植草一秀の「金融変動水先案内」 ― 株価変動の転換点を探る
第6回 株価変動の転換点を探る
植草一秀(スリーネーションズリサーチ株式会社 代表取締役)
●「遅きに失しぬタイミング」
金融市場はときに重要な変節点を形成します。その変節点を事前に想定できるのが最良ですが、金融投資との関連では、必ずしも事前に予知することが必要不可欠ということではありません。流動性の高い資産であれば、方向転換を感知した時点、可能性を察した時点で行動しても手遅れにはなりません。
「流動性」とは換金するまでの時間や価格的なロスを測る尺度です。株式投資の場合、出来高が多く、売り買いの「板」に大量の注文が並んでいる銘柄であれば、いつでも、その時点の株価で自分の保有している株式を換金することが可能です。ところが、出来高が乏しく、売り買いの注文が稀少な銘柄ですと、売却しようとすると、その売却注文によって価格を大きく下落させてしまうことがあります。
したがって、金融情勢に応じて積極的に売買を行う場合には、流動性の高い銘柄を保有することが大切になります。この条件を確保しておけば、相場の流れが変化した瞬間に持ち高を一気にゼロにすることも可能になります。相場が急変する場合でも、大暴落の直前に持ち株をすべて売却してしまえば、大損失を回避できることになります。
投資パフォーマンスに資する金融変動予測とは、「遅きに失しぬタイミングで」重要な変動見通しを提示するものです。事前に予告できなくても、大変動の前に情報を提示できれば十分に有益な情報になるのです。
●パウエル発言と日朝首脳会談
金融市場変動を観察すると、変動の転換点、屈折点に重要事実が位置することが多く見られます。金融変動には「因果関係」が存在する場合が圧倒的に多いのですが、重要な因果関係を的確に予知、または洞察することが重要になります。昨年の金融市場変動では、1月末の相場転換、6月末の相場転換、10月初の相場転換が重要でした。
事後的に見れば説明は容易ですが、投資パフォーマンスを引き上げるうえでは、事後的な説明はあまり意味を持ちません。過去の事後的な解釈事例を総合して未来に適用して初めて意味を持つことになるのです。
昨年の場合、1月末の相場転換は株価上昇の速度違反とFRB議長交代が背景でした。6月末の相場転換は米国のNEC(国家経済会議)クドロー議長発言が背景でした。10月初の転換は中国株価が預金準備率引き下げにもかかわらず急落したことが背景だったのです。
私が執筆している会員制レポートでは、こうした相場転換点を的確に予測、洞察することを最重視していますが、極めて高い精度で予測を的中させてきています。金融変動の重要な転換点、変節点を抽出することこそ投資パフォーマンス向上にとって最重要であることを改めて銘記してください。
本年に入ってからの重要な出来事が二つあります。1月4日のパウエルFRB議長発言と2月28日の米朝首脳会談物別れです。パウエル議長は12月FOMCが示した利上げ推進の方針を一転させました。これを契機にグローバルな株価急騰が生じました。二つ目の重要イベントは米朝首脳会談の不調で、ここから相場の先行き不透明感が拡大しています。
●トランプリスクの重要性
米朝首脳会談物別れの金融市場への影響を洞察することは容易でありません。しかし、この問題は、トランプ大統領に関わるすべての問題に影響を与える重要なものです。そのすべてが現在進行形で変化しつつあり、その帰着が今後の金融市場変動に大きな影響を与えることになると考えられます。
米朝首脳会談を契機に、1月4日以降の株価上昇基調に変化が生じていることを正確に観察することが重要です。 日経平均株価も反落傾向を強めています。これは単に北朝鮮問題の解決が遠のいたから生じたということではなく、トランプ大統領の今後の政策運営、命運とも関わる重要な事項なのだと考えます。
米朝首脳会談と同時刻に、米国では大統領元顧問弁護士のマイケル・コーエン氏の議会公聴会が実施されました。トランプ大統領はこれに激怒しましたが、下院で過半数を確保した民主党はトランプ大統領の不正疑惑追及を本格化させる動きを強めています。
このために、トランプ大統領は対北朝鮮、対中国、そして対日本での外交交渉で高い成果を示す必要性に迫られています。このことは、各交渉の妥結可能性を低下させてしまう効果を持ちます。今回の米朝首脳会談も、この事情がなければ何らかの合意を形成した可能性が高かったでしょう。逆にこの事情があるために、今後のトランプ外交の着地点が見えにくくなり始めています。
●3月末にかけて重要日程目白押し
本稿執筆は3月8日で、日本時間の今夜、2月米雇用統計が発表されます。パウエル議長が利上げ政策を一時中断する方向感を示したことで NYダウは2万6000ドル台を回復し、史上最高値も視野に入れ始めました。しかし、株価が復調すれば経済活動も刺激を受けます。経済活動拡大は、元に戻ってFRBの金融引き締め政策につながりやすいのです。
「禍福はあざなえる縄のごとし」と言いますが、利上げ見送りで株価が上昇すると、見送ったはずの利上げがまた接近してくるという因果の巡り合わせに注意が必要です。どのような雇用統計数値が発表になるかは蓋を開けてみなければ分かりませんが、3月18-19日にはFOMCがあり、FRBの金利見通しが示されますので、今後のFRB政策問題からも目が離せません。
他方で、昨年来の株価下落主因の一角を形成してきた米中貿易戦争が論議の最終局面を迎えています。3月27日にフロリダのトランプ大統領別荘マール・ア・ラーゴで米中首脳会談が開催される見通しです。年初来、交渉決着への期待が高まってきましたが、技術移転や構造改革問題で両国の隔たりがあることも指摘されています。金融市場は憶測をめぐらせますが、一本調子の着地にはならない可能性がある点に留意するべきです。
また、英国のEU離脱予定期限が目前に迫るなかで、英国議会はまだ最終スタンスを決することができていません。離脱延期、合意による離脱、合意なき離脱のいずれの可能性も残るという混乱の極みにあります。日本では景気指標の悪化が大きく取り上げられていますが、消費税増税再々延期の地ならしとの見方があります。
上海株価指数の急反発が金融市場の潮流転換の端緒となる可能性は重視するべきですが、3月は重要問題山積で神経質な展開持続となる可能性が高そうです。
(2019年3月8日 記/次回は3月23日配信予定)
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