原油相場、イラン核懸念で暗雲漂う中東情勢 <コモディティ特集>

特集
2019年5月8日 13時30分

4月後半から原油相場は調整安となっているが、手掛かり材料が入り乱れている。トランプ米大統領が石油輸出国機構(OPEC)に対して繰り返し増産を要求していることや、年後半のOPECプラスの生産水準が不透明であること、南米ベネズエラで野党勢力が軍部に蜂起を促したこと、米中通商協議の先行き不透明感と世界的な景気減速懸念、イランが核開発プログラムを一部再開すると伝えられていることなど、多岐に渡る。ただ、値動きに最も響くのはイランに関連した手掛かりだと思われる。

○イランの供給がなくとも需給バランスは安定

トランプ米大統領がサウジアラビアやロシアなど主要な産油国に増産を要求するのは、米国のイラン制裁が背景にある。5月1日でイラン石油制裁の免除期間は終了しており、今後イランから原油を購入すると米国の制裁対象となる。

OPECプラスの生産水準が不透明であるのは、中国やトルコ、インドなど、イラン産原油の需要国が本当にイラン産原油の輸入を完全に停止するのか見定める必要があるためである。

米国の制裁によって、イランの原油輸出量は日量100万バレルを下回っている。米国が増産を続け、OPECプラスが年前半で日量120万バレルの協調減産を停止し供給量を回復させるなら、イランの供給がなくなろうとも世界的な需給バランスが供給不足へ傾く可能性は低い。需給見通しのなかにイランはすでに存在しない。

○中東は核開発懸念の渦に

今週、米国が2015年にまとまったイラン核合意から脱退し1年が経過する。これを節目にイラン政府は核開発プログラムの一部を再開し、濃縮ウランの増産などに踏み切るようだ。ロウハニ大統領が8日にも正式表明するとみられている。米国の制裁を受けて疲弊してきたイランは反撃の狼煙を上げることになる。

イランがどのように米国に抗っていくのか。イラン最高指導者のハメネイ師やロウハニ大統領の発表を待たなければならないが、最近の報道を見る限り、中東は核開発懸念の渦に巻き込まれていく可能性が高い。イランが核開発に傾斜すると、イランと中東の盟主を争うサウジアラビアも核開発を強化するだろう。

○相場の主役は需給から地政学リスクへ

米国は空母エイブラハム・リンカーンを中心とした空母打撃群と爆撃部隊を中東に展開する。この動きについて、ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は、「米国や同盟国の国益に何らかの攻撃があれば、容赦ない軍事行動で応じるという、イラン政権への明確かつ間違えようのないメッセージだ」と述べている。パトリック・シャナハン米国防副長官は、中東への武力展開が承認されたことについて「イラン軍による確かな驚異」の存在を指摘した。

米国は経済的にイランを弱体化させ、イランの生命線である原油収入をゼロにしようとしている。イランの供給が完全に絶たれようとも、供給不足に傾く可能性が低いことはすでに認識されている。イランは核開発を再開する可能性が高い。米国はすでに軍事行動を開始している。この一連の動きが意味するのは何か。不穏な匂いしかしない。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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