「武者陵司×南川明 2018年を読む!(武者氏講演 後編)」

市況
2018年1月15日 14時05分

―マクロとミクロ・技術邂逅の年、日経平均4万円への道―

※「武者陵司×南川明 2018年を読む!(武者氏講演 前編)」より続く

◆ 「2018年の世界経済と市場のフレームワーク」(2)◆

武者陵司(株式会社武者リサーチ 代表)

●歴史的飛躍期を迎えた日本、それを支えるもの

第3点目のトピックは日本である。日本が歴史的飛躍期に入っている理由について説明する。

日本が飛躍期に入っていると考える第一の根拠は、地政学である。近代日本の経済の拡大には上昇と下落がサイクルとして繰り返されており、これには地政学が大きく影響していると考えられる。

近代日本は黒船から始まっている。黒船とは何かといえば、正しく地政学である。明治から大正にかけての日本の繁栄は日英同盟が影響している。この日英同盟のお陰で日本は日露戦争に勝利し、アジアにおいて唯一の帝国主義国として名を連ねた。しかし、イギリスとアメリカを敵として戦争をし、一旦は破綻した。

戦後の日本の繁栄期の1950年から90年、これは冷戦によって始まり、冷戦によって終わったと言える。アジアにおける自由主義の砦としての日本の立場により、さまざまな形でアメリカは日本を支援してくれた。90年に冷戦が終わるとこの支援も終わった。もはや、日米同盟は必要ない。米軍は日本を守るためではなく、暴発しそうな日本を抑えるために日本に駐留し続けた。この下ではとてつもないジャパンバッシング、貿易摩擦、そして超円高が進行した。その結果としてさまざまな産業上の痕跡が残された。

その好例が半導体である。1980年代、日本の世界市場におけるシェアは20%、1990年代は5割に達し、日本は世界最大のハイテク産業国になった。石原慎太郎氏は著書「『NO』ノーと言える日本」の中で、日本の半導体技術がなければ、アメリカの軍備装備はままならないとも主張した。これは今から振り返るといかにも傲慢な見解であったが、その後の日米貿易摩擦によって見事に叩かれ、今の日本の半導体シェアは1割となっている。長期にわたって地政学的なアメリカの圧力を受けて、日本のエレクトニクス産業が困難に陥って全てプレゼンスを失ったのであるが、これこそが地政学の帰結なのである。

今は新たな地政学環境に入っている。それは米中対決である。中国の台頭に対して、日米同盟がさらに大事になってきている。アメリカだけでなく、イギリスも中国を念頭に置き、日本と地位協定を結ぶという話が出てきた。冷戦終結以降、地政学的に日本は大きく叩かれてきたが、これから日本が有利になる時代がきている。世界最強の米国の最も重要な同盟国という日本の立場は、国際分業や為替など多くのチャンネルを経由して、日本経済に有利に働くと予想される。

●ビジネス崩壊の灰から蘇った日本企業

日本の飛躍期入りを支える第二の要素は企業の収益力である。企業利益の過去のピークは1990年であり、それは戦後日本の繁栄の絶頂期であった。この繁栄は一旦終わった。それは1990年時点における日本のビジネスモデルが完全に破綻したのであった。価値を作り出す仕組みが壊れたのである。

1990年までに収益が伸びた原因を端的に指摘すれば、それは第一にバブル、第二にアメリカといってよい。当時のリーディングインダストリーである電機、自動車、精密、機械は全て輸出用の製造業であり、これらの多くはアメリカの技術を導入、コピーして作られたものであり、またその利益の過半はアメリカへの輸出によって稼ぎ出されていた。特に半導体、自動車の利益は圧倒的にアメリカからであった。有利な為替の下で、人件費が低い日本のこれらの輸出品の競争力がとても強かったのである。品質が良い上に価格競争力が強く、シェアが大きく高まった。

しかし、バブルが弾け、アメリカが日本叩きをし、円高になり、そして日本の競争力は失われた。さらにアジア、中国企業は日本のビジネスモデル、つまり導入技術と価格競争力をもっと巧みに模倣し、日本のシェアを奪っていった。コピー技術、安い労働力でシェアを奪うという、かつて日本がアメリカに打ち勝ったビジネスモデルをもっと大きなスケールで行ったので日本は負けた。これらが1990年以降の10年間の日本の企業収益の劇的な凋落の背景にあったと言える。

しかし、その企業収益が今、史上最高である。直近の企業収益、営業利益対GDP比率は11.9%で過去最高となっている。ほかのどのような指標で見ても、現在の日本の企業収益の向上は劇的である。名目GDPはここ20年ほぼ500兆円で横ばいであるにも関わらず、企業収益が顕著な増加を見せている。なぜ、このようなことが起きるのか。

●オンリーワンに特化した日本、中国爆投資に勝つ戦略

その背景をエレクトロニクスのビジネス領域を例にとって考えてみる。いうまでもなくエレクトロニクスで一番儲かる分野は液晶、パソコン、スマホ、半導体、テレビというデジタルの中枢分野である。かつてこの分野を支配していた日本企業のプレゼンスは、今は皆無である。世界のエレクトロニクスのメガマーケットにおいて日本は完全に負けたというのが世間の常識である。

では、日本の企業は一体どこで生き延び収益を上げているのか。それは周辺と基盤の分野である。デジタルが機能するには半導体だけでなく、半導体が処理する情報の入力部分のセンサー、そこで下された結論をアクションに起こす部分のアクチュエーター(モーター)などのインターフェースが必要になる。つまり、日本は一番市場が大きいエレクトロニクス本体、中枢では負けたものの、周辺で見事に生き延びている。大量に資金が投入される中枢の分野は競争が極めて激しい。中国はこの分野の支配権を得るために膨大な投資をする。そして、いずれ大変な価格競争の時代になるだろう。

しかし、この中枢分野は日本は既に敗退した分野であるため影響はない。日本企業は競争のない周辺分野で生き残っている。価格競争がないので有利な値段で売れる。今後の国際競争においては、希少性があるかどうかが重要になってくるが、日本の担う分野は希少性という点で有利であることが明白である。いうまでもなく日本には、国内市場向けに半導体、液晶、テレビ、パソコン、スマホなど中枢の技術も残っている。この中枢および、周辺と基盤の3つの技術分野を揃えているのは日本だけである。これからIoTの時代になると、これらがないとモノが作れないということである。

周辺の部分は単純にモジュールを組み合わせればできるというものではなく、すり合わせによる工夫が必要な分野、また大量生産ではなく多品種小ロット生産、技術がブラックボックスで模倣できないなどの特性がある。研究室で人々が一生懸命チームを作って研究をしていくという地道な努力が必要なものである。

一方で中枢の部分は、技術をコピーし、あるキットを買ってくれば簡単にモノが作れる。時間と金はかかるが、やる気になればできるのがこの中枢の部分であり、まさに今中国が行おうとしていることである。かつてサムスンが日本のシェアを奪ったように、中国が中枢分野のプレゼンスを奪おうとしている。しかし、日本が担っている周辺・基盤部分という領域には入れないであろう。

これから増えていく電子機器はスマホ、パソコンではなく、IoT関連の機器である。桁違いの数量が必要だが、これらはスマホやパソコンのように全部同じ作りとは違い、一つ一つものが異なる、量産効果は出にくいものになる。中国がいくら爆投資してシェアを奪おうとしても、全ての要素技術を駆使して競争力を得ることは不可能とみる。中国は今ハイテクブームの中心にいる。中国製造2025プランで大投資をしている。この恩恵を日本のエレクトロニクスメーカー、機械メーカー、化学メーカーが受けている。短期的には極めて大きな追い風である。そして、長期的には日本企業は中国の爆投資の弊害を受けにくいポジションに立っているといえる。

ポイントは価格競争から完全に外れ、技術品質に特化、オンリーワンに特化、オンリーワンであるが故に価格支配力がある、円高でも抵抗力がある、これがこの間の日本の企業収益を支えていると考えている。日本企業は技術品質で優位性を持つオンリーワン分野に特化していると述べたが、それはエレクトロニクス以外でも、観光などサービス業においても当てはまることである。

以上、地政学の状況、企業の稼ぐ力などの好条件が重なり、日本の経済と市場に大きなチャンスがきている。株式の超割安なバリュエーションを考えれば、日本株式市場は大きな追い風を受けつつあるといえる。

※・「武者陵司×南川明 2018年を読む!(Q&Aセッション 前編)」に続く

「武者陵司×南川明 2018年を読む!(武者氏講演 前編)」はこちら

・「武者陵司×南川明 2018年を読む!(南川氏講演)」

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・「武者陵司×南川明 2018年を読む!(Q&Aセッション」

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(2018年1月11日記 武者リサーチ「投資ストラテジーの焦点 303号」を編集・転載)

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