需要下振れ懸念で原油安、主要国の雇用は転換期に向かうのか? <コモディティ特集>

特集
2019年6月5日 13時30分

米中貿易摩擦の悪化で、世界的な景気減速懸念が強まっており、指標原油であるウェスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)やブレント原油は2月以来の安値圏まで下落した。景気見通しの不透明感によって、石油需要の下振れ懸念が膨らんでいる。米国とイランの対立による中東情勢懸念は下支え要因だが、軍事衝突の現実味は乏しい。米中貿易摩擦は企業活動を萎縮させ、すでに経済を傷つけており、中東戦争よりも実感がともなっている。

●米中貿易戦争の悪影響がドイツ製造業を直撃

米中の経済的な衝突の悪影響を最も受けているユーロ圏や中国の経済は今後も低迷するだろう。ユーロ圏や中国だけでなく、世界的に製造業の購買部担当景気指数(PMI)は下向きのままである。5月のグローバル製造業PMIは49.8となり、景気判断の分岐点である50を下回った。約6年ぶりの低水準である。

5月のドイツ雇用統計では、失業者数が前月比6万人増と驚きの弱さとなった。ドイツ雇用庁によると、この増加幅の約3分の2は統計を一部再分類したことが原因だが、景気減速の影響もある。米中貿易戦争は中国向けの輸出が大半を占めるドイツ製造業を直撃し、景況感の悪化だけでなく、雇用減少も引き起こし始めた。このパターンは、他の主要国にも当てはまり得る。

ユーロ圏全体では、失業者数が減少し失業率の改善が続いている。ユーロ圏の小売売上高指数は上向きで、消費が拡大している限り、過剰な景気懸念は不要だが、中核国であるドイツの雇用が弱含む兆候があるなかで消費は安定的ではなく、安穏としてはいられない。世界経済の雲行きは一段と怪しくなっている。

●米雇用は堅調も、景況感の悪化は明らか

米ISM製造業景気指数は景気判断の分岐点である50を上回っているが、昨年後半からトレンドは下向きである。製造業マインドの悪化に圧迫され、サービス業も弱含みつつある。マークイット発表が発表する米国の製造業・サービス業PMIも下向きであり、景況感の悪化は明らかである。

米国では昨年半ば頃から消費の伸びが鈍っている。設備投資の動向を示す耐久財受注は足踏みを続けており、足元のトレンドを悲観的に見るなら、弱含んでいるとの判断も間違っていない。家計や企業が支出に慎重になっていることは明らかであると思われる。ミシガン大学やカンファレンスボードが発表する消費者信頼感指数が堅調さを維持している限り消費は上向きだろうが、消費者心理は雇用次第である。

米新規失業保険申請件数は低水準を維持しているほか、米国の求人件数は統計開始以来の最高水準で、米国の雇用は相変わらず強い。米中貿易摩擦が悪化しているなかでも変調の兆しはみられない。賃金の上昇率は十分ではないが、穏やかに加速する傾向にある。ただ、繰り返しとなるが、消費者は支出にやや慎重になっている。企業収益が圧迫されると、雇用の向かい風となり、消費が手控えられて負の循環が発生する。

●雇用の悪化も時間の問題か

米経済にドイツのような弱さはまだ見られない。今週末の米雇用統計にネガティブ・サプライズは伴わないだろう。ただ、企業景況感の弱含みが回復に向かうとは想像できない。さらに悪化する可能性が高い。遅かれ早かれ米国の雇用環境にも悪影響が現れそうだ。堅調な雇用が崩れると、原油相場は一段と重くなるだろう。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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