不動産市場が映す株式相場“変調の芽” <東条麻衣子の株式注意情報>

市況
2018年10月3日 20時00分

9月30日に発表された9月の中国財新製造業購買担当者景気指数(PMI)は50.0と2017年5月以来の低水準となった。また、1日朝方に発表された9月の日銀短観経済観測調査では大企業の製造業の業況判断指数(DI)は、相次ぐ災害の影響を背景に3期連続で悪化した。

日中両国の経済に陰りが兆しているにも関わらず、日本市場ではドル高・円安の進行を受けて業績拡大期待が膨らみ、リスクオンの動きとなっている。

しかし、日本と米国の不動産市場に目を移すと、株式市場は楽観に傾きすぎているようにも思える。

■国内不動産市場、混乱の芽が膨らむ?

日本では住宅ローンで変動金利住宅ローンを利用する人の割合が60%を超えてきている。この水準は2008年にサブプライムの不良債権化が原因となり、リーマンショックが起きた際の水準を超えている。

変動型の利用が広がる背景には、短期プライムレートを基準とする変動型の方が、長期金利の固定型よりも金利が低く、住宅購入時にコスト面で有利として好まれることがある。金利の低位安定が続く中、利用者の目は購入後の金利情勢によってはリスクが大きく高まる短期型の特性には向かない。

さて、米国でサブプライム・ローンが問題化した背景には、最初の数年間は金利が抑えられて信用力の低い低所得者層でも気軽に利用しやすかった点がある。不動産価格が値上がりしている間は担保価値が上昇する購入不動産を担保に、たやすく低金利のローンに借り換えることもできたが、不動産価格のピークアウトと金利上昇により歯車が逆回転すると、返済不能となるケースが続出した。不動産バブルの崩壊は住宅金融会社、ヘッジファンド、銀行などの経営を直撃し、株式市場の崩落につながったことは多くの市場関係者にとって依然として生々しい記憶でもあろう。

もちろん、過度の借り入れをテコに投機を極めた挙げ句、“不動産バブル”が崩壊した当時の米国と、現在の日本では状況は異なる。ただ、リスク軽視の姿勢に共通するものがある。いずれ日本が利上げに転じた際には、住宅ローンの返済に窮するケースが相次ぐことも想定されるのではないか。リスクに目をつぶった変動型の利用の広がりは、不動産市場と日本経済に忍び寄る“混乱の芽”を育んでいるのかもしれない。

■米国不動産市場に“変調”の影

米国では金利上昇を背景に、住宅市場に陰りがみえ始めている。9月27日に全米不動産協会が発表した住宅販売ペンディング指数(中古住宅販売保留指数=中古住宅市場販売件数の先行指標とされる)は104.2と2カ月連続で低下した。前年同月比では8カ月連続の前年割れである。

ここからさらに金利上昇が続けば、不動産の購入意欲は一段と衰え、不動産市場のピークアウトが鮮明となる可能性がある。その負の影響は最高値更新が続く株式市場の影で過小評価されがちだが、不動産価格は資産効果を介して個人消費へと与える影響は大きい。米国で個人消費はGDP(国内総生産)の3分の2以上を占めるだけに、不動産市場の動向は注意深く見守っていく必要がある。

こうした日米両国の不動産市場の状況を見る限り、将来に向けて懸念は高まりつつあるとは言えないか。

急スピードで上昇してきた日経平均株価だが、スピード調整の動きはいつ表れてもおかしくはない。だが、それ以上に日米両国で不動産市場の混乱が表面化した場合、“調整”にとどまらぬ株価下落が生じる可能性がある。

それがいつなのか、また株式市場が織り込み始めるタイミングがいつになるのかはまだ不透明である。ただ、足もと11月にはヘッジファンドの決算があり、その後も海外年金などから決算に向けた換金売りが出る可能性がある。このことも念頭に置いて、ここからは高値掴みにならぬよう慎重に進むべきではないか。

◆東条麻衣子

株式注意情報.jpを主宰。相場変調の可能性が出た際、注意すべき情報、懸念材料等を配信。

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