為替週間見通し:ドルは上げ渋りか、米追加利上げ観測は一段と後退
【先週の概況】
■欧米金利見通しの引き下げて円買い強まる
先週のドル・円は弱含み。2月の米ISM非製造業景況指数や12月の米新築住宅販売件数が市場予想を上回ったことを意識してドル買い・円売りが先行した。しかしながら、経済協力開発機構(OECD)が6日に世界経済の成長見通しの引き下げを発表したことや、12月の米貿易収支が予想を上回る大幅な赤字となったことからリスク回避的なドル売り・円買いが優勢となった。欧州中央銀行(ECB)は7日に開いた理事会で利上げ開始時期を来年以降にすることや、2019年と2020年のユーロ圏の成長・インフレの見通しを引き下げることを決定したことも円買い材料となった。
8日のニューヨーク外為市場でドル・円は一時、110円79銭まで下落した。2月の米雇用統計で非農業部門雇用者数は前月比+2万人にとどまり、市場予想を大幅に下回ったことを嫌ってドル売りが優勢となった。しかしながら、平均時給の上昇率は市場予想を上回ったことや米中貿易協議での合意期待が改めて広がったことから、リスク回避的なドル売りは一服。ドル・円は111円台前半まで反発し、111円16銭でこの週の取引を終えた。ドル・円の取引レンジ:110円79銭-112円14銭。
【今週の見通し】
■ドルは上げ渋りか、米追加利上げ観測は一段と後退
今週のドル・円は上げ渋りか。欧州中央銀行(ECB)や英中央銀行は金利引き上げに慎重であり、いずれもハト派寄りの姿勢であることから、ドル選好地合いとなりそうだ。ただし、2月米雇用統計で非農業部門雇用者数は市場予想を大幅に下回っており、米国の雇用拡大に対する懐疑的な見方が浮上している。今週発表される米経済指標が低調だった場合、早期追加利上げ観測はさらに後退し、リスク選好的なドル買いは抑制されるとみられる。
経済開発協力機構(OECD)は世界経済見通しを下方修正したが、特にユーロ圏の減速に懸念を示した。ECBは7日の理事会で、今年後半を目標としてきた利上げ時期を来年以降に延期する方針を示すなど、従来よりもハト派姿勢を強めている。
また、OECDは英国経済に関しても成長の鈍化を予想している。英中央銀行からは、欧州連合(EU)からの英国の離脱(ブレグジット)が実現するまでは現行の金融政策を維持するべきとの意見が目立つ。このため、対米ドルでユーロやポンドは買いづらく、ドル選好の状態となりそうだ。これまで金融正常化を進めてきたカナダ中央銀行の政策金利見通しが不透明となったほか、豪準備銀行も景気の腰折れ懸念から利下げへの思惑が広がっていることも、ドル買いを支援しよう。
ただし、足元の米経済指標は製造業を中心に低調な内容が示されており、米金融当局者からは目先の引き締めに否定的な見解が聞かれる。目先も消費者物価指数などインフレ率が鈍化すれば、利上げ期待のドル買いは大きく後退する見通し。
一方、貿易・通商分野における米中協議で合意形成への期待は持続するものの、交渉は長期化が見込まれており、リスク選好的な円売りは縮小しつつある。米貿易赤字がすみやかに縮小する見込みは乏しく、トランプ政権は貿易赤字の大幅な削減に向け今後の貿易黒字国に攻勢をかけるとの見方もある。今後の交渉相手となる日本に対して、為替条項などで円安政策を封じるとの思惑も浮上しており、リスク回避的なドル売り・円買いが増える可能性がある。
【米・2月消費者物価指数(CPI)】(12日発表予定)
12日発表予定の2月消費者物価指数(CPI)は前年比+1.6%、コア指数は同+2.2%と予想されている。コア指数の上昇率が市場予想を下回り、追加利上げ観測が一段と後退すればドル売りを誘発しよう。
【米・3月NY連銀製造業景気指数】(15日発表予定)
15日発表予定の米3月NY連銀製造業景気指数は10.00と、前月の8.80から改善が見込まれている。市場予想と一致した場合、3月ISM製造業景況指数は多少改善するとの思惑が広がり、リスク回避的なドル売りは抑制される可能性がある。
予想レンジ:110円00銭-112円50銭
《FA》
提供:フィスコ