好業績見直しへ、株高の機が熟す「電子書籍関連」<株探トップ特集>
―海賊版サイト閉鎖などの効果絶大で上方修正企業相次ぐ―
3月期決算企業の中間決算発表シーズンが終了した。上期は業績堅調だったものの、通期では慎重な見方をする企業が多い印象で、日本経済新聞の統計によると、10月以降に通期の業績予想を下方修正した企業は、11月18日時点で283社あったのに対し、上方修正した企業は275社にとどまったという。米中貿易摩擦の影響など経済を取り巻く環境に不透明感があるためとされ、同じ業種のなかでも、見方が分かれるケースも少なくなかった。こうしたなか、通期予想を上方修正する企業が相次いだジャンルがある。それは電子書籍関連で、期初に比べて見通しを強める企業が多く見受けられた。
●電子コミックが紙版を上回る
インプレスホールディングス <9479> 傘下で、IT関連メディア事業を展開するインプレスのシンクタンク部門であるインプレス総合研究所によると、2017年度の電子書籍の市場規模(雑誌と書籍の合計)は2556億円となり、前年度比で12%増となった(「電子書籍ビジネス調査報告書2018」)。
一方、出版科学研究所が今年2月に発表した17年の コミック市場規模は、紙版と電子版を合わせて4330億円(前年比3%減)となった。注目されるのは、コミックス(単行本)で、17年は紙版が14%減の1666億円となったのに対して、電子版は同17%増の1711億円となっており、初めて電子版が紙版を上回ったことになる。
両社の統計から分かるのは、「コミック市場全体の規模が縮小するなかで、電子コミック分野は数少ない成長分野になっている」(国内証券)ことだ。前述のインプレスの統計によると、電子書籍市場は18年度以降も緩やかな拡大基調をたどるとみており、22年度には17年度比1.4倍の3500億円程度になると予測している。
●海賊版サイト対策も本格化
好調にみえる電子コミックだが、近年は違法海賊版サイトの影響が小さからぬ影を落としており、市場が3割前後拡大していた15年、16年に比べると伸び率が縮小している。
これに対して、日本政府とインターネットプロバイダーは今年4月以降、海賊版サイトの対策に動き、プロバイダーがアクセスを自主的に遮断(ブロッキング)したことで海賊版サイトを閉鎖に追い込むなど、一定の効果も表れている。政府が打ち出したブロッキングの法制化は、憲法が保障する「通信の秘密」との兼ね合いから有識者会議でも意見がまとまらなかったが、継続して対策が取られる方向であることから、今後も海賊版サイトの封じ込め効果は継続しそうだ。
●パピレス、イーブックなどが今期予想を上方修正
こうした電子書籍市場の拡大や海賊版サイト対策の恩恵を受け、電子書籍関連銘柄に業績予想の上方修正が相次いでいる。
「電子書店パピレス」や電子書籍レンタルサイト「Renta!」を運営するパピレス <3641> [JQ]は10月30日、19年3月期の業績予想について、営業利益を13億1200万円から16億9800万円(前期比33%増)へ上方修正した。広告宣伝強化と効率化、販促プロモーションの効果などの施策に加えて、スマートフォンでの読みやすさを重視した「タテコミ」制作の強化やオリジナル電子コミックレーベルの開始などが寄与し、会員数及び会員の購入金額が順調に増加していることが収益を押し上げる。
電子書籍販売サイト「eBookJapan」を運営するイーブックイニシアティブジャパン <3658> は10月26日、19年3月期の単独業績予想について、営業利益を3億円から4億6000万円(前期比64%増)へ上方修正した。紙書籍の配送費高騰に起因してクロスメディア事業の売り上げが鈍化していることから売上高予想は据え置いたが、出版社と連携したポイントアップキャンペーンなどが寄与する。また、ヤフー <4689> との業務提携に基づく電子書籍提供が堅調に伸長しており、10月1日に行ったウェブサイトの全面リニューアルも奏功する見通しだ。
子会社を通じて「めちゃコミック」を運営するインフォコム <4348> [JQ]は10月29日、19年3月期の連結業績予想について、営業利益を65億円から67億円(前期比15%増)へ上方修正した。独占先行配信の拡充やターゲティング広告の強化などで電子コミック配信サービスが好調に推移しているほか、下期の顧客別キャンペーンの強化や集英社グランドジャンプ編集部とのコラボレーション企画なども寄与する見通しだ。
●メディアドゥHDは高進捗率
「LINEマンガ」など電子書籍の取り次ぎのほか、ケータイ(携帯)コミック配信サイト「コミなび」を運営するメディアドゥホールディングス <3678> は、上方修正こそしていないが、上期営業利益は5億3600万円(前年同期比14%増)で、通期計画に対する進捗率は58%(前年同期51%)と好調だった。同社は例年、期後半に売上高が増える傾向があり、それにつれて営業利益も下期偏重の傾向がある。上期の進捗率としては異例の高さであり、会社側では海賊版サイト閉鎖からの回復の早さを要因に挙げている。
このように、上方修正や足もと好調な銘柄が相次いだ電子書籍関連だが、その一方で、スマホ向け電子コミック配信サービス「まんが王国」を運営するビーグリー <3981> は11月14日、18年12月期の単独業績予想について、営業利益を12億4800万円から5億2500万円(前期比53%減)へ下方修正した。海賊版サイト閉鎖以降、新規会員獲得は回復にあるものの、テレビコマーシャルの効果が限定的であったことやプロモーションの多様化施策の一部が不調であったことが要因としている。これらから分かるように、今後は市場が拡大するなかでのプロモーション施策などの取り組みがより重要視されそうだ。
株探ニュース