深まる米イラン対立、原油市場は日常と非日常の狭間に <コモディティ特集>

特集
2019年5月22日 13時30分

米国とイランの対立を背景とした中東の緊迫感が高まっている。トランプ米大統領はイランとの戦争を望まないとしつつも、「イランが戦いを望むなら、イランの正式な終わりになるだろう」と述べた。イランのロウハニ大統領は米国との協議や外交的解決が好ましいとの認識を示しつつも、選択肢は抵抗のみとの認識を示している。

●武力衝突の可能性と非現実感

中東で衝突が発生した場合、イランだけでなく、イラクやクウェート、サウジ、アラブ首長国連邦(UAE)など周辺国の石油関連施設や船舶への被害を警戒しなければならない。石油輸出の要所であるホルムズ海峡の安全な航行は脅かされる。世界の消費量の約20%がホルムズ海峡を通過しており、日量2000万バレル近くが滞ると、前例のないオイルショックが訪れるだろう。始まってみなければわからないが、ロシアや中国はおそらくイランを支援するのではないか。

軍事大国が中東で武力衝突を開始するというシナリオは悪夢でしかない。想像の域を越えており、現実感は全く伴わない。本当に戦争を望んでいる国はなく、トランプ米大統領本人も戦闘開始には消極的であると期待する。衝突が米国の国益につながるとは思えない。ただ、トランプ米政権はイランを確実に追い詰めている。

●米国の理解不能な態度で深まる溝

米国はイランの主要な輸出品である石油を禁輸とし、原油市場から締め出そうとしている。米国はイランに弾道ミサイルや核開発の中止、イエメンやシリアなど紛争地域への介入停止を要求し、対話開始を促しているが、イランが応じる可能性はほぼない。軍事的・経済的に甚大な格差のある両国が話し合ったところで、公平な話し合いとなるはずがない。

しかも米国はイランを経済的に殴打し続けており、強力な経済制裁を課したまま話し合いを始めようとする米国の態度は理解不能であり、恐怖である。戦闘開始の狼煙となるイランの攻撃を待っているようにしか見えない。イランや親イランの武装勢力が、米国やその同盟国に仕掛けると、後戻りはできないのではないか。

今月8日、イランのロウハニ大統領は、核開発を制限する合意に基づく義務の履行を一部停止すると発表した。制限以上に濃縮ウランを貯蔵するほか、合意を維持している英独仏中露などが米国の制裁からイランの石油・銀行セクターを守るという約束を60日以内に履行しなければ、濃度制限なくウラン濃縮を再開すると表明している。濃縮ウランは核兵器の原料であり、米国の同盟国であるイスラエルにとっては脅威である。

●戦争リスクを過小評価する原油市場

原油市場を取り巻く緊迫感の強さは、2003年のイラク戦争以来である。これだけの脅威が目前にあるにも関わらず、ブレント原油やウェスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)の上げが控えめなのは現実感のなさが理由である。不穏な報道をいくら目にしても戦争が始まるという実感は伴わない。イランが中国やロシアの支援を受けつつ、米国を中心とした連合国と大規模な戦闘が始まるとは誰も想像できない。市場参加者にとって、戦争は非合理的であり、非現実的である。どれだけ緊迫化しようとも、米中貿易摩擦など目前にある現実が優先され、原油価格の上昇を抑制する。

イラン戦争のリスクが現実となることなく、リスクのままであるに越したことはない。ただ、原油相場で戦争リスクは過小評価されており、本当に始まった場合は反動が伴うだろう。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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