―
堅調な推移を続けてきた日米の株式相場が乱高下している。米国とイスラエルが2月末に始めたイラン攻撃を受けて、投資家のリスク回避姿勢が強まり、株式相場は不安定になっている。高市早苗首相が率いる自民党が衆院選で大勝し、株高が加速していた日本でも、日経平均株価が急落と急反発を繰り返している。トランプ大統領が「就任から24時間以内に終わらせる」と豪語したロシア・ウクライナ戦争も収束のメドはつかず、台湾有事を巡る高市首相の発言を受けた日本と中国の対立や米国のインフレ懸念も根強い。
世界の政治経済が混迷を深める中、アナリストやエコノミストなどの専門家は、「半年後の株価」や「半年後の為替」をどう見ているのか。インタビューを通じて、著名アナリストに予測してもらい、その背景を詳報する。第47回は、東京海上アセットマネジメントの鶴田零チーフエコノミストに話を聞いた。
●鶴田零(つるたれい)

| 鶴田零氏の予測 4つのポイント | |
| (1) | 半年後の日経平均株価は6万円程度 |
| (2) | 半年後のS&P500株価指数は7450ポイント程度 |
| (3) | セリングクライマックスは3~4週間内と予想 |
| (4) | 注目するセクターは半導体などAI関連、AI代替リスクが小さい機械、エネルギーなど |
―― 米国とイスラエルによるイランへの攻撃を受けて、楽観的だった株式市場の雰囲気が大きく変わりました。半年後(2026年9月末)の日米の株価水準をどう予測しますか。
鶴田:私は短期間でイラン情勢が収束に向かい始めることを前提に、半年後の日経平均株価を6万円程度、S&P500株価指数を7500ポイント程度だと予測しています。
図1 S&P500株価指数(週足)

―― 現状に比べて日米の株価が上昇するという予測かと思います。現時点では地政学的リスクも含めて先行き不透明感が強いように見えますが、理由を教えて下さい。
鶴田:世界のマクロ経済環境が良好であることが株高をサポートすると考えています。残業代やチップへの非課税、設備投資減税といった米国の減税効果が出てくるのはこれからです。実効関税率の推移をみると、トランプ関税の悪影響も予想より軽微です。カナダ、メキシコからの輸入品や米国で生産が困難な農産品、重要鉱物にはほとんど関税が掛からないなど、抜け道が少なくないからです。日本では、ガソリン暫定税率の廃止、電気・ガス料金への補助金など補正予算の効果が出てきます。日本を含めて世界的なAI(人工知能)への投資も続くでしょう。
米国・イスラエルのイラン攻撃による株式相場への悪影響は足元で大きいですが、短期間で収束に向かえば過去の事例と同様、一定の時間が経過したところで回復してくるでしょう。例えば、2022年のウクライナ戦争でも3~4週間は株価が下落しましたが、その後は上昇に転じました。
―― 日本特有の株価押し上げの要因はありますか。
鶴田:日本では2月の衆院選で自民党が大勝し、世界でも際立って政治体制が安定しました。高市政権の支持率も高く、自民党が単独で衆院の3分の2以上の議席を確保したことを考えれば、株価が急伸した安倍晋三政権時以上の安定性といってもよいかもしれません。政治面の不確実性が低くなり、株価を押し上げやすくなっています。さらに、高市政権は半導体や防衛など経済安全保障を含めた成長投資に力を入れる姿勢を示しています。
―― 日経平均株価の上昇局面では海外投資家の買いが目立っていましたが、日本株の見直しが進んでいるということでしょうか。
鶴田: トランプ米政権の誕生を受けて、海外投資家は従来の米国一辺倒の投資ではリスクが高いと考えています。日本を含めた第三国に資金を分散していく流れは続くでしょう。海外投資家がアンダーウエイト(少なめ)にしていた日本株の比率を戻していくということです。日経平均株価の予想PER(株価収益率)は20倍前後と高まっていますが、政治の安定やインフレの定着、企業収益の増加基調の強まりなど、正当化できる理由が増えています。
図2 日経平均株価の予想PER

―― 投資家の多くが米国とイスラエルによるイラン戦争を受けて、どこまで株価が下がるのかに関心を寄せています。予測が難しいと思いますが、セリングクライマックス(売りの最終局面)をいつ頃だと考えていますか。
鶴田:専門家によると、イランの戦争継続能力は高くないようです。武器、弾薬の備蓄が多くはなく、数週間で不足すると見られているからです。米国も武器・弾薬の輸送に時間がかかるため、3~4週間内がメドになると思います。日経平均株価は足元で原油価格の上昇による業績下振れを概ね織り込んだとみられます。ただ、下値としては200日移動平均線である4万7000円程度を意識した方がよいかもしれません。
―― 日経平均株価が反転するきっかけは。
鶴田:米国とイランの停戦交渉が始まる、またはホルムズ海峡の封鎖が解かれる方向性が出た時だと考えています。すぐに停戦にならなくても、イランがホルムズ海峡を封鎖できなくなれば、世界経済にも株式相場にとってもプラスになります。
―― 物価高を受けて、日銀は4月にも利上げを実施すると見られていましたが、イラン戦争を受けて経済の先行き不透明感が増しています。高市首相は2月16日の植田日銀総裁との会談で追加利上げに難色を示したとも報じられました。
鶴田:イランを巡る不確実性は当面高い状態が続くとみられますので、4月の利上げは難しいかもしれません。ただ、日銀の年内の利上げは十分可能だと考えています。高市首相は金融緩和を掲げていた安倍元首相と違い、「責任ある積極財政」を掲げています。利上げを遅らせれば円安が進行するほか、長期金利が上がりやすくなり、国債の利払いが増加し、財政を悪化させます。このため、政権の圧力による金融政策への影響は限られるでしょう。
―― 市場関係者の一部では、今年11月の米中間選挙で共和党が劣勢であることから、年央以降に日米株価が調整局面に入るとの見方があります。
鶴田:中間選挙が近づくにつれて、株価の上値が重くなる可能性はあると思います。一方、中間選挙で共和党が敗北し、大統領の出身政党と、上院か下院、または上下両院の多数派が異なるねじれ状態の「分割政府」になる可能性が高いことは既に多くの専門家が指摘しています。こうした状況はすでに株式相場に織り込まれつつあり、選挙後は大きなインパクトをもたらさないと考えています。
あくまでリスクシナリオですが、分割政府となり、思うように政策を進められなくなったトランプ大統領が、外交面で戦争などの動きに出て、株式相場に悪影響を与えることはあるかもしれません。
―― 注目するセクターを教えて下さい。
鶴田:半導体製造装置やデータセンター向けの光ファイバーで需要が増える電線関連、フィジカルAI関連企業の業績は引き続き伸びていくでしょう。また、今後はAIを使う側がいかに生産性を上げられるかも重要になります。多くの業種がAI活用の恩恵を享受できる可能性があるわけですが、一方でコンサルティングやソフトウエアのように、ビジネス自体がAIに取って代わられる可能性が意識される業種については注意が必要です。逆に、機械や素材、エネルギーなど製品・サービスの提供に巨大な物理的アセットが必要な業種は、AIによる代替リスクが小さいということで見直される可能性もありそうです。
(※聞き手は日高広太郎)

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