明日の株式相場に向けて=トランプラリーの幻想と騰落レシオの現実
きょう(14日)の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比185円安の3万8535円と3日続落。今週は後場に入ってから崩れ足になるケースが続いている。きょうもその典型で、安値引けのオマケ付きとなった。企業の決算発表ラッシュもようやく終了し、結果として期待したほどではなかったが、足もとの急速な円安が今後の見通しに織り込まれていないことをポジティブに捉える向きもある。しかし、何か今の相場は違和感を覚える。
前日13日時点で日経225ベースの騰落レシオは77.6%だった。直近の日経平均株価の水準や信用評価損益率などをみても投資マインドはそれほど冷え込んでいるようには思えないのだが、80%を下回っているという事実には驚かされる。というのも、日経225ベースで騰落レシオが80%を下回ったのは今年に入ってからは前日を含めわずかに2回しかないからだ。残りの1回は8月9日であり、いうまでもなく当時は8月5日に史上最大の暴落に見舞われた直後で、大波乱相場の残響の中にあった。この時は79.8%であり、つまり前日13日に騰落レシオは今年最低を記録していたことになる。
騰落レシオは市場の過熱感や冷え込み度合いを測るうえで、単純ながら極めて信頼性の高い指標であり、値上がり銘柄数と値下がり銘柄数の比率を割り算で指数化(%で表記)したもの。一般的には25日移動平均が使われるが、これは直近25日間の値上がり銘柄数を同期間の値下がり銘柄数で割った数値で、100%前後を中庸として、120%を超えると過熱圏を示唆。逆に80%もしくは70%を下回ると陰の極に近い水準とされる。現在の日経平均は3万8000円台で4万円大台回復も視界に入る局面だが、投資マインドはほぼ戦意を失った状態といっても過言ではない。これは、短期トレードでマーケットと対峙している投資家ほど感覚的に理解できるはずで、決算プレーで盛り上がっているように見えても、その鉄火場に参戦しているのはほんの一握りに過ぎない。
トランプラリーは米国だけではなく、東京市場にも波及しているとみられているが、そこに投資資金の潮流が本当に発生しているのかといえば疑問符が付く。きょうは再び売買代金首位に躍り出た三菱重工業<7011>が、株価も一時5%を超える上昇で上場来高値近辺での強調展開を続けた。三菱重を筆頭に「リアル防衛関連」の三羽烏といえば川崎重工業<7012>、IHI<7013>であり、きょうはIHIは後場値を消したが、相対的に出遅れる川重はプラス圏を維持した。しかし、どこか後ろ向きな気配が漂う。トランプ次期大統領の政治的圧力に対する思惑、つまり日本の防衛費拡大を買いの根拠としているのだが、いかにも従属的で活力が感じられない。
炭鉱のカナリヤを例にあげれば、今の東京市場はおそらくカナリヤが仮死状態からは脱したものの、自らの意思で再び囀(さえず)ることをやめたような状態にある。それを騰落レシオが如実に語っている。例えば足もとで過激ともいえる円安トレンドが復活しているが半導体関連株はさっぱり反応しなくなった。対ドル1円の円安で営業利益が約500億円上乗せされるというトヨタ自動車<7203>でさえ、底値もみ合い圏を脱していない。
そもそも今の円安進行もセオリーから外れている。米長期金利の急上昇に伴う日米金利差拡大が背景に挙げられているが、前日の米株市場では10月の消費者物価指数(CPI)発表を受け、12月FOMCでの利下げ期待が高まったことが好材料視されていた。片や日本はFOMCと同時期に開催される日銀金融政策決定会合で追加利上げの可能性が語られている。トランプラリーは相場の周りにある計器を狂わせまくっている。加えて言えばトランプ氏が大統領に就任するのは来年の1月20日である。2カ月以上の間、トランプトレードが今後もマーケットでテーマ性を維持できるとは思えない。例えば向こう2カ月のビットコイン価格の動向は要注目となる。株式市場でもここは売りの仕掛けに備えるところで、キャッシュポジションを高めておけば、仕切り直しのチャンスを捉えることも可能だ。
あすのスケジュールでは、7~9月期GDP速報値、9月の鉱工業生産(確報値)、9月の第3次産業活動指数など。海外では10月の中国70都市の新築住宅価格動向、10月の中国小売売上高、10月の中国工業生産高、10月の中国固定資産投資、10月の中国都市部固定資産投資、11月の米NY連銀製造業景気指数、10月の米小売売上高、10月の米輸出入物価指数、10月の米鉱工業生産・設備稼働率、9月の米企業在庫など。(銀)
株探ニュース