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21兆円市場に爆発的成長へ、「肥満症治療薬」関連株に青天井の予感 <株探トップ特集>

特集
2024年6月25日 19時30分

―米国市場で開発企業の株価は上昇の一途、日本でも新薬の市場投入が続々―

今年もまもなく上半期を終えようとしている。米国市場ではこの半年間、AI関連銘柄が株式市場のけん引役となったが、 肥満症治療薬の関連銘柄のパフォーマンスも目を見張るものがあった。日本国内においても、今年に入り新たな肥満症治療薬が相次いで発売され、社会的な関心を集めつつある。今後、急拡大すると期待される市場だけに、関連銘柄の上昇エネルギーが蓄積しつつある状況だ。

●増加に歯止め掛からない肥満人口

世界の肥満人口は2022年時点で10億人を突破したと推測されている。スマートフォンやパソコンの操作に時間を奪われがちな現代社会は、摂取カロリーが消費カロリーを上回りやすい環境と言える。AIやロボットの活用により人手が必要な業務はますます減少する公算が大きく、肥満人口は今後も増加を続けるとみられている。

心筋梗塞、脳梗塞などを引き起こす原因として考えられている肥満症のなかでも、BMI(体格指数)が一定の水準を上回り、肥満に関連する健康障害を抱えるなど、条件に適合した場合は、保険適用で薬物療法を受けられるという。

これまで日本では抗肥満薬として、スイス製薬大手ノバルティス<NVS>が開発した食欲抑制剤の「マジンドール」が存在していたが、24年に入りデンマークの製薬大手ノボ・ノルディスク<NVO>が開発したGLP-1受容体作動薬「ウゴービ」の処方が始まった。また、大正製薬(東京都豊島区)は市販薬として内臓脂肪減少薬「アライ」を4月に発売し、いずれも高い関心を集めている。更に米イーライ・リリー<LLY>の日本法人は5月、糖尿病治療薬の「チルゼパチド」について、肥満症治療薬としての発売に向けて厚生労働省に承認申請を行った。米国では「ゼプバウンド」の名ですでに販売されている。

市場では「日本は米国よりも肥満人口が少なく、肥満症治療薬はまだ身近な存在になる過程の段階だが、グローバル的に伸びしろがあり有望な製品であるのは確かだ」(中堅証券ストラテジスト)との声が出ている。米医療データ会社のIQVIAホールディングス<IQV>は、世界全体での肥満症治療薬の支出額は年率で24~27%の成長を遂げ、28年までに最大1310億ドル(約21兆円)に達すると予測している。肥満症治療薬の成長期待からイーライリリーの株価は19年末の水準に比べ7倍近く上昇。昨年末の水準と比べても50%を超す上昇となっている。ノボノルディスクも19年末比で約5倍、昨年末比で約38%高と上昇基調を鮮明にしている。

●中外薬のマイルストーン収入に膨らむ期待

日本の製薬企業では、中外製薬 <4519> [東証P]がイーライリリーに対し、肥満症向けに開発中の経口薬「オルフォルグリプロン」の権利を譲渡している。今年2月に中外薬は開発の進捗に合わせて得られるマイルストーン収入に関し、最大で3億9000万ドルを受け取る権利を持つと開示した。また、三菱ケミカルグループ <4188> [東証P]傘下の田辺三菱製薬は、イーライリリーの「チルゼパチド」で同社と販売提携する。

カセイソーダを手掛ける大阪ソーダ <4046> [東証P]は、日本における関連銘柄の代表格と位置付けられている。医薬品精製用シリカゲルの需要が肥満症治療薬関連で急速に拡大しており、緊急増産で対応しつつ、将来を見据えて設備増強を実施する方針。27年3月期には製造能力を現状の2倍に高める計画だ。

医薬品開発製造受託のアステナホールディングス <8095> [東証P]は昨年6月、グループ会社とノボノルディスクとの間での糖尿病・肥満など関連疾患分野での独占的製造ライセンス契約の締結を発表した。ペプチドリーム <4587> [東証P]の「ミオスタチン阻害剤」は肥満症治療薬と同阻害剤を併用することで、脂肪減少にあわせて筋肉量が減少するのを抑える効果が期待されている。

一方、肥満症治療薬の関連銘柄として有望視されていた塩野義製薬 <4507> [東証P]は今月6日に開示した「R&D Day」の資料のなかで肥満症治療薬の第2相試験の速報を開示し、単剤開発の可否を判断する基準をクリアできなかったことを明らかにした。新たな開発戦略の検討に乗り出す方を示している。

●注射器・CDMO関連も恩恵か

富士フイルムホールディングス <4901> [東証P]は傘下の富士フイルム富山化学が前述の「マジンドール」の製造販売を手掛けている。加えて、富士フイルム傘下のフジフイルム・ダイオシンス・バイオテクノロジーズが今年1月、注射器の生産拡大に関する発表を行った。ウゴービやチルゼパチドは注射薬とあって、肥満症治療薬向けの注射器需要の増加が期待されている。ニプロ <8086> [東証P]が手掛けるインスリン針は、肥満症関連での需要の急拡大が期待されており、同社も販売数量が年率2ケタ成長を続ける予想を示している。テルモ <4543> [東証P]もインスリン用の注射針を製品群に持つ。アドバネクス <5998> [東証S]は注射器向けの精密ばねを手掛けている。

GLP-1受容体作動薬の需要の高まりに伴って供給体制を整備しようとする足もとの潮流は、島津製作所 <7701> [東証P]などの医用機器メーカーのほか、富士フイルムやAGC <5201> [東証P]といった医薬品受託製造(CDMO)大手に対しても、新たな商機への思惑を広げそうだ。CDMO事業を展開する企業はほかにも、積水化学工業 <4204> [東証P]やタカラバイオ <4974> [東証P]、日本触媒 <4114> [東証P]、生化学工業 <4548> [東証P]、神戸天然物化学 <6568> [東証G]などさまざまなプレイヤーが存在する。肥満症治療薬の開発活動の活発化は、医薬品開発受託の新日本科学 <2395> [東証P]やリニカル <2183> [東証S]、創薬支援のトランスジェニック <2342> [東証G]などの事業環境にもポジティブな影響をもたらしそうだ。

医師の指示によって処方される医療用医薬品だけではなく、市販薬に対してもスポットライトが当たりやすい状況にある。前述の大正製薬の「アライ」のほか、ジェイフロンティア <2934> [東証G]は肥満症に効く漢方薬として「防已黄耆湯錠SX」を今年3月に発売。ツムラ <4540> [東証P]も肥満に伴う肩こりや頭痛、便秘といった症状向けに漢方薬「大柴胡湯」などのラインアップを取りそろえている。紅麹問題に揺れた小林製薬 <4967> [東証P]の「ナイシトール」も内臓脂肪の分解・燃焼を促す商品とあって、関連銘柄とみなされている。

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