グロース・トラップに引っかかるな! 割高でも強い「真の成長株」を探る
大川智宏の「日本株・数字で徹底診断!」 第56回
鍵となるのは、「安定成長性スコア」の考え方です。イメージをつかむために、以下の2つの架空サンプル銘柄AとBの長期業績予想の推移を見てみます。
■サンプル銘柄による成長予想の安定性の例
出所:智剣・Oskarグループ
この図は、現在時点の実績値を起点とし、1期先から5期先までの業績予想の成長の推移を仮定したものです。5期先を見れば、A、Bのどちらも500%も業績が成長し、着地は同じ結果となる予想です。
1年あたりの年平均成長率も、両者は100%で同一です。しかし、この図を見てどちらの銘柄の業績予想に信頼性が高いと感じるか、そしてどちらの銘柄に投資したいと思うか、というのがこの議論の主眼です。
ほとんどの人が、前者の銘柄の信頼性が高く、投資をしたいと考えるでしょう。そして、その感覚が正しいことは定量的に表現可能であり、それが「標準偏差(ばらつき)」と、それを用いた「安定成長性スコア」になります。
以下の図は、そのスコアの計算過程を表にしたものです。
■サンプル銘柄の安定成長性スコアの計算過程と結果
① 年平均 予想成長率 | ② 成長率 標準偏差 | ①÷② 安定成長 スコア | |
---|---|---|---|
銘柄A | 100% | 50% | 2.00 |
銘柄B | 100% | 604% | 0.17 |
前述のように、年平均の予想成長率はどちらも100%で違いがないように見えますが、両者の標準偏差は10倍以上の開きがあります。標準偏差は、誤解を恐れずに簡潔にいえば、平均値に対して1標準偏差の確率(7割弱)で発生しうる数字のブレを表しており、投資の用語では「リスク」とも表現されます。
そして、平均成長率をこの標準偏差で除すと、成長率が高くリスクの低い銘柄は値が高く評価され、逆に成長率が低くリスクの高い銘柄は低く評価される、という明快な仕組みです。
安定成長性スコアで東証1部銘柄を検証すると
では、このスコアを用いて実際にパフォーマンスを計測していきたいと思います。
計測の方法は、以下のイメージ図の通りで、東証1部上場銘柄を母集団とした安定成長性スコアの5分位のロング・ショート(月次)になります。また、スコア算出の元となる業績はコンセンサス予想EPSを用いています。
■安定成長性スコアの投資効果計測イメージ
出所:智剣・Oskarグループ
そして、実際の検証結果は以下の図のようになります。
■安定成長性スコアの投資パフォーマンス(ロングショート)
出所データストリーム
過去10年間を通して、非常に安定的な高パフォーマンスを生み出していることが分かります。その間に、欧州債務危機、アベノミクス、チャイナ・ショック、米中摩擦、コロナ禍など様々な大きな変化が起こりましたが、それほど影響を受けた形跡はありません。
特に足元のコロナ禍においては、しっかりと長期的に成長が続く銘柄を選別することで、不安的な経済環境を物ともせずに高いリターンを獲得できていたようです。
割安で出遅れ、割高で過熱感、といった株価の高い・安いの概念を排除
ここで重要なのは、前述の通りこの検証に用いたのは長期の予想EPSの成長率のみで、株価およびバリュエーションの観点が一切含まれていないことです。
割安で出遅れ、割高で過熱感、といった株価の高い・安いの概念を排除し、「現時点から長期的に信頼性の高い成長が見込めるか」という絶対値としての観点のみを考えた結果が、そのままパフォーマンスとして反映されたと言えます。
依然としてコロナ禍の出口は見えず、経済が悪化する中での株高・金利高など、今までの常識では考えられない金融市場の動きが続いています。このような環境下では、一時的に株式市場が上下に大きく混乱し、個々の銘柄の株価が想定外の動きを見せる瞬間もあるかもしれません。
しかし、それが割高だから、割安だからと根拠も乏しく安易に理由づけをして一喜一憂するのではなく、銘柄の成長の本質をとらえて投資ができれば、多少の変化にも動じず大きく構えて長期的なパフォーマンスの向上に期待が持てると思います。
最後に、参考までに安定成長性スコアを基準に抽出した参考銘柄リストを掲載しておきます。
※当該情報は、一般情報の提供を目的としたものであり、有価証券その他の金融商品に関する助言または推奨を行うものではありません。
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