コラム【アナリスト夜話】:AI音声の発達と『孤独という伝染病』への処方箋(マネックス証券チーフ・アナリスト大槻奈那)

経済
2018年7月4日 10時11分

今月、グーグルの新たなAI機能「Duplex」が、人間に代わってレストラン予約などを行う実地試験を開始します。5月のデモでは、AIの音声が、美容院の店員を相手に、予約の日程調整を見事にこなしました。この店員は、その後半年間、電話口の相手がAIだったと気づきませんでした。YouTubeにアップされている自然な会話の様子は、背筋が寒くなるレベルです。

これはなにげなく快挙です。難関と言われた音声認識の「チューリング・テスト」を事実上パスしているためです。

チューリング・テストとは、「電話等の相手がAIだと気がつかずに人間との会話が成立したら、真のAIである」という基準です。コンピュータの基礎理論を作り、「イミテーションゲーム」という映画の題材にもなったアラン・チューリング博士が1950年に提案したものです。

このチューリング・テストは、2014年に、史上初の合格が出たと話題になりました。が、この時は、AIと気づかなかった審査員は33%にすぎず、かつ審査プロセスに疑義も生じました。ところが、今回のDuplexのAIは、日々顧客対応をしているプロが全く気づかず、デモ会場のギークたちの喝采を浴びたというレベルです。

日本語の世界ではどうでしょうか。公開されている音声を聞く限り、まだ若干違和感がある印象です。しかし、現在、金融機関で進められている様々な試作が実用化されれば、今は薄利とされるリテール分野を稼ぎ頭に押し上げるかもしれません。例えばAI化を進めるシンガポールの最大手行DBSでは、経費率が7年で4割近く改善しています。

更に、音声技術には、もっと広い社会貢献が期待されます。昨年、米国の心理学会が「孤独という病は伝染し、多くの病気を発症させる」と発表し、衝撃を与えました。一方、日本では、2030年までに、都内の単身世帯が45.2%と半数近くにまで上昇します。日本で蔓延が懸念される“孤独病”を、こうした音声技術で少しでも癒すことができれば、社会保障面でも大きな意味を持つことになるでしょう。

2014年に、女性の声のAIアシストに男性が恋をするという「her(世界でひとつだけの彼女)」という映画が公開されました。さすがにそこまでには至らないにしても、AIが人の心にまで影響を与える世界がそこまで来ているのかもしれません。

マネックス証券 チーフ・アナリスト 大槻 奈那

(出所: 7/2配信のマネックス証券「メールマガジン新潮流」より、抜粋)

《HH》

提供:フィスコ

人気ニュースアクセスランキング 直近8時間

特集記事

株探からのお知らせ

過去のお知らせを見る
米国株へ
株探プレミアムとは
PC版を表示
【当サイトで提供する情報について】
当サイト「株探(かぶたん)」で提供する情報は投資勧誘または投資に関する助言をすることを目的としておりません。
投資の決定は、ご自身の判断でなされますようお願いいたします。
当サイトにおけるデータは、東京証券取引所、大阪取引所、名古屋証券取引所、JPX総研、ジャパンネクスト証券、China Investment Information Services、CME Group Inc. 等からの情報の提供を受けております。
日経平均株価の著作権は日本経済新聞社に帰属します。
株探に掲載される株価チャートは、その銘柄の過去の株価推移を確認する用途で掲載しているものであり、その銘柄の将来の価値の動向を示唆あるいは保証するものではなく、また、売買を推奨するものではありません。
決算を扱う記事における「サプライズ決算」とは、決算情報として注目に値するかという観点から、発表された決算のサプライズ度(当該会社の本決算か各四半期であるか、業績予想の修正か配当予想の修正であるか、及びそこで発表された決算結果ならびに当該会社が過去に公表した業績予想・配当予想との比較及び過去の決算との比較を数値化し判定)が高い銘柄であり、また「サプライズ順」はサプライズ度に基づいた順番で決算情報を掲載しているものであり、記事に掲載されている各銘柄の将来の価値の動向を示唆あるいは保証するものではなく、また、売買を推奨するものではありません。
(C) MINKABU THE INFONOID, Inc.