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【市況】武者陵司 「新型コロナウイルスと米国株高シリーズ(3)」<後編>

武者陵司(株式会社武者リサーチ 代表)

※武者陵司 「新型コロナウイルスと米国株高シリーズ(3)」<前編>から続く

【2】新型コロナウイルスが露呈させた中国統治システムの根本的欠陥

●中国経済成長の持続性(sustainability)に疑問符

 このように当面の 新型コロナウイルス感染戦争に中国習近平政権が勝利する可能性が高いと考えられるが、長い目で見れば、今回の感染拡大が大きな転換点になる可能性は大きいと思われる。経済不況→金融危機→社会不安→レジームチェンジ(体制破綻と再生)という長い落日と再生への行程が始まったといえるかもしれない。

 一人当たりGDPほぼ1万ドルと中進国上位に躍進した人口14億人の中国が、6%という高成長を維持することには無理がある。過剰債務の積み上げ、政府の補助金、知的所有権の盗用など、中国経済の発展モデルそのもののサステイナビリティ(持続性)に対して疑義が強かったが、今回のコロナウイルス問題がダメ押しになる可能性が大きい。

 中国はセメント6割 、鉄鋼5割に始まり、家電、スマホなど多くの分野で過半の世界シェアを築き上げ世界の工場になっているが、過度の中国依存のリスクは大きい。まして米国が中国依存の引き下げに躍起になっている米中貿易戦争のさなかである。ロス米商務長官は新型コロナウイルス蔓延に際して、「企業が同国の生産拠点を米国内に回帰させる可能性がある」との無神経な発言をして非難を浴びたが、それがなくても各国企業は中国に大きく依存しているサプライチェーンの抜本的見直しを余儀なくされるだろう。

 すでにアジア新興国の中で中国の人件費は最も高く、労働集約産業は中国から脱出しつつあった。米中貿易戦争でハイテクも脱中国を迫られつつある。新型コロナウイルスの発生は中国のグローバルサプライチェーンにおける地位を引き下げる分水嶺になるだろう。中国の競争相手として台湾、ASEAN(東南アジア諸国連合)などが浮上し、両者間で価格競争が強まるだろう。中国の貿易、経常収支は悪化し、外貨市場ではドルの調達難が一段と進行するだろう。それは国内の金融緊張を高め、バブル崩壊の土台を作る。また、度重なる財政出動と公的部門による民間投融資(例えば体質が悪化したHNAグループ、海航集団は海南省によって公的管理下に置かれた)は財政バランスを急速に悪化させていくだろう。

●グローバルプレーヤーとしての適格性(eligibility)に疑問符

 新型コロナウイルス問題は、国際プレーヤーとしての中国のエリジビリティ(適格性)に対しての疑問を刻印した。感染対応の初動が情報統制で遅れたこと、緊急事態宣言発動の遅れを批判されているWHOに対する圧力(中国マネーの支援を受けているエチオピア出身のテドロスWHO事務局長は中国の果断な措置を称賛、感謝した)などは、中国の国際評価を大きく引き下げている。また、公正であるべき国連機関の15の専門機関において4つの首脳ポストを中国が獲得し(FAO国連食糧農業機関、ICAO国際民間航空機関、ITU国際電気通信連合、UNIDO国連工業開発機関)、3月に選挙が行われるWIPO世界知的所有機関でも、事務局長ポスト獲得が有力視されている。2001年以降の世界CO2排出量増加の7割を中国が占めているという環境問題も国際社会からの批判の対象になるかもしれない。

●中国統治制度が引き起こした災禍

 それ以上に今回の新型コロナウイルス問題は、強権的習近平統治体制に対する根本的疑義を露呈させた。武漢市の周市長は1月27日、中国の国営テレビに対し、「あらゆる当事者が我々の情報開示に満足していないこと」を承知していると発言。しかし市長は、自身の言動が省政府・国家首脳から厳しく制限され 「地方自治体では、私のもとに情報が届いても、許可を得なければ公表できない」と告白した。

 2019年12月30日、武漢衛生健康委員会が発行した『原因不明の肺炎に対する治療についての緊急通知』がSNS上で広まった。そこには、武漢の多くの医療機関で原因不明の肺炎症例が相次いで出現し、肺炎が華南海鮮市場と関連しているということが書かれていた。この通知は、厳格な情報報告を求め、「いかなる機関及び個人も、許可を得ずみだりに治療情報を外部に発信してはならない」と強調している。当局の感染認識と情報隠蔽を示唆している。ネットで新型肺炎拡散の事実を伝えた李文亮医師をデマ流布として摘発、情報管制を敷いていた。李氏は新型肺炎で死去した。コロナウイルス感染拡大は言論の自由を封殺した人災だとの批判は、北京大学や清華大学の教授達からも提起されている。習近平政権はそれら批判の封殺を企てている。

 またそもそも新型コロナウイルスの発生源が、華南海鮮市場ではないと当局も認めたが、それではどこから由来したかが問われる。産経新聞は「香港メディアなどによると、華南理工大(広東省広州)の肖波濤(しょう・はとう)教授は今月6日、研究者向けサイトに投稿した論文で、同市場から280メートルの近距離にある武漢疾病予防コントロールセンターからウイルスが流出した可能性を指摘した」「ただ、この論文はその後サイトから削除された」と報じている(2月26日付)。ネット上ではその他生物兵器説など多くの観測が提示されている。

●中国のチエルノブイリになるかもしれない

 チェルノブイリ原発事故(1986年)は、(1)情報隠蔽による人命の喪失、(2)技術・生産体制・ライフラインシステムの欠陥露呈、(3)混乱収束の過程での膨大なコスト、等を引き起こし、5年後のソ連体制を崩壊(1991年)に導く導火線となった。新型ウイルス問題が習近平強権体制にとって、チェルノブイリと同じような役割を果たすかもしれない、との指摘がFinancial Timesなどのメディアに現れている。

 インターネット上では、佐藤 優氏による以下のようなゴルバチョフ氏のコメントが紹介されている。「チェルノブイリ原子力発電所の事故は、わが国の技術が老朽化してしまったばかりか、従来のシステムがその可能性を使い尽してしまったことをまざまざと見せつける恐ろしい証明であった。それと同時に、これが歴史の皮肉か、それは途方もない重さでわれわれの始めた改革にはねかえり、文字通り国を軌道からはじき出してしまったのである」(『ゴルバチョフ回想録 上巻』新潮社、1996年、377頁)。

(2020年3月3日記 武者リサーチ「ストラテジーブレティン246号」を転載)


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