武者陵司 「満を持して迎える2018年」(後編)

市況
2018年1月4日 14時50分

―平成が土台を作った新たな繁栄の時代が始まった―

武者陵司(株式会社武者リサーチ 代表)

※前編はこちら。

(5)リスクは限定的

2018 年に経済後退や株価上昇トレンドの転換をもたらすようなリスクは考えにくい。あえて挙げれば、米国金融引き締めのリスク、中国経済失速のリスク、対北朝鮮軍事衝突、日本の財政破綻などが指摘されるが、後述するように2018年に限って言えば心配は無用であろう。

A.米国金融引き締めのリスク

唯一の懸念はFRBがビハインド・ザ・カーブに陥り、その反動からオーバーキル(過剰引き締め)になることであるが、すでに5回の予防的利上げと資産圧縮を始めており、その可能性は小さい。アメリカが戦後リセッションに陥ったのは、長短期金利が逆転したときのみ、しかし長短金利が逆転する条件はほとんど地平上に現れていない。長短金利が逆転する最大の要因はインフレの加速だが、その可能性はほとんどない。政策の間違いさえ無ければアメリカの景気拡大は、2年はいうまでもなく、あと 5年程度続く可能性もある。

ただ、税制改革・減税に加えて 2018年はインフラ投資も具体化しそうであり、公的需要拡大により、秩序だった需給タイト化、インフレの高まりは起こり得る。

B.中国の金融危機深化は封印可能

中国経済はハイテク投資、新経済特区雄安の建設など公的部門の牽引により6%台の成長が続いている。世界第二位の経済規模かつ中進国になった今、6%成長持続には無理がある。

しかし2018年も、経済失速が危機を引き起こした2015年の苦い経験を回避するため、公的投資偏重のパターンを続けざるを得ない。投資偏重の経済成長は過剰設備、不採算社会資本、潜在的不良債権を積み上げるリスクがあるが、企業や地方政府の破綻は国家の介入によって回避できる。

中央集権的な政府が際限なく通貨を発行しゾンビを救済し続け、場合によっては統計や財務データを隠蔽、改ざんすることも手段としてはあり得るとすれば、危機は永遠に封印できるのか(?) という問いがある。

●急減する貿易黒字、強化される資本規制

ならば、中国の危機はどこから綻ぶのか、何をウォッチしていくべきなのかだが、それはクロスボーダーの資金収支であり、それは四半期ごとに発表される国際収支統計と対外資産負債残高に現れている。

外貨準備高の増減はその収支尻として重要である。2014年までの中国の成長エンジンは貿易(経常)黒字と巨額資本流入による潤沢な海外マネーであったが、いま貿易黒字が年率20%ペースで急減し、資本流入も止まり、外貨事情は激変している。

2017年は資本取引規制や海外投資抑制、外貨持ち出し規制により辛うじて資本収支の悪化を回避し外貨準備高は3兆ドル強とほぼ横這いで推移した。2018年は貿易黒字のさらなる減少から、一段の資本規制が必要になるだろう。中国の湾岸部の人件費がアセアン諸国のどこよりも高くなり輸出競争力が低下していること、ハイテク投資は輸入を大幅に増加せざるを得ないことが貿易黒字急減の背景にあり、これは構造的な問題である。

●人民元安は選択肢になり得ない

高人件費を人民元安で是正したいところであるが、それは対中資本流入をさらに抑制するというジレンマをもたらす。

それ以上に通貨危機の悪夢を呼び起こす。また、対中貿易摩擦を強める米国は中国の通貨切り下げを監視している。

トランプ大統領が選挙公約で述べた「中国をいの一番に為替操作国に認定する」が実施されれば、米国からの報復の連鎖は計り知れない。このように考えれば割高な人民元を維持し続けることが唯一の選択肢といえるが、それは資本規制の強化と資本流入のさらなる減少を不可避にし、中国の国際金融力を急速に衰えさせていくであろう。とはいえ、それは急性の危機には結びつかない。2018年に予想される米国利上げは中国からの資本流出圧力を強めるという問題はあるが、対処可能であろう。

●外貨市場が中国のアキレス腱

対外資産負債残高こそがその国の本来の金融力の強さを示していると考えられるが、そこに中国経済のアキレス腱がある。中国は世界最大で日本の3倍近い外貨準備を保有している国であり、それをもって世界最強の国際金融能力保有国と解釈されているが、実はその外貨準備の半分は借金である。

中国は極めて大量の海外資金(海外からの投資、融資)に依存して国内の投資をしてきたが、これが同じ黒字国でも日本との大きな違いである。日本の成長は全て国内のお金(貯蓄)、中国は対外債務を積み上げで成長してきた。この借金で成長してきた中国が海外から投融資の返済を求められたり、資金が海外に逃げ出したら、直ちに深刻な通貨危機に陥る脆弱性を持っている。

C.北朝鮮問題は世界リセッションを引き起こさない

軍事衝突は合理的に考えれば起き得ない。北朝鮮が滅亡に結びつく先制攻撃を仕掛けるとは考えられない。民主主義国・米国も北の反撃で大量の人的被害が想定される以上先制できない。では、ミステイクによって戦争が起きるかだが、それは起きない。米国も北朝鮮も全面衝突を回避したいと考えているなら、どこかの段階でチェックが入ることは確実であろう。

唯一可能性があるとすれば、米国が北の反撃能力を瞬間攻撃で無効化できると確信することだが、その場合、世界経済への深刻な悪影響は回避できよう。また、米国が先制攻撃を仕掛ける場合は中国が北を経済的に締め上げ、新レジームづくりを主導することが不可避である。北の滅亡、流動化を絶対に回避したいのは米中韓の共通利害である。

D.日本固有問題、政府債務、日銀の財政ファイナンス批判は全く心配ない

●BSの片側だけで財務健全性を議論する愚かさ

合い言葉のように語られる日本政府債務問題、これは当面も中長期的にも全く心配ないといえる。政府は債務超過でも、家計、企業に大きな貯蓄余剰があり、日本全体では巨額の資産超過、ということが最も重要な真実である。日本の対外バランスシート(対外資産負債残高表)は世界で一番優良、3.2兆ドルの対外純資産は中国の2倍近くにのぼる。また、日本の政府部門の健全性をバランスシートの片側、債務だけで問題にするのは矮小化した議論である。

日本政府は高速道路などの実物資産、投資資産や、1兆ドルを超える外貨準備の裏付けとしての外貨建債券など巨額の資産を保有しており(財務省統計ではそれらの資産合計は670兆円に上る)、政府の総債務1200兆円から以上の資産残高を差し引いた純債務は520兆円となり、それは公表されている政府総債務の半分以下なのである。対GDP比では総債務は2.23倍だが、純債務は0.97倍まで低下する。政府の純債務を各国と比較すると、欧米各国がほぼ0.8~0.9倍の範囲内なので、極端に悪い数字ではない。

日本はスイスとともに世界で一番金利(国債利回り)が低いということはマーケットが日本政府を投資対象として安全と評価している表れと考えられる。ギリシャは一番の借金国なので金利は一番高い。日本の政府が低金利でお金を借りられるということは、政府は借金があるが民間は大幅な貯蓄余剰で、両方を足したら日本は十分に健全だということなのである。

●日銀による財政ファイナンス、評価は民間価値創造を抑えるか促進するかで下すべき

日本銀行が巨額の資産膨張(=通貨を発行)し、その資金で400兆円に上る国債を買っており、財政ファイナンスをしているという批判がある。他方では日銀は政府部門の一つなので、日銀による国債保有額は、政府の債務とは言えないという議論もある。そう考えれば、『政府純債務520兆円-日銀保有国債400兆円=真の政府債務120兆円』と計算でき、政府の債務問題は全く心配ないという議論も成り立つのである。

日銀の資産と政府の債務を足し合わされると相殺される。それは日銀という主体はただで資金を調達できる通貨発行特権があり、政府債務を返済義務のない通貨発行で賄うという論理である。原理的にはそれに問題はない。問題は日銀がお札をどんどん刷った結果ハイパーインフレになって国の生産性が落ち、民間の所得を生み出す力が弱くなり、国として滅びる可能性があるかである。それを判断する基準は民間が価値を作る力があるかどうか、という民間の問題となるが、日本の民間は価値を十分作りだし、強くなっているので価値を作り出せる日本の通貨の価値がなくなることはないと言える。百歩譲ってハイパーインフレになり通貨が暴落すれば、ただでさえ強力な日本の産業競争力がさらに強まり、日本の価値を作り出す力は一段と強化される。

世界で一番古く不換紙幣を発行したのはモンゴルだが、その通貨が通用しなくなったのはモンゴルが滅びる直前、通貨の価値がなくなるのはその国が価値を作りだす力がなくなり、滅びる時といえる。日本は全くその段階には至っていないのは明白である。

●ハイパーインフレは直ちに債務をキャンセルさせる

なお、政府債務をファイナンスするために通貨発行を増加させればハイパーインフレになるという批判がある。確かに通貨価値は下落するが、それは直ちに政府債務が劇的に軽減されることを意味する。

以上をまとめると、政府債務と日銀の資産膨張を懸念する見方はいずれも、根拠薄弱、謬論といえる。

(6)天皇譲位が切り開く新時代

●新時代の帰趨は平成時代によって既に定められている

2019年4月30日に天皇陛下が譲位し、新しい元号となる。よって、2018年は、平成のまとめの年になる。平成の30 年間とはいったいどのような時代だったのか、みなが改めて考える年になる。

近代日本を振り返ると、天皇在位と元号は時代区分と密接に関連してきた。平成が次の御代に代わることは、明白に新時代が始まることを意味する。その新しい御代とはどんな時代なのかを決めるのは、平成時代である。平成の30年間がどのような時代だったのか、将来に向けて債務を積み上げた時代だったのか、将来に向けて財産を積み上げた時代だったのかの、評価にかかってくる。

当社(武者リサーチ)は、平成とは、日本が戦後の高度成長に伴うごった返しのドサクサをきれいに整理して、謙虚になり、グローバルシティズン(世界の市民)として世界から尊敬され、国民も企業も持続的な成長にふさわしい心構えを学んだ時代であったと考える。それは平成天皇のお人柄そのものでもある。特に平成の後半はこれからの成長の土台を見事に作った期間だったと思われる。前述の“Global only one”戦略が定着し日本企業の価値を作り出す能力は、平成の時代に飛躍的に高まった。

●大逆転必至の平成時代の評価

2018年は、平成の次に来る新しい繁栄の時代の予兆がかなりはっきりと見える年になるだろう。現時点でのコンセンサスは「平成30年間は財政赤字が増加し、人口減少が進み、将来につけを残した時代」との評価が圧倒的であろう。しかし、それは明白に間違いである。その間違いに気づくのが2018年、平成最後の年なのではないか。

生前譲位なので喪に服す必要がなく、祝賀ムードが高まりプラスの経済効果が大きく出やすい。国民の悲観ムードを一掃する、解放感に満ちた第二次世界大戦直後の「青い山脈」似の雰囲気が再現される可能性を考えるべきではないか。

以下に近代日本の時代区分を付記しておく

a.明治、大正 → 近代日本の黎明期、日英同盟が国際基軸

b.昭和前期(~20 年) → 近代日本の挫折、世界のスーパーパワーと敵対

c.昭和後期(20年~) → 戦後復興と空前の経済繁栄、Japan as No1、冷戦下の日米同盟

d.平成(表面的には) → 失われた20年大調整、成長を止めた20年、名目GDP500兆円で横這いと日本独り負け、日米同盟下だが実態は「安保瓶のふた」論、日米貿易戦争と超円高・日本バッシング

e.平成(真実は) → 洗練化の時代(謙虚、慎ましさ、世界市民化、文化進化、国民性の紳士化)、新たなビジネスモデル確立(脱競争、Only one提供の国へ)、将来の飛躍の条件を整えた時代、株価は大暴落から鋭角回復の緒に。

f.新御代 → 世界市民、新たな経済繁栄へ。米中対決下の日米基軸。世界最強の米国の最重要の同盟国に。覇権を求めないが突出した影響力を持つ経済大国に。

●さらに夢を膨らますと

デフレ脱却後の日本株のフェアバリューは差し当たって「配当利回り=10年国債利回り」となる水準だと考えられるが、その相関からはじき出すと、およそ日経平均株価3万円から4万円と試算される。

前述のような好材料を考えれば、2018年にまず下限の3万円をうかがい、さらに2020年の東京オリンピック前後には4万円をトライするというような歴史的大相場が始まっている可能性が濃厚ではないか。しかし、その先、新天皇の御代での10~10数年の間に、日経平均は10万円到達もあり得るのではないか。2020年3万5000円または4万円とし、 2030年10万円とすると、年平均上昇率は前者で11%、後者で9.5%、30年間全く値上がりがなかったことを考えれば、あり得ない数字ではあるまい(ちなみに過去30年間の米国ダウ工業株指数は13倍、年率9.0%であった)。

(2018年1月1日記 武者リサーチ「ストラテジーブレティン192号」を転載)

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