山岡和雅【夏までに狙いの通貨ペアは? 素直な“ドル買い円売り”に分】 <GW特集>
―米ドル上昇は当面続く、NY原油上昇でカナダドルも強い―
早いもので、2018年ももう三分の一が過ぎました。ここからの8カ月と言いたいところですが、今年後半は米中間選挙などの大きな材料が控えており、状況が変わる可能性が高いこともあり、ここから夏までに絞って、狙い目の通貨ペアを見ていきたいと思います。
【これまでの相場展開】
今後を見るにあたって、まずは今年これまでの状況を整理してみましょう。
2018年の ドル円は、年初の113円近辺から、保護主義的な姿勢を強めた米トランプ政権の動向もあって、3月には一時104円台までドル安円高が進行しました。その後急速に値を戻し、109円台を回復してゴールデンウィークを迎えています。
もっとも最初のドル安円高進行は、1月中と2月以降で少し違いがあります。
1月中のドル安円高は、ドル安が主導したものでした。ユーロドルが1.20近辺から(もっと前から見ると11月上旬の1.15台から)、1月中に1.25超えまで上昇。ドルインデックスが2014年以来の88台を付けるなど、ドル安が進行する展開でした。欧州・日本などの出口戦略への期待感が広がったことや、ムニューシン財務長官などからのドル安誘導への思惑などがドル売りを誘った格好です。
1月に108円台を付けたドル円は、2月初めにいったんの110円台回復を経て再び値を落とし、3月には直近の最安値となる104円台後半までドル安円高が進行しました。もっとも、この間の動きをドルインデックスでみると、ドル安圏でのもみ合いが続いているものの、新規のドル安進行は目立っていません。こちらは円高が主導してのドル円の下げとなりました。
この時期に目立ったのが鉄鋼・アルミニウムへの関税賦課をはじめとするトランプ政権の保護主義的な動きと、それを受けての世界的な貿易戦争への警戒感。北朝鮮やシリアなどに対する有事リスクへの警戒感などで、リスク回避通貨である円を買う動きが世界的に広がった格好です。
3月後半に安値を付けてからは一転してドル高円安が進んでいます。こちらも当初は行き過ぎた円高進行に対する調整が主体で、ドルインデックスの上昇は見られませんでしたが、4月の後半以降はドル高の動きが一気に強まっており、ドル主導の展開となっています。
【なぜこうした分析が必要なのか】
円主導でもドル主導でもどちらでもいいと感じられるかもしれません。
しかし、こうした動きの背景を意識することは、今後の狙い目の通貨ペアを考えるにあたって、重要なポイントとなります。
ドル円が上昇した際に、円主導であれば、 ユーロ円、 豪ドル円など、ドル以外の外貨に対しても円安が進行している可能性が高く、その際にドル以上に買い材料がある通貨があれば、ドル円以上の値動きが期待されるところとなります。
一方、ドル主導でのドル円の上昇であれば、ユーロドルなどではユーロ売りドル買いが進行します。そのため、ユーロ円でみた場合、ユーロ売りと円売りが相殺されて、ドル円のようにきれいな上昇を見せず、不安定な動きとなったり、円安が優勢になったとしても限定的なものにとどまるという可能性が高くなります。こうした状況では、ドル円以外の外貨対円(クロス円といいます)は避けた方がいいという判断ができます。
【今後はどちらの動きが主体となるか】
そうした状況を踏まえて、これから夏まではどちらの動きが主体となりそうかを考えてみましょう。
円が主導となりやすい状況は、世界的にリスク要因が相場を動かしているケースが多いです。有事リスクもそうですし、3月頃のような通商問題の過熱もそう。世界経済に不透明感が広がった時に、比較的安全と見られる円が買われる。その状況が落ち着いた時に、反動として円が売られるといった状況です。
では、今の状況はどうでしょうか。
シリアへの空爆がいったん実施され、シリア問題は一服感が広がっています。北朝鮮問題に関しても、南北首脳会談が行われ、今後、米朝首脳会談が早期に実現見込みとなる中で、雪解けムードが広がっています。有事リスクという意味ではかなり後退した状況。また、後退してからそれなりに時間が経っており、反動としての動きもすでに一服している状況です。
通商問題に関しては、これからが本番となる可能性があります。ただ、米中の通商問題はここにきて盛り上がりを見せていません。今年の全国人民代表大会を経て新体制下で支持基盤を強化した習近平国家主席にしても、今年の中間選挙をにらんで、国民へのアピールはもちろん、好景気の維持が重要になってくるトランプ大統領にしても、本気での貿易戦争の下で、景気鈍化を巻き起こすような事態は避けてくるとの見通しが一般的です。
もちろん、有事リスクでいうとイランの核合意問題、通商問題でいうと今後の米中交渉など、火種は十分に残っています。しかし、市場の関心はとりあえず有事を含めた政治リスクから経済状況へと回帰したように見えます。
こうなると、相場はドル主導での展開が優勢となります。
【各通貨の状況】
こうした状況を踏まえ、主要な通貨の状況を確認してみましょう。
まずはユーロ。9月まで現行の量的緩和政策の継続が決まっており、その後の出口戦略への期待感が広がっています。しかし、ここにきて物価の上昇などが以前の予想ほど強まってこず、経済成長もいまいちということで、出口戦略への期待感が強まってきません。もともと、月の理事会辺りで出口戦略への言及を行うと期待されていましたが、ここにきて、先送りされるのではとの見通しが広がってきています。
続いてポンド。物価の上昇が著しく、経済成長も好調で、一時は金利市場動向から計算された5月の利上げ期待が90%を超えるなど、早期の追加利上げが確実視されていました。しかし、ここにきて物価が予想以上に鈍化、先日発表された第1四半期の経済成長が期待外れに終わるなど、ここにきて状況がかなり厳しいものとなっており、5月の利上げ期待は18%程度と、逆に据え置きを織り込む動きとなっています。
豪ドルと NZドル。高金利通貨ということで、日本でも人気の通貨ですが、米ドルの金利が上昇する中で、金利差が逆転しました(NZドルは短期では米ドルと並んでいますが、長期はすでに逆転済み、豪ドルは短期も長期も米ドルの方が高金利です)。しかも、米国が今年これからも追加利上げを行うことが確実視される中で、両通貨とも当面の金利据え置きが確実視されており、今後はどんどん金利差が広がると見られています。高金利通貨狙いでの資金流入という両通貨にとっての大きな買い材料となる立場が、米ドルに奪われた格好となっており、先行きの通貨安見通しが広がっています。
カナダドル。NY原油が上昇傾向を見せています。サウジアラビアが国営企業アラムコの新規株式公開を控え、原油高を追求する動きを見せており、もう一段の原油高も期待されます。こうなると先進国で唯一原油の純輸出国(輸出>輸入)であるカナダへも好影響が期待されます。カナダの原油はいわゆるオイルサンドが中心で、採掘費用がかなり掛かりますが、原油高が進めば採算のとれる油田が増え、新規投資の動きも強まりそうです。
新興国通貨。米金利上昇の影響をまともに受けて、資金流出が先進国通貨以上に目立っています。FXでの取引は基本的にできませんが、アルゼンチンペソなどは、4月24日の中銀会合で金利据え置きを決めたところ、ペソの流出が止まらなくなり、わずか3日後の4月27日に緊急会合で3.0%の利上げを決定し、政策金利が30.25%となるなど、大混乱を見せています。FXで一般的に取引される南アランドやトルコリラなどの新興国通貨はここまでの混乱には陥っていませんが、不安定な展開となっています。
ということで、カナダを除いて、売りからはともかく、買いからは不安要素がかなり並んでいる状況です
【狙い目の通貨ペア】
対円で外貨買いを狙う場合、素直にドル買い円売りが一番よさそうです。
ドル高の背景となる米長期金利の上昇については、節目となる10年債で3.0%をつけた後、いったん落ち着いた格好ですが、米国の大幅減税を受けての財政赤字懸念、有事リスク後退による安全資産である米国債からの資金離れなどを考えると、上昇傾向はまだ続きそう。
狙い目と銘打った割に普通の結論となり、申し訳ないところもありますが、夏までは、素直にドル円の上を期待。
次点で原油の一段高に期待でカナダドル買い円売りです。
売り買い柔軟に、円にもこだわらずという条件ならば、豪ドル売り米ドル買い。
金利差逆転の影響が今後も響いてくると見られます。最大の輸出品である鉄鉱石価格の下落はひと段落も戻りが鈍く、厳しい状況。大きな流れでいうと、2017年9月と2018年1月でダブルトップを付けた形になっており、0.70に向けた大きな下げが始まる可能性があります。
(2018年5月2日 記)
株探ニュース