新春3大テーマ (3) テクノロジー編 「変身株の宝庫“5G”が創り出す次なる世界」 <株探トップ特集>

特集
2020年1月6日 19時30分

―3月から商用サービス開始へ、膨大な潜在需要がついに表面化―

2020年は次世代通信規格「5G」(第5世代移動通信システム)の導入が世界的に本格化する。既に、米国や韓国では5Gの商用サービスが始まり、19年は「5G元年」ともいわれたが、先行した米韓では期待していたほどの新たなサービスが出ていないとの声も聞かれる。

一方、出遅れ気味であった日本では、政府の税制優遇措置もあり、官民を挙げた動きで先行する米韓や中国に追随する姿勢をみせている。今年3月からいよいよ5Gの商用サービスが始まる。そして東京オリンピック・パラリンピック開催を控えて、首都圏を中心に5Gの環境整備に向けた動きも活発化するとみられる。株式市場でも5G関連銘柄への人気は根強く、引き続き20年相場の牽引役となりそうだ。

●5G回線は25年までに全世界で11億回線

5Gは「高速・大容量」のほか、「超低遅延」や「同時多数接続」が特徴の通信規格。通信速度が最大で10Gbpsと現行の4Gの100倍以上のスピードで、2時間の映画なら約3秒でダウンロードでき、4Kや8Kの高精細映像の送受信もスムーズになる。また、さまざまな方法でリアルタイムに情報を表示できるほか、1平方キロメートル当たり最大で100万台の接続が可能と、4Gとはケタ違いのキャパシティーを持っている。そのため、一般消費者向けに高速・大容量通信サービスを提供するだけではなく、産業向けサービスでイノベーションが起こるとみられている。

総務省の「平成30年版情報通信白書」によると、5G回線は25年までに全世界で11億回線に達し、人口カバー率は34%に及ぶと予測している。また、5GはIoTのインフラとなり、暮らしや産業、医療、災害対応などのあらゆる分野で活用することで、人口減少や高齢化など地方の課題解決が期待されている。具体例として、ドローン自動運転 を活用した買い物支援、データを活用したスマートな農業・建設工事、遠隔診断や手術支援、データを活用した工場の効率的な制御、被害状況の迅速な把握による救助・救援活動、遠隔での授業などへの応用を見込んでいる。

●5G市場の世界需要額は30年に約300倍へ

5Gは既に米国や韓国で19年春から商用化が始まったほか、中国や欧州でも相次いでサービスが始まる。これに後れを取らないよう、政府は一定条件を満たした場合に5G基地局などへの投資額の15%を法人税から税額控除する税制優遇措置を行い、携帯電話会社による基地局整備を補助金で支援する。また、農業や遠隔医療などに5Gを導入する自治体にも実証実験費を拠出する方針。こうしたいわば官民挙げての環境整備により、総務省では5Gの経済効果を約47兆円と試算している。

一方、電子情報技術産業協会(JEITA)が19年12月に発表した5Gの世界需要額見通しによると、5G市場の世界需要額は年平均63.7%増で成長し、30年には168兆3000億円になり、18年に比べ約300倍に拡大すると見込む。品目別には 自動運転車やロボット、ネットワークカメラなどのIoT機器が需要を牽引する一方、ソリューションサービスでは製造、金融、流通・物流などが牽引役になると予測している。

また、特に新たな市場創出の期待を集めているものとして、クローズドな空間で5Gを利用できる「ローカル5G」を挙げており、これまで無線化が進んでいなかった工場や農場、建設現場やイベント会場、病院などで導入が見込まれるとして、30年のローカル5Gの世界需要額を10兆8000億円に達すると予想。日本でも1兆3000億円規模に拡大するとみている。

こうしたことから、既に株式市場で人気を集めている銘柄以外にも、さまざまな分野で5Gに関連するビジネスが花開くとみられる。「5G関連」銘柄の裾野も広がり、息の長い相場となりそうだ。

●通信インフラ関連やアンテナ関連に注目

関連銘柄として注目されるのは、既に株式市場でも人気化している基地局やネットワーク装置など5Gの通信インフラに関連する銘柄だろう。

NTTドコモ <9437> 、KDDI <9433> 及び沖縄セルラー電話 <9436> [JQ]、ソフトバンク <9434> 、楽天 <4755> 傘下の楽天モバイルの4グループは、特定基地局などの設備投資額として合計で約1兆7000億円を予定しているが、既に基地局の設置は本格化している。

NTTドコモは第2四半期決算発表で今後の5Gの基地局展開について、19年9月時点の40ヵ所から、20年6月末までに47都道府県へ展開し、21年6月末には1万局を設置すると発表した。KDDIも昨年9月に5G用基地局の第1号を設置したと発表、21年度末には1万622局を展開するとしている。ソフトバンクや楽天モバイルも基地局の整備を加速するとみられる。

既に5Gに関連した開発用測定需要が発生しているほか、今後は製造用測定需要の本格化が期待できるアンリツ <6754> をはじめ、5Gに対応する無線基地局のパフォーマンステストツールを手掛けるアルチザネットワークス <6778> [東証2]、電気通信工事大手のコムシスホールディングス <1721> 、協和エクシオ <1951> 、ミライト・ホールディングス <1417> や、ネットワーク構築国内最大手のネットワンシステムズ <7518> などは更なるビジネスチャンス拡大が期待できよう。

●スモールセルやマッシブ・マイモに注目

5Gの特徴である大容量・同時多数接続を実現するためには、従来の大型基地局(マクロセル)とは別に、スモールセルと呼ばれる小型基地局により狭い範囲をカバーする必要があるほか、超小型のアンテナ端子が縦・横に多数配置された平面状のアンテナシステムであるMassive MIMO(マッシブ・マイモ)が必要といわれている。関連する銘柄は、前述の銘柄のほか、スモールセル向け無線モジュールを手掛ける住友電気工業 <5802> やアンテナメーカーのヨコオ <6800> 、日本アンテナ <6930> [JQ]、電気興業 <6706> などへの関心が高まることになりそう。また、日本電産 <6594> も5G向けアンテナへの参入を発表したことで注目される。

●成長が期待されるローカル5G

5Gでは、通信事業者とは別に、企業や自治体が、自らの建物や敷地内限定で5Gを活用できる新たな仕組みである「ローカル5G」が注目されている。免許を取得後に総務省から割り当てられた専用の5G電波を利用できる仕組みで、19年12月24日には免許申請の受け付けがスタートし、その初日にはNEC <6701> や富士通 <6702> 、東京都などが相次いで申請を行った。

そのほかにも、パナソニック <6752> や東芝 <6502> [東証2]がローカル5Gを使った「スマート工場」サービスへの参入を表明しているほか、住友商事 <8053> は、インターネットイニシアティブ <3774> とローカル5Gの新会社を立ち上げ、ケーブルテレビ局などと組んで300社以上への導入を目指している。更に、19年11月に行われた「ローカル5Gサミット」には東陽テクニカ <8151> がローカル5Gの設計・構築・運用を支える各種測定器やシミュレーションツールを出展していたことが話題に上り、注目度が高まった。

●電子部品や半導体関連などにも大きなインパクト

5Gの普及は半導体や電子部品にも大きなインパクトを与える。例えば5Gの周波数帯は、4Gで使われてきた3.6ギガヘルツ以下の周波数帯ではなく、3.7ギガや4.5ギガヘルツ、28ギガヘルツ帯が利用される。高い周波数を使うため、電子機器の高周波対策も必要になり、MLCC(チップ積層セラミックコンデンサ)最大手の村田製作所 <6981> ではこれに対応するため樹脂多層基板「メトロサーク」を開発するなどしている。また、コンデンサをはじめ5Gを制御するための高性能電子部品が必要になることから、同分野で技術開発に強みを持つTDK <6762> 、アルプスアルパイン <6770> 、太陽誘電 <6976> 、京セラ <6971> 、日本ケミコン <6997> などの活躍の場も増えそう。更に5G対応の高周波数化と広帯域化を可能にするアナログ光伝送装置を開発する多摩川ホールディングス <6838> [JQ]なども注目だ。

このほか、5Gによって高精細動画や各種の情報のやり取りが増えれば、ユーザーの近くのアクセス系(端末と基地局のネットワーク)に小型データセンターが大量に必要になり、需要を刺激することになる。データセンター向けメモリー需要の拡大で恩恵を受けるディスコ <6146> 、アドバンテスト <6857> 、東京エレクトロン <8035> なども関連銘柄といえる。

●通信制御系システムにもビジネスチャンス

5Gに関するシステム投資の代表的な分野である通信制御系システムも、インフラの整備に伴いビジネスチャンスが広がろう。独立系の通信制御ソフト開発最大手である富士ソフト <9749> とその子会社のサイバーコム <3852> 、通信制御系と業務系(オープンシステム)の両方のソフト開発を手掛けるアルファシステムズ <4719> 、モバイルインフラ向けシステム開発や組み込み系ソフト開発を行うアイ・エス・ビー <9702> なども商機拡大が期待できそうだ。

★元日~6日に、2020年「新春特集」を一挙、“26本”配信しました。併せてご覧ください。

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