滅びに向かうOPECと石油で栄える米国 <コモディティ特集>

特集
2019年3月6日 13時30分

―エネルギー地図の変革は原油価格安定と米経済拡大を示唆―

昨年からトランプ米大統領は 原油高を批判し、石油輸出国機構(OPEC)に対する牽制を続けている。米議会では、石油生産輸出カルテル禁止(NOPEC)法案が審議されており、OPECを目の敵にしているのはトランプ米大統領だけではない。原油価格を操作しているOPECと、自由で公正な市場を基盤としている米国は水と油である。

●OPEC批判の力を手に入れた米国

視点を変えると、OPECにとって米国は重要な顧客であると同時に、商売敵である。米国は世界最大規模の原油生産量を誇るだけでなく、世界最大の石油消費国でもある。また、安全保障の面で米国に依存する産油国は多く、米国がイランやベネズエラの内政に口出しすることもしばしばである。関係性の良し悪しはともかく、つながりは多方面に及んでいる。

シェール革命という言葉は一時の流行でしかなかったが、米国のシェールオイル産業は以前にも増して活発である。米国はいつのまにか世界最大の産油国となっており、原油輸出は増える一方である。シェールオイルの中心地である米テキサス州パーミアンの生産量は、輸送コストが生産のボトルネックとなっているが、今年はパイプラインの新設によって輸送コストが大幅に低下する見通しであり、米国の生産量を一段と押し上げるだろう。生産規模で肩を並べているロシアやサウジアラビアを突き放す日は遠くない。

世界最大の産油国となった結果、米国は中東諸国にようやく口うるさく言えるようになった。手加減しつつ、イランやベネズエラに経済制裁を課し、原油供給を絞っても、原油高が米経済に跳ね返ってこなくなった。何かと口うるさいトランプ米大統領だからOPECに批判的なのではない。これまでOPECは原油価格を操作してきており、批判されるべき存在だった。主要国経済にとって原油は生命線であり、主要な産油国はあまり強く非難されてこなかったが、ようやく咎められるようになったといえる。

●覇権国の原油輸出拡大で存在意義失うOPEC

米国の生産量が拡大すればするほど、OPECの原油価格に対する影響力は削がれていく。OPECが減産し価格を下支えしている間に米国は販路を広げ、新たなシェアを獲得する。米国はOPECを中心とした協調減産に批判的だが、シェアを拡大するという恩恵に預かっている。OPECに文句を言いつつも、トランプ米大統領の表情はにこやかに違いない。

来年の米大統領選でトランプ米大統領が二期目を勝ち取るなら、OPECは一段と逆風にさらされるだろう。昨年末から減速しつつあるが、今後も米経済が順調で、二期目に向けてトランプ米大統領に追い風が吹くと、OPEC批判が続き原油価格は抑制される可能性がかなり高い。米国の石油需要の拡大・縮小を見通すためだけに米経済指標を眺めてはならない。トランプ米大統領とOPECの対立は、原油価格を見通すうえでの長期的な指針である。

政治・経済的に安定しており、覇権国である米国が原油輸出量を拡大することは、原油価格のボラティリティが減少することを意味する。一方で、OPEC加盟国には原油頼みの国がほとんどであり、相場を下支えしないわけにはいかない。世界的なエネルギー地図の変化は、米国が有利な立場を広げていくことを示唆しており、シェアを献上するだけのOPECは存在意義を失っていくだろう。原油価格が安定することは、米経済の超長期的な安定も示唆する。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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